「このままでは自分が壊れる」23歳で都会を逃れた青年は、なぜ氷点下20度の八ヶ岳に向かったのか…『自分をリセット』八ヶ岳の山小屋に生きる小屋番たちの思い

TBS NEWS DIG Powered by JNN
2026-01-09 06:32
「このままでは自分が壊れる」23歳で都会を逃れた青年は、なぜ氷点下20度の八ヶ岳に向かったのか…『自分をリセット』八ヶ岳の山小屋に生きる小屋番たちの思い

シリーズ「小屋番 八ヶ岳に生きる」【第1話】

国土の7割を山が占めるという「山国」日本。
全国に350を超える有人の山小屋があると言われている。

【写真を見る】標高2,550mにある根石岳山荘

こうした山小屋を営み、山を住処にし、山を自然を、そして登山者を守る人たち「小屋番」。
コンビニもない、車もない、自然と向きあう小屋番の日常は「過酷」そのものだ。
それでも山に魅せられ小屋番として、その「過酷」な道を選ぶ人たちがいる。

このシリーズでは、「コヤガタケ」と呼ばれるほどに山小屋が多い八ヶ岳で生きる小屋番たちの日々に迫る。

八ヶ岳・根石岳山荘、若き小屋番の冬

都会からアクセスもしやすく、初心者から上級者まで楽しめる八ヶ岳の中信高原国定公園。標高2,550mにある根石岳(ねいしだけ)山荘は、根石岳と箕冠山(みかぶりやま)の鞍部に位置している。

この根石岳山荘に向かう道のりは、冬場は時に過酷になる。
箕冠山山頂から山荘に向かって降りていく道は、距離は短いものの強風が吹くことで知られている。
台風の暴風域にあたる風速25メートルを超える風が吹くこともあるという。

「このままでは自分が壊れる」23歳で都会を逃れ八ヶ岳へ

強風に飛ばされそうになりながら、30kgを超える荷物を背負い山荘に向かう男性、佐藤誉起(さとうやすき)さん(28)。小屋番として働き今年で6年目になる。

都内の大学卒業後、都会で就職したものの、厳しいノルマと人間関係に悩む日々が続いた。「このままでは自分が壊れる」と思い、大学時代に夢中になった山に逃げ場を求めた。小屋番となることに父親は賛成したものの、母親は涙を流しながら反対した。それでも佐藤さんは山に向かった。「小屋番」を目指す佐藤さんの決意は揺るがなかった。

胸の高さまで積もった雪を掻き分け運ぶ冬の歩荷(ぼっか)

山荘で必要な食材や生活物資、燃料などを背中に背負い、山の麓から運ぶ歩荷(ぼっか)という作業。ベテランの小屋番でさえ「一番大変」と口にする冬山の歩荷にも、逃げずに向き合ってきた。

胸の高さまで積もった雪を掻き分け、食材や生活物資、燃料など、山小屋での生活を支える様々なものを背負い、麓から山荘へと一歩一歩登っていく。
大きな荷物はヘリコプターで運ぶこともあるが、空輸代が毎年5%程度値上がりする厳しい環境の中、日々の小屋の運営に必要な物資は人力で上げるしかない。

佐藤さんは、最初は「自分のために」小屋番という道を選んだが、今は「登ってくるお客さんのために」、「人のために」働いているのが楽しいという。

都会で壊れかけた青年が、八ヶ岳の吹雪の中で見つけた答え

1年を通して営業する根石岳山荘では、冬には過酷な作業が待ち受けている。氷点下20度にもなる屋外に一人出て、吹雪の中であっても、まつげを凍らせながらもストーブに灯油を補給しなければならない。うっかり肌を出しているとまたたく間に凍傷になってしまう。佐藤さんは過酷な仕事が待ち受けているのになぜ小屋番を選んだのか。

小屋番として働く人の多くは、家族が山小屋を運営していて跡を継ぐケースが多い。しかし、佐藤さんのように、街中の人間関係や仕事に疲れた若者や、情報過多の現代社会に疑問を抱き、スマホやパソコンから距離を取って山に救いを求める人も増えているという。離婚を契機に電話やメールが届かない場所を求め小屋番になった女性もいた。

『価値観をリセット』人生の選択肢として小屋番を選ぶ若者たち

「自分をリセットしたいのではないか」

硫黄岳(いおうだけ)山荘グループを営む浦野岳孝(うらのたかゆき)代表は、山小屋で働く若者を積極的に受け入れている。

浦野さんは自分のグループの山小屋で働く若者たちを見ながら、「コンビニが無いとか、すぐに買いたいものが買えないとか、物理的な制約の多いこの山という環境の中にあえて身を置くことで、物理的な環境から変えることで、自分をリセットしたいという若者が増えているのではないか」と感じている。

決して『逃げた』のではない。

山荘で働く若者たちは『価値観のリセット』や『自己の見つめ直し』という目的意識を持っている。働く条件などを吟味した上で、山小屋で働くことを主体的に一つの人生の選択肢として選んでいるという。

「嫌な自分も弱い自分も、自分を受け入れられるようになった」

6年前に「自分が壊れないため」と小屋番の道を選んだ佐藤さん。

様々な人が訪れる山小屋。
そこで登山客1人1人が背負ってきた過去の話などを聴いたり、命を守る小屋番として働く中で、佐藤さんは自分の中の変化を実感したという。

「嫌な自分も弱い自分も、自分を受け入れられるようになったこと、それが山に来て、一番変わったこと」佐藤さんは笑顔で語った。

シリーズ「小屋番 八ヶ岳に生きる」
【第2話】「飢えた鹿はトリカブトも食べる」”鹿に食いつくされる八ヶ岳の森” 山小屋で働く小屋番が抱く危機感「このままでは八ヶ岳の森が消えてしまう」
【第3話】遭難者の1割が死亡か行方不明「スマホばかり見て自分の実力を知らない」八ヶ岳の山小屋を守る小屋番の痛切な警告
【第4話】「遭難で何人も亡くなるのを見て悲しい思いをする方を無くしたい」八ヶ岳・唯一の山岳診療所が向き合う命 小屋番と山岳医が描く“無報酬ボランティア”からの脱却


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<プロフィール>
執筆者:永山由紀子
1989年東京放送(現TBSテレビ)入社。情報番組やドラマのディレクター・プロデューサーに従事。
企画・プロデュースしたドキュメンタリー映画
『小屋番 ~八ヶ岳に生きる ~劇場版』は、
1月9日(金)からヒューマントラストシネマ有楽町ほか~全国で順次公開、上映中

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