特殊詐欺被害1414億円で過去最悪…20・30代が「ニセ警察官」の標的に、オンライン化で逃げ切る「見えない詐欺集団」【Nスタ解説】
特殊詐欺による去年1年間の被害総額が過去最悪のおよそ1414億円となり、前年の2倍ほどに。さらに総認知件数も2万7000件を超え、過去最悪の数字となりました。
【データを見る】偽警察官詐欺の被害は30代が最多、次いで20代が多く…
特殊詐欺の実行役は「完全に『駒』」 元トクリュウ幹部が証言
警察庁が12日に発表した2025年の「犯罪情勢」。
オレオレ詐欺など特殊詐欺の認知件数は2025年の1年間で2万7758件と、前年比で約6700件増えて過去最悪に。さらに被害額も、過去最悪だった2024年から倍増し1414億円となりました。
急増する特殊詐欺。その背景には何があるのか。
2025年までトクリュウの幹部として特殊詐欺グループの中心にいたという人物に、話を聞くことができました。
トクリュウ元幹部
「『やられ名簿』っていうやつがあって、家族関係・仕事・資産が書いてあるので、それをネタに詐欺をしていた。福井県警を名乗ったり、青森県警を名乗ったり」
この元幹部が率いていたのは「ニセ警察官詐欺」。警察官になりすまし、「あなたは逮捕される」などと不安を煽って金を騙し取る、特殊詐欺の一種です。
実行役はすべて闇バイトで、応募が絶えることはなかったといいます。
トクリュウ元幹部
「こっちも捌けないくらい、どんどん人が集まってきた。切り捨ててもこっちの正体も分かっていないし、完全に『駒』」
組織の中でのやりとりは完全に匿名で、幹部が警察に捕まることは一度もなかったといいます。
トクリュウ元幹部
「捕まるのは第一線の受け子や出し子。僕ら(幹部)に被害はないだろうと高くくっていた」
現在はトクリュウとの関わりを断ったという元幹部。特殊詐欺は今後もなくなることはないだろうと話します。
トクリュウ元幹部
「今のやり方がだめになったとしても、絶対新しいやり方が出てくるはず。今後10年・20年・30年先も、ずっとこういうことはあるだろうと思う」
特殊詐欺被害が過去最悪に
高柳光希キャスター:
過去最悪になった特殊詐欺の被害。中でも多いのが、偽物の警察官による詐欺です。
去年の認知件数2万7758件のうち、1万936件、全体の4割ほどが偽警察官による詐欺だということです。年代的に詐欺に遭うのは高齢者が多いのでしょうか?
TBS報道局 社会部 塩田アダム 記者:
詐欺の被害者というと、多くの方は高齢者を思い浮かべると思います。オレオレ詐欺なども、息子や孫を語る手法でした。
ただ、この偽警察官詐欺では、30代が2221件と最多。次いで20代が多く被害に遭っています。実際に被害に遭ったのは若い世代でした。
高柳キャスター:
つい先ほども、私自身の携帯に海外の電話番号から着信がありました。出ていないのでわからないですが、もしかしたら、と頭をよぎりました。
井上貴博キャスター:
日本人にとって、警察という存在は特殊な気がします。「警察にお世話になる」という言葉もあるように、警察と聞くと信頼感や恐怖など、平常心ではいられないような感じがする。
TBSスペシャルコメンテーター 星浩さん:
警察から問い合わせがあると、答えなくてはいけないと思ってしまいます。
カンボジアに詐欺拠点 内情が明らかに
高柳キャスター:
手口も巧妙化しています。2月に入って、カンボジアの特殊詐欺拠点の内情が明らかになりました。
塩田記者:
カンボジア北部でタイとの国境沿いのオスマックという場所にあった拠点です。昨年末にタイの軍隊から空爆を受けて廃墟になったことを機に、内部が明らかになりました。
6階建ての建物なのですが、中国やオーストラリア、ブラジル、シンガポールといった各国の警察署を模したセットと、その制服が中から出てきました。さらに、かけ子が電話をかける部屋が数十か所あり、防音シートが張り巡らされた小さなブースがずらっと並んでいました。
6階建ての各フロアに部屋があり、部屋ごとに警察署のセットがあります。警察署だけでなく、銀行のセットなどもあり、それらを背景にテレビ電話をしていたようです。
出水麻衣キャスター:
そうなると、ブラジルやシンガポールでも特殊詐欺が横行しているのでしょうか?
塩田記者:
警察官なりすまし詐欺というのは、そういった国もターゲットで行われていると考えられます。
特殊詐欺にAIの悪用も
高柳キャスター:
さらに、詐欺グループはAIも活用し始めているということです。
塩田記者:
大阪府警などを語った実際の詐欺の映像ですが、男性の口元にご注目ください。一見すると口元に髭はないように見えますが、男性が動くと、一瞬髭が見える瞬間があります。
AIの加工フィルターを使い、本当はある口ひげを隠し、無いように見せているということなんです。
AIを使った事例は他にもあります。例えば「警察」とだけ書いた手帳に線を引き、間を空けておくと、喋っている時の顔をAIがリアルタイムで手帳にプリントする加工技術。
また、かけ子にタブレットを配り、電話を終えるとそこに次のターゲットが引っ掛かりやすいものを自動でリスト化して、個人情報などをまとめて配布するといったシステムを構築している犯罪組織もあります。
井上キャスター:
資料が既に作られているということでしょうか?
塩田記者:
「やられ名簿」と言って、年齢や住所、家族構成を書いた名簿があります。それに沿って、電話が終わった順にAIが自動で次のターゲットを決めて振り分けるというシステムがあるということです。
出水キャスター:
最先端技術が、そういう悪事に使われてるというのは腹立たしいですね。
TBSスペシャルコメンテーター 星浩さん:
どんどん犯罪がグローバル化していますが、取り締まる側は国単位でやっているから限界がある。そして、犯罪の方がテクノロジーを先行して、取り締まる側の方が遅れてしまっている。そこは早くキャッチアップしないと困りますね。
ニセ警察官詐欺 ありえない点は?
高柳キャスター:
VTRに出てきた被害者の男性は20代ということですよね。
塩田記者:
そうです。大阪府警を名乗る男から「あなたに逮捕状が出ている」とまず脅しが来ます。そして、逮捕状をビデオ通話で見せられる。その逮捕状の中に自分の氏名と住所が書いてあったことで信じ込んでしまった。
その後「資金調査をするからあなたの口座の残高を全て送ってくれ」と言われて、約100万円を振り込んでしまったという経緯です。
信じてしまうかなという気持ちもありますが、絶対にあり得ないことが3つあります。
まず1つは、警察はビデオ通話を容疑者とは絶対にしません。電話をかけることはあっても、「署に同行願えますか」といったやり取りです。
そして、画面越しに逮捕状や警察手帳を掲げることも絶対にありません。
また、資金調査という捜査はありますが、これは銀行に照会をかけるものであって、事件関係者に振り込ませることも絶対にありません。
この3つはおかしいのですが、危機感や不安感を煽られて被害に遭ってしまう方が相次いでいるのだと思います。
井上キャスター:
最先端技術が詐欺に悪用されるのは歴史の常ですが、今後オンラインで詐欺が完結することが出てくると思います。そうすると、現実世界の捜査をどうしていくのか。これは日本だけでなく、世界の問題だと思うのですが…
星浩さん:
前は「電話がかかってきても出ないようにする」「お年寄りは気をつけましょう」という単純なものでしたが、今の若い人は明らかにネットの世界なので、そちらの方にどういう対策を講じるか。おそらくまだ、そこは追いついていない状況だと思います。
塩田記者:
きょう発表された特殊詐欺の被害数は急増していましたが、実は検挙された件数と人数、検挙の規模は横ばいでした。被害額は倍増してますし、認知件数は1.3倍ですが、検挙は横ばい。
捜査関係者によると「これまでは被害者から直接お金を受け取る“受け子”や、被害者が送金したお金をATMから出す“出し子”など、現場に犯人がいたが、今はオンライン化している。被害者が高齢であってもインターネットバンキングで送金できてしまうし、送金されたものはすぐに暗号資産に変えられて足が追えなくなってしまう。現場で逮捕できる犯罪関係者がいなくなっていて、捜査の難易度がすごく上がっている」ということです。
急増する被害の中で、とにかく自分の身を守ることがより一層大切になっていくなと取材していて実感しました。
高柳キャスター:
被害額や認知件数が明らかになっていないものもあるということですよね。
塩田記者:
もちろんです。詐欺というのは、証拠がなくて被害届が受理されない事例も少なくないので、泣き寝入りしているケースがこれ以上にある、と考えることもできます。
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<プロフィール>
塩田アダム
TBS報道局警視庁担当
詐欺や組織犯罪を取材
星浩 さん
TBSスペシャルコメンテーター
1955年生まれ 福島県出身
政治記者歴30年