「この年齢からが本番」母親役の枠を超えて 筒井真理子が語る“パイオニア”としての覚悟【ドラマTopics】

TBS NEWS DIG Powered by JNN
2025-11-28 13:09
「この年齢からが本番」母親役の枠を超えて 筒井真理子が語る“パイオニア”としての覚悟【ドラマTopics】

映画やドラマを通じて“母親”という役の枠を超えた演技を見せてきた筒井真理子さん。 『笑うマトリョーシカ』(2024年・TBS系)、『愛の、がっこう。』(2025年・フジテレビ系)と、母としての視点だけでなく、人生を見つめる女性像を丁寧に描いてきた。

【写真で見る】波留さんや川栄李奈さんらとの共演シーンも ドラマ『フェイクマミー』より

現在放送中の『フェイクマミー』(TBS系)では、娘を心配に思うあまりきついことを言ってしまう母親役を演じる筒井さんが、変わりゆく時代の女性像、そして母親という“くくり”をどう捉えているのかを熱く語った。

年を重ねても母親役に収まらないために

近年、母親役を演じる機会が増えている筒井さん。「昔からよく言われていることですが、ハリウッド(アメリカ)でもどこの国でも、女優は年を取ると母親役しかなくなる――という“定説”のようなものがあります」と切り出す。

「ドキュメンタリー映画『デブラ・ウィンガーを探して』(2002年・アメリカ)でも描かれていましたが、男性俳優は年を重ねてもさまざまな役柄がありますよね。でも女性は“母親”という枠に収まっていく。それって、ちょっと悲劇的だなと思っていました(笑)」と静かに首をかしげる。

だからといって彼女はそこにとどまらない。「時代は変わってきています。母親役ばかりを提供されても、見る側も演じる側もつまらない。だから私は“変えていく側”――パイオニアになりたいと思っています」。

母親も1人の人間として描かれる時代に

近年は“母親としての役”というより“1人の人間としてのキャラクター”を演じる機会も増えたという。

「子どもは誰しも誰かの“子ども”ですし、母親も“誰かの母”というくくりに過ぎない。大事なのは、1人の人間としてどう生きているか。例えば、娘と一緒に旅をする母親の成長物語があるとしたら、最近は“母もまた娘と成長していく”というような作品が増えてきました。大人になってもいくらでも成長できる。そういう物語が増えているのはうれしいですね」とほほ笑む。

かつて“お母さん”といえば、割烹着姿でどっしりと構える存在が定番だった。

「本当は誰だって“母親”や“父親”というものだけを演じたいわけではないと思うんです。みんな“1人の人間”を演じたい。それがもっと以前から深掘りされていたら、女性も役者ももっと生きやすかったんじゃないかな」と目を細める。

そして、「これからはそういう時代になると思います。私もこの年齢からが本番です!」と声に力を込めた。

難しい母親役にも臆せず向き合う姿勢

筒井さんは、自身が母親ではない立場からも丁寧に役と向き合っている。「姉や友人など、子どもを育てている方たちにじっくり話を聞くようにしています。お母さんと子どもの関係って本当にそれぞれ違う。母親という存在を理解するために、できる限りいろいろな境遇の方から話を伺うようにしています」と語る。

さらに、「母親役を演じる機会が増える中で、相手役の娘や息子といった子どもたちのキャラクターのバックグラウンドが自然と豊かに膨らんでいくように心がけています」と続ける。

“母親役”であっても、“人間を演じる”という根本は変わらない。

「役柄に似ている方がいたら、分からない気持ちをそのままにせず、すぐ聞くことにしているんです。役作りの方法はどんな役でも同じですね」。

過去には、ドメスティックバイオレンス(DV)を行う母親という難しい役にも挑戦した。

「その時は心理学の本を読んだり、専門の先生にお話を聞いたりしました。そういう行為の根っこには、愛情の欠如や、かつて自分も被害を受けた経験が要因の一つだと仰っていました。そうした背景を理解しないままセリフを言うだけでは、ただの上滑りな“演技”になってしまう。だから私は必ず掘り下げるんです」と真摯に語る。

「ただ、見ている方に“頑張っている感”は伝わらないほうがいいと思うんです。何事もなく自然に見えることが一番。苦労が見えたら興ざめしてしまいますからね」。その言葉に、長年積み重ねてきた品格がにじんでいた。

若き日の思いを役者として表現する

“パイオニア”として、今後挑戦したい役柄を尋ねると、筒井さんは笑顔で力強く宣言してくれた。

「“これ、女性がやるか?”と思われるような役をやりたいです。でも、それがまったく不思議に見えないように演じたい。いまは女性が総理大臣になった時代ですからね」。

学生時代を過ごした40年以上前、女性は社会の中で多くの制約を受けていたという。

「当時、女性でも“バンカラ(明治〜昭和初期の学生文化で硬派な精神を指す。言動や身なりが粗野なのが特徴)”気質の人が多い大学に通っていたんです。使い古した雪駄を履いたような女子大生が学生運動で配るために“ガリ版(謄写版の愛称で、ロウを塗った原紙をヤスリ盤の上に置き、鉄筆で文字や絵を刻んで作る簡易的な印刷機)”でビラを刷っていたりして。その人たちは当時の男女格差や社会の圧力さえなければ、バリバリ働くような社会派の記者になっていたかもしれない。でも社会に出た途端、お茶くみをしたり、“女のくせに”と言われたりした、そんな時代でした」。

筒井さんはその思いを役者としての信念に重ねる。

「本当は私と同世代でもバリバリ仕事ができる女性は潜在的にたくさんいる。その人たちの代弁者になりたい。あの時の社会構造につぶされなかったらこうなったはず、というリアルを伝えられたら」。

自身の役者としての心境にも触れる。

「自分でも“社会派っぽい役者なのかも”と感じるところがあります。本当はそういう役柄のほうが似合うのに、細面だからか若い頃はかわいらしい役をやったりしていました。今はようやく自分らしく生きられている気がします」。

『フェイクマミー』で描かれる人間らしい成長

『フェイクマミー』で筒井さんが演じる花村聖子の東大卒の一人娘・薫(波瑠)とベンチャー企業の社長・日高茉海恵(川栄李奈)が“子ども(茉海恵の一人娘・いろは/池村碧彩)を思って禁断のニセママ契約を交わす”という決断について尋ねると、筒井さんは少し考え込んでから口を開いた。

「彼女たちの思いとしては理解できる事もあります。でも、いろはちゃんがうそをつかなくてはいけないというのは切ないですよね。教育上、うそがいつしか本当になってしまわないといいなと思うんです」。そう話す声はやさしい。

「夢を叶えるために、ちょっと背伸びしたりハッタリを言ったりすることもある。それが成長につながることもある。禁断の契約や、うそがもたらす信頼関係も、一つの“成長のかたち”なんだと思います。私が演じる聖子は、そういうコミュニティを娘に与えてあげられなかった。見守りたかったけれど、見守れなかった――そんな気持ちで物語の行方を見守っています」。

最後は静かにほほ笑みながら、「親子というのは、形を変えてでも支え合うもの。そんな思いが、作品から伝わればうれしいです」と結んだ。

母親という枠を超え、1人の女性としてのキャラクターを描き続ける筒井さん。難しい役柄にも真摯に向き合い、登場人物の内面や背景を丁寧に掘り下げる。その積み重ねが、作品の説得力と温かみを支えている。

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