宮藤官九郎が主演・阿部サダヲ×磯山晶Pと再タッグ 『新年早々 不適切にもほどがある!』が問いかける“今”と“これから” 【ドラマTopics】

宮藤官九郎が描く脚本は、ユーモアたっぷりの個性豊かなキャラクターたちが登場し、世相を反映した作品が多い。これまでさまざまな作品で脚本賞を受賞してきた宮藤が2024年に脚本を担当したTBS系金曜ドラマ『不適切にもほどがある!』では、「東京ドラマアウォード2024」脚本賞、「第33回橋田賞」を受賞した。
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宮藤はなぜ時代背景や社会情勢を反映したストーリーを描くのか。その裏には、「SNSをやらない」という宮藤ならではのこだわりがあった。
現代と未来、そして市郎の“意識の揺らぎ”で描く新たな構成
――1月4日(水)にスペシャルドラマ『新年早々 不適切にもほどがある!~真面目な話、しちゃダメですか?~』(TBS系)が放送される。脚本制作にあたって、連続ドラマからアップデートしたことや、一貫して大切にしたことを教えてください。
アップデートしたこと、何と言ってもインティマシー・コーディネーター(演者の尊厳や心身の安全を守る職種)が入ったことですね。遅いくらいですけど。根本的なテーマは連ドラの時から変わっていません。小川市郎さんが現代にやって来て「頑張れって言っちゃダメなのか」と言うと、どうしても“昭和は良かった”という主張に受け取られがちですが、僕が言いたいのは断じてそういうことではなくて、“どの時代も、今を良くしようと頑張っている人たちがいる”ということです。誤解されないよう、そこはより強く意識しました。
市郎さんの意識が少しずつ変わっていくように連ドラを作っていったのですが、今回は久しぶりに現代に来た設定なので、スタートは、ちょっと意識が戻っている感じになっています。連ドラでは1986年と現代を描きましたが、今回は現代と10年後の未来の話。今がむしろ“ちょっと過去”のように見える構成になっているのも、違いの一つです。
――本作を担当する磯山晶プロデューサーと話し合った中で取り入れたアイデアやエピソードはありますか?
政治の話をすることが“タブー”みたいになっている風潮に違和感ありますよね、というところからスタートしました。芸能人が政治的発言をすると炎上する。報道番組や選挙番組でも、全てを平等に扱おうとして、結果的に何も伝わってこないようなことが多い。きっと報道局に異動となった市郎さんの孫、渚(仲里依紗)もそこに違和感を覚えるだろうし、多分多くの人もそう思っているんじゃないかなと感じたんです。
日本人は、飲み会などくだけた場でも支持政党の話などはあまりしないですよね。海外では、仲の良い友人同士、恋人同士ですら、違う政党を支持していても普通に付き合えるみたいです。そういう“話しづらさ”をテーマにしようと、わりと早い段階でサブタイトルは「真面目な話、しちゃダメですか?」が決まりました。本当は「政治の話、しちゃダメなんですか?」でも良かったんですけど、もう少し広い意味を持たせようとなりました。
江口のりこさん演じる平じゅん子という野党の政治家が、総理大臣になるかどうかという瀬戸際である事件が起こる。渚がその出来事に一番関わります。連ドラのときからの命題である市郎さんの娘、“純子(河合優実)の未来を変えていいのか”というテーマにもつながっていきました。そこは連続ドラマとつじつまを合わせるのが難しかったです。
妊活、政治、SNS――“言いにくいこと”をあえて描く理由
――政治だけでなく、妊活やSNSなど、連ドラに引き続きさまざまなテーマも盛り込まれていますね。
自分がすでに最先端じゃないのは理解してます。SNSもやっていないし見ないし。でも、常に今を生きる人の感覚で書かないといけないと思っています。
妊活も、連ドラの時に扱ってみて、反対側から見ると“そう見えるのか”と勉強になりました。ただ、いろいろな意見を全て聞いていたら、なにも書けなくなってしまう。書きたいことがどんどんぼやけていくので、そこは見失わないようにしています。
SNSで炎上する話題やその反応も、連ドラ放送時(2024年1月)とはもう違いますよね。未来の人が見たらどう思うのか、ということも考えました。
――阿部サダヲさん演じる市郎がさまざまな問題を言葉にしますが、代弁してくれている感覚はありますか?
第1話が「頑張れって言っちゃダメですか?」、第2話が「一人で抱えちゃダメですか?」と、“~ダメですか?”シリーズのサブタイトルをつけたのは、僕自身、全部“ダメ”なんだってことは分かっているけれど、それを口に出すことすらダメなのは息苦しいなと感じて。市郎さんくらいは言ってもいいかな、と。なんでダメなのか、考えてみませんか?と提示したかった。
阿部くんの屈託のなさというか、ライトだけどちゃんと気持ちが伝わる感じが大きいです。阿部くんがやっているから許されている、という部分もありますし。
――「バカヤロー」「バカヤロッ」など、セリフ表記の違いは意図的に入れていますか?
意図的ですね。阿部くんは昔からセリフ一つとっても音の違いをすごく大事にしてくれる。「ひらがな」「カタカナ」「漢字」でのニュアンスもきちんと汲み取って演じてくれるので、僕も無意識に“こう書けば伝わるだろう”と思って書いています。長年一緒にやっている信頼ですね。
“完璧じゃない政治家”のリアルを――江口のりこが体現する人間味
――江口のりこさんが演じる都議会議員・平じゅん子について、キャラクター設定でこだわった点は?
江口さんの持つ誠実なイメージが、恋愛に揺れる姿をより印象的にしてくれるだろうと。さらに、歌ったり踊ったりするイメージもないから、いざそういう場面になるとハラハラする感じがして好きなんです。
本当に、江口さん以外考えられなかったですね。危うさと人間らしさがあって、そんな人が政治家というのが今回の肝かなと。渚から見ると憧れの存在だけど、個人的にはいろんな思いを抱えている。その対比が面白い。お正月から「大丈夫かな」と思うようなシーンも書きましたが、「もういいや」と(笑)。
――今回もミュージカルシーンがありますね。どんな意図で?
連ドラの時は各話のクライマックスがミュージカルという形でした。今回は2時間超えなので、どこに入れるか悩みました。「これ、こんなに歌っていいんだっけ?」と思いつつ(笑)、今回は時代を行き来できるので、少し自由に組み込みました。
年齢を重ねたからこそ描けた、変わらぬ信頼と新たな発見
――宮藤さん、阿部さん、磯山さんという3人だからこそ実現できたことは?
阿部くんと組むのは、TBSだと『タイガー&ドラゴン』(2005年)以来。主役で組むのはNHK大河ドラマ『いだてん』(2019年)以来です。実はそんなに多くないんです。だから連ドラの第1話を書いた時に「主人公なのに、こんなに口が悪くていいのかな?」と話しました(笑)。
でも、阿部くんなら大丈夫だろうと。第1話を見た時、切れ味はもちろん、思った以上に哀愁が出ていて、ああ、知らない間にお互い年齢を重ねていたんだなと感じました。
コンプライアンスやSNSなど、誰もが発言に慎重になる時代。宮藤が“言葉の自由”と“人間らしさ”を描く本作は、笑いの中に鋭い社会へのまなざしを忍ばせている。