世界動かすニッチ技術…知ってる?iPhone半分は日本製!“緑を塗る”創業時の技…世界を回す小さな池の大魚戦略【ニッポン経済の現在地②】【news23】

3夜連続でお伝えする「ニッポン経済の現在地」。2回目のキーワードは「“ニッチ”な技術で世界を制する」です。最新のiPhoneにも搭載された極小チップ。昔からある技術を応用したものですが…ここに、日本経済の“勝ち筋”がありました。
iPhoneの半分は日本製 世界を動かすニッチな技術
かつてカセットテープでトップシェアを誇ったTDK。今、この会社が再び存在感を高めています。
今年9月に撮影された写真に写っていたのは、アップルのティム・クックCEOに自社をアピールするTDKの齋藤社長です。
実はアップルの極秘研究施設が横浜市にあり、写真はそこで撮影されました。この日、日本のメーカー4社が招かれ、それぞれの技術をクックCEO自ら称賛したといいます。
なぜ今、TDKは世界のアップルから称賛されているのでしょうか?
今年9月に発売された最新のiPhone。専門家に実際に分解したものを見せてもらいました。
フォーマルハウト・テクノ・ソリューションズ 柏尾南壮 CEO
「iPhoneにおいてはほとんど日本製。日本なしではスマホは作れない」
最新のiPhoneには日本製の部品が1300個近く使われていて、圧倒的な存在感を示しています。
柏尾 CEO
「昨今の台湾有事の話も報道されましたが、あの国(中国)に何かあった時の電子部品の調達先として日本の立場・ポジションは上がる」
中でも、重要な部品を作っているのがTDKだといいます。
柏尾 CEO
「日本が強いのがカメラ回り。TDKの『TMR(磁気抵抗)センサー』」
「TMRセンサー」とは、カメラのオートフォーカスや手ぶれ補正を担う部品です。
“磁性”で世界シェアNo.1 アップルに認められたセンター
長野県にあるTDKの工場。特別に撮影が許され、初めてテレビカメラが入りました。
エアシャワーの後に手洗い。そして再びエアシャワー。徹底的に埃を落とした人だけが入室できるクリーンルームです。
細かな製造工程は機密ですが、唯一撮影が許されたのが…
TDK「TMRセンサー」製造 伊藤範之 統括部長
「TMRセンサーをつくるうえで、非常に重要なパターン(素子の形)を作る装置」
そして、いくつもの工程を経て完成するのが、米粒よりもはるかに小さく、指先に乗せても気付かないくらいの「TMRセンサー」です。
TDK「TMRセンサー」事業 宮下勇人 統括部長
「我々の最先端の技術・情熱、全てをつぎ込んだものがこの小ささの中にある。これが我々の強み」
極小の中に凝縮された最先端技術をアップルは高く評価したのです。
会社の注目度は別の場面でも証明されました。
ラトニック商務長官
「TDKは250億ドル相当のAIインフラに不可欠な電子部品やパワーモジュールを作る」
対米投資についても、アメリカ側からの期待が高まっています。
会社はどのように成長してきたのでしょうか?
TDK 齋藤昇 社長
「社会がトランスフォーム(変化)していくわけだから、私達もトランスフォーム(変化)し続けていく」
会社は時代の変化に合わせ、主力製品を柔軟に変えることで成長してきました。
今は「TMRセンサー」といったスマホ向け部品がけん引。スマホ用電池は世界シェア6割です。
ただ、製品が変わっても、根底には創業から磨いてきた「磁性素材」を操る技術が
受け継がれています。
齋藤 社長
「磁性素材を生かしてカセットテープとかいろいろな製品が枝や木のごとく出てきているというのが当社の事業の変遷」
強みのある1つの技術を時代に合わせ、違う分野に生かす戦略。
同じように、1つの技術で世界をリードするニッポン企業がここにも…
“塗る”で世界シェアNo.1 基板に欠かせない緑
誰しもが見たことがある緑色の板、基板。この基板を“塗る”ことで世界を制した企業があります。
太陽HD エレクトロニクスカンパニー 峰岸昌司 CTO
「私達が作っているのは(基板の)緑色の部分。ソルダーレジストというところで世界No.1のシェアを持っている」
“ソルダーレジスト”とは、基板に塗られている緑色のインクのことです。特徴は、“電気を通さない”性質です。
基板の回路をソルダーレジストで覆うことで、回路の上に埃などが付着しても正しい電気信号を流すことができます。
これを支えるのが、創業時に手がけていた印刷用インクの製造技術です。
峰岸 CTO
「印刷用インキとソルダーレジストは、作り方はほぼ一緒。ただ使われている材料が違うだけ」
太陽ホールディングスは、創業時から磨いてきた“化学物質の配合技術”を活かしてソルダーレジストを作っていて、世界シェアは5割を超えています。
近年では、多様なニーズに対応するために、“貼る”フィルム型など様々なタイプを開発しています。
峰岸 CTO
「2番じゃこういう仕事はできない。1番であるからこそ、いろいろな客の話を聞けて、要求に応えることができる」
一方、飛行機の部品で世界シェア5割の企業があります。
“回転”で世界シェアNo.1 「これがないと世界が止まる」
旅客機には数百万点もの部品が使われていますが、安全運行を支える1つが…
ANA 整備センター 三浦遥希さん
「ベアリングというものがある。ベアリングがないと飛行機のオペレーションを支えられない」
ベアリングは機体のあらゆる場所に使われている重要部品です。一体どんな役割なのでしょうか?
ミネベアミツミ 貝沼由久 会長
「ベアリングというのは回転をスムーズにする、摩擦を小さくする、エネルギー効率を最大化するというところが一番重要なポイント」
試しに、ボールベアリングを使った車と使っていない車の模型を同時に走らせると、ボールベアリングを使った方はスムーズに走り続け、その差は一目瞭然です。
ベアリングは、モーターやキャスターなど“回る”もののほぼ全てに使われています。
時計などに使われる最小サイズはわずか直径1.5ミリ。
貝沼 会長
「我々のボールベアリングがないと世界は確実に止まります。我々のロットエンド(球面滑り軸受)がなければ飛行機は作れないし、飛べない」
創業当時から精密加工技術を活かして成長してきたミネベアミツミ。会長は「ニッチ市場」にこそ、日本企業の勝ち筋があると話します。
貝沼 会長
「『大海の中の大きな魚を狙う』のは非常に厳しい。『小さな池の中の大きな魚』を取っていくことが一つの成長戦略。日本の技術がなければ、世界が動かない立ち位置になる投資や方針が必要」
日本経済の“勝ち筋”? 眠れるモノづくりの資産
小川彩佳キャスター:
力強い言葉の数々でした。「我々の技術・製品がないと世界が確実に止まる」という言葉もありました。
小説家・真山仁さん:
「日本のものづくりは終わった」とよく言いますが、話が大きすぎる。「復活」という言葉もすぐ使われますが、多分、ものづくりというだけで気が遠くなるほどいろいろな物を作っていると思います。日本では世界中のものを全部作っていると言ってもいい。
問題は、それが最初の目的としての役目を終えた後、どう利用していくかを考える企業とそのまましがみついてる企業とで差が出てしまうこと。
藤森祥平キャスター:
最新版のiPhoneでも日本の部品数は世界でも突出していますが、金額面で見ると全体の9%しかない。この辺りが世界に発信できない部分なのでしょうか。
真山仁さん:
結局は心臓部を作っていれば、たった1個でもとんでもない金額が取れますよね。
他と違うことをずっと新しく開発する技術が必要なことが一つ。もう一つは、これを自分たちのベースとしてキープしつつ、製品化までいくというところが今の日本はすごい弱くなっています。
小川キャスター:
アピールしていく、力を見せていくところまでいくと何が必要になるのでしょうか。
真山仁さん:
日本は言われたものを作るのが非常に上手です。ところが、逆に言うと言われないと作れない。
いろいろなもののニッチを探すことの“探す”ことが苦手ですが、結果的に何を持っているかが分かれば探せる。
だから、変わっていく社会のニーズに応えなくてはならないのに、昔のままのものづくりしか見ていないのではだめです。まだまだ底力はすごいと思います。自分の足元に何があるのかをちゃんと見てほしいです。
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<プロフィール>
真山仁さん
小説家 2004年「ハゲタカ」でデビュー
近著に政治家のリーダーシップを描いた「アラート」