「年収の壁178万円」合意の舞台裏、破談寸前からの大幅譲歩 高市総理が決めた「最後の一打」

TBS NEWS DIG Powered by JNN
2025-12-27 06:30
「年収の壁178万円」合意の舞台裏、破談寸前からの大幅譲歩 高市総理が決めた「最後の一打」

今月18日、自民党と国民民主党は来年度の税制改正で焦点の一つだった「年収の壁」を178万円へ引き上げることで合意した。紆余曲折を経て合意に至った今回の引き上げは、自民党側が国民民主党側の主張に大きく譲歩した結果となった。

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税制協議を経て親密さが増す両党は来年、連立を含めた新たな協力関係に入る可能性までささやかれているが、その背景に何があったのか。

178万円目指す方針では一致も「先が見えない」・・・迫るタイムリミット

税制協議の最終局面を迎えた今月18日は朝から慌ただしかった。衆院第二議員会館7階にある自民党の小野寺税調会長の事務所は、多くの財務省主税局の幹部でごった返していた。自民・日本維新の会の与党は翌19日に税制改正大綱を決定する段取りで、この日が協議の事実上のタイムリミットだった。残された課題となっていたのが、国民民主が求める年収の壁の178万円への引き上げだ。

午前9時、国民民主党の古川税調会長が小野寺氏の事務所を訪れ、最終日の協議が始まった。しかし会談はわずか10分。小野寺氏の事務所を後にした古川氏は、不機嫌そうに記者からの問いかけにもほとんど応じなかった。

その1時間後に今度は小野寺氏が古川氏の事務所を訪れたが、こちらも会談は10分。小野寺氏は周囲に「先が見えない。大変だ」とこぼした。

これまでの協議で両党は178万円への引き上げを目指す方針では一致していたものの、隔たりがあったのは「減税効果を大きく受ける層を、どの所得層まで広げるか」という点だ。

国民民主党の玉木氏によると、当初、政府・与党が提示したのは最大の基礎控除を受けられる対象を年収300万円以下とするものだったという。
低所得層に手厚くしたい自民党に対し、国民民主党は中間層も含めた引き上げを求めていて、溝は埋まらない状態が続いていた。

18日中に合意できなければ破談となる。関係者によると昼の段階では国民民主を抜いた各党との合意文書まで作成していたという。協議を重ねる小野寺氏の顔には疲労が浮かび、周囲に対して、ゴルフに例えた表現で交渉の難しさを吐露していた。
「グリーンは見えるんだが、とても届かない」。

「これで飲んでくれ」国民民主に“大幅譲歩”で合意へ

玉木代表「昼の1時くらいまでは、もう膠着して駄目だと思っていた」(22日出演・TBS「ひるおび」)

停滞ムードが漂っていた交渉の潮目が変わったのは、18日の午後に入ってからだ。

小野寺氏と電話でやりとりをしていた高市総理が、国民民主が求める中間層への拡大を受け入れる考えを伝えたのだ。さらに自動車の購入時にかかる「環境性能割」の廃止も国民民主側の主張を取り入れることになった。環境性能割は高市総理が「2年間の停止」を訴えていたもので、「廃止」は最終局面で譲った形だ。

午後2時半。「これで飲んでくれ」。再び、古川事務所を訪れた小野寺氏は合意文書案を突きつけた。そのおよそ30分後、麻生副総裁に協議状況を説明している時、古川氏から受け入れる旨の電話を受けた。麻生事務所から出てきた小野寺氏は周囲に「合意できた」と興奮気味に語った。

その後、両税調会長は正式に合意を交わした。両党の合意では最大の基礎控除を受けられる対象を年収665万円以下まで引き上げることになった。

国民民主が求める中間層も含まれる結果に、古川氏は「ミッション・コンプリートだというふうに思っております」と話すと、小野寺氏は古川氏の顔を見て「良かったね」と応じた。

党首会談での合意文書に記された「早期成立」の文字

国民民主党の玉木代表との党首会談で合意文書に署名したあと、高市総理は今回の決断の理由を次のように説明した。

「私自らが強い経済を構築するという観点から、やはり所得を増やして消費マインドを改善し、事業収益があがる。そういう好循環を実現するために最終的な判断を下した」。

対する玉木代表も「ともに関所を乗り越えることができた。高市総理の政治決断にも感謝と敬意を申し上げたい」と高市総理を称えた。最後のカップインは高市総理が決めたものだった。

ただ、今回の決断に対し政府・与党内からは「あんな結論を想定していた人はいない」(政府関係者)、「国民民主にベタ折れだ」(自民党議員)という声もあがっている。なぜここまで政府・与党は譲歩したのか。その大きな理由の一つが、来年度の税制改正法案と予算案への協力だ。

今回、合意した文書の最後には「来年度の税制改正法案及び来年度予算について年度内の早期に成立させる」との文言が入っている。

玉木代表は「いまの段階でモノ(予算案)もないのに、賛成ということにはならない」としつつも「当然成立に向けて協力していく」考えを示していて、自民党内からは「予算と税に賛成してもらえるということだ」という受け止めが広がっている。

関係者によると、高市総理が合意文書をめぐり小野寺氏と電話した際「あなたはこれで合意すべきだと思うか」と尋ねると、小野寺氏は「税だけでなく予算への賛成は大きい。これは進めるべきです」と答えるやりとりがあったという。少数与党の自民党にとって予算成立が確約されることは、税制で大幅譲歩をしてでも得たい「果実」だった。

国民民主の玉木代表は合意後の会見で「政策を実現したパートナーとは信頼感も深まる。より広く、深くなるのは当然だ」と強調した。

今回の年収の壁を巡る協議で自民党と国民民主党は距離感を一気に近づけた。自民党内には国民民主との連立を前向きにとらえる声もある。今年、連立を組んだ日本維新の会とは「定数削減法案」をめぐって早くも関係にきしみが生じるなか、自民党は再び国民民主との連立を摸索するのか。2年連続で政界再編が起きるか、来年も注目の年になる。

TBSテレビ 報道局政治部 与党担当
島本雄太

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