進行する「二季」化。“無かった秋”を考える~TBSの専門家が分析「データからみえる今日の世相」~【調査情報デジタル】

今年(2025年)の新語・流行語大賞(注1)が12月1日に発表され、トップテンに「二季」がランクイン。大賞Webサイトいわく「春と秋の存在感が薄く」なり、「多くの人が『四季でなく二季だな』と感じはじめた」とか。
【写真を見る】進行する「二季」化。“無かった秋”を考える~TBSの専門家が分析「データからみえる今日の世相」~【調査情報デジタル】
確かに今年の東京も、10月頃まで暑い日が続いていたかと思えば、急に寒くなっていきなり冬になった印象。「短い秋だった」というより「秋が無かった」というのが実感です。
既に師走となり、来年の話も聞こえる時期になってしまいましたが、だからこそ、秋らしい秋を味わえなかったことを惜しんでおきたい。データを紹介しながらあれこれ考える本コラムとしては、人々の「秋」への思いをデータで確かめていきたいと思います。
好きな季節のトップは「秋」
季節についてのシンプルなデータとして「好きな季節」があります。TBSテレビが毎年行っているTBS総合嗜好調査(注2)では、春夏秋冬から好きな季節をいくつでも選んでもらう質問を実施。
24年の東京地区の調査結果では、「春」39%、「夏」18%、「秋」47%、「冬」16%で、秋の人気が断トツ。
ちなみにその10年前、14年の同じ質問の結果は「春」46%、「夏」28%、「秋」40%、「冬」11%で、ちょうど「春」と「秋」の数字が入れ替わった感じです(注3)。
「夏」の人気が減っているのは、昨今の極端な酷暑の影響だろうと思いますが、「春」人気と「秋」人気の交替理由はすぐには思いつかず。興味深いですが、今回のテーマは「秋」なので、その話はまた今度。
約半数に好まれる「秋」。そのイメージをデータで深めてみます。
「秋の色」ってどんな色?
TBS総合嗜好調査で他にある季節の質問は、「その季節を表す気分や感じに近いと思う色」というもの。15個の選択肢(「この中にはない」含む)から、その季節にあてはまる色を1つだけ選んでもらいます。本コラムでは、過去に「春」や「夏」の色を取り上げました。
今回は「秋」について、10代・30代・50代・70代と4つの年代で集計してみたところ、結果は次の棒グラフのようになりました。
全体としては「ちゃいろ(茶色)」や「オレンジ」の選択率が高い印象で、それに「あか(赤)」や「きいろ(黄色)」、「ベージュ」が後続。
特に茶色は、どの年代でも4人に1人が秋にふさわしいと回答。しかし、その他の色には年代差がみられ、オレンジや赤は比較的若い層の選択率が高いものの、70代では低調。逆に特に70代で選ばれたのが黄色でした。
「なぜその色が秋の感じなのか」という理由は尋ねていないので、ハッキリしたことはいえませんが、枯葉や落ち葉から茶色が、紅葉からオレンジや赤、黄色がイメージされているのでしょうか。オレンジは柿やミカンなど、秋に出回る果物のイメージもあるかも。
「秋の日は釣瓶(つるべ)落とし」という通り、すぐ日が落ちる秋。赤々とした夕焼けに「もう暮れてしまうのか」ともの悲しくなったりして。
秋といえば紅葉。で、その次は?
TBS総合嗜好調査では、「色」の他にも「その季節にふさわしいと思うもの」を尋ねています。17個の選択肢(「この中にはない」含む)から、あてはまるものをいくつでも選んでもらう質問です。
ここでは、10代・30代・50代・70代の4つの年代を男女にわけ、それぞれのベスト5を集計。男性10代は5位が2つになりましたが、その結果が次の棒グラフです。
これを見ると、男女全ての年代で断トツの1位が「紅葉」。「秋の色」の分析でも触れましたが、赤や黄色の色様々な紅葉が「秋らしい」ことがこちらでも裏付けられた感じです。
2位以下は性別・年代によって様々で、若年層では「ハロウィン」が高位にランクイン。女性の10代・30代では半数が、男性10代でも3人に1人がハロウィンを秋にふさわしいと感じるほどに馴染んでいます。
同様に若年層でランクインしているのは「やきいも」。夕焼けがもの悲しいような風情は微塵もなく、全開の食欲がいっそすがすがしいほど。
また、男性だけ全世代で「運動会」(注4)がランクイン。一方、女性では「コスモス」が30代以上の各年代でランクイン。年代でも男女でも、それぞれの「秋への想い」があるのだなあと実感。
そして、少し違った観点からグラフを眺めると、他の性年代に比べて男性の10代や30代では、2位以下の項目の選択率が少ない印象です。「あれも秋らしい、これも秋らしい」と連想するものが少ないのか……?
若年、そして男性で秋イメージが貧困
若年男性は、秋のイメージが貧困なのか?これを確認しようと行ったのが「秋にふさわしいと思うもの」の選択数に注目した集計で、結果は次の帯グラフの通り。
これを見れば一目瞭然。「秋にふさわしいと思うもの」の数が、若年層ほど少なく、年配層ほど多くなっています。
こうした傾向は男女ともに見られますが、同年代で男女を比べると、男性より女性のほうが選択数が多い様子。つまり、女性のほうが男性より「あれも秋らしい、これも秋らしい」と連想するものが多い人が多く、それは年代が高まるほど増えるということ。裏を返せば、若年男性が「秋」で思いつくのは紅葉か、せいぜいハロウィンくらいという感じ。
「スポーツの秋」「読書の秋」「食欲の秋」と、気候のよい秋は何かをするのにちょうどよい季節。それが無い「二季」では、極めて暑い夏と極めて寒い冬を生き延びるのに精一杯で、季節を味わうどころではなくなること必至。
その前に、秋のイメージが「あんな楽しみもこんな風情もある」という豊かなものから、画一的で痩せたものになっているとしたら、失われて惜しいという気持ちも弱いのではと危惧します。
しかし、年配層で秋イメージの豊かな人が多いのが、人生経験の多さによるものなら、若年層の秋イメージも年を重ねるとともに豊かになるかも。
それにしても、二季化は困る、地球温暖化は何とかすべき、という思いを強めるためにも、「秋らしい秋」が味わえたらよかったのですが。
注1:現在の正式名称は、〈「現代用語の基礎知識」選 T&D保険グループ 新語・流行語大賞〉です。
注2:TBS総合嗜好調査は、衣食住から趣味レジャー、人物・企業から、ものの考え方や行動まで、ありとあらゆる領域の「好きなもの」を調べる質問紙調査です。TBSテレビが、東京地区(1975年以降)と阪神地区(1979年以降)で毎年10月に実施し、対象者年齢は、1975年が18~59歳、76~2004年が13~59歳、05~13年が13~69歳、14年以降は13~74歳となっています。
注3:2024年調査も14年調査も、実施時期は10月、対象は13〜74歳男女です。東京地区の回答者数は24年が1,281人、14年が1,286人でした。記載した数字は小数第一位を四捨五入しています。
注4:選択肢の正確な表記は「運動会(体育祭)」です。
引用・参考文献
●「現代用語の基礎知識」選 T&D保険グループ 新語・流行語大賞
<執筆者略歴>
江利川 滋(えりかわ・しげる)
1968年生。1996年TBS入社。
視聴率データ分析や生活者調査に長く従事。テレビ営業も経験しつつ、現在は法務・コンプライアンス方面を主務に、マーケティング&データ戦略局も兼任。
【調査情報デジタル】
1958年創刊のTBSの情報誌「調査情報」を引き継いだデジタル版のWebマガジン(TBSメディア総研発行)。テレビ、メディア等に関する多彩な論考と情報を掲載。原則、毎週土曜日午前中に2本程度の記事を公開・配信している。