日本アニメの海外版で日本人声優の〝声〟のまま生成AIで吹き替え~大手声優事務所がAI音声生成企業とタッグ~【調査情報デジタル】

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2026-02-21 09:00
日本アニメの海外版で日本人声優の〝声〟のまま生成AIで吹き替え~大手声優事務所がAI音声生成企業とタッグ~【調査情報デジタル】

日本の声優がアニメなどで演じた声を自然な喋り方で多言語化することが生成AIで可能になった。声の権利を守りながら、日本のコンテンツをオリジナルに近いまま海外展開する取り組みが本格的に始まろうとしている。

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日本のアニメが海外で成長も、生成AIによる不正利用が課題に

海外市場で大きく成長している日本のアニメ。日本動画協会が2026年2月4日に発表した「アニメ産業リポート2025 サマリー版」によると、2022年に1兆4592億円、2023年に1兆7222億円、そして2024年は2兆1702億円と拡大している。

特に歴史的な大ヒットを達成したのが、2025年に公開された「『鬼滅の刃』無限城編 第一章 猗窩座(あかざ)再来」だ。同年11月、日本映画で史上初めて全世界興行収入が1000億円を突破。特に北米では、日本アニメ映画史上初めて2週連続1位を記録するとともに、外国映画の歴代興行収入記録を25年ぶりに更新した。

アニメは映像とともに、声優も重要な役割を担っている。しかし、海外での上映では、現地の声優による現地言語への吹き替え版や字幕版などが用意されている。もしも「鬼滅の刃」の竈門炭治郎や妹の禰豆子といったキャラクターが、オリジナルの日本人声優の声のまま現地の言葉で話すことができれば、作品の魅力をもっと伝えることができるのではないか。

実は、オリジナルの音声の多言語化は、生成AIの進化によって技術的に可能になっている。ただ、生成AIは誰でも利用できるために、インターネットのサイトやSNSではアニメの画像や音声が無断で盗用される事例が後を絶たない。日本のアニメとともに人気を集めている日本の声優の声も、不正に利用される例が国内外で増えているのが現状だ。

生成AIの活用で声優の新たな可能性を探る

日本の声優文化を守りながら、日本のコンテンツをグローバルに展開するにはどうすればいいのか。この課題の解決に向けて2025年12月に業務提携したのが、大手声優事務所の81プロデュース(冒頭の写真はグループ会社の音声編集をするMAスタジオ)と、AIによる音声生成技術をグローバルで提供するイレブンラボジャパンだ。

81プロデュースは1981年に創業。TVシリーズ「名探偵コナン」の江戸コナンや、「忍たま乱太郎」「ゲゲゲの鬼太郎(第5期)」などで主役を務める高山みなみ氏など、約450人の声優が所属している。養成所にも約200人が在籍しているほか、映像や音声の番組制作なども手掛けていて、アフレコやミキシングなどの技術者も含めて約160人のスタッフがいる。

老舗でもある大手声優事務所が、なぜ声を専門とする生成AIのグローバル企業と業務提携したのか。その理由を、代表取締役社長の南沢道義氏は「新たな可能性を探るため」と説明する。

「生成AIによってなくなると言われている仕事の一つに、声優も入っています。そういう意味では生成AIへの対応は避けて通ることができない問題です。どうすればいいのかをこの何年間か考えてきた中で、音声に関して高度な技術を持っているイレブンラボさんと出会いました。

声優のみなさんはできれば自分たちの声と、自分たちの芝居のスタイルを守っていきたいでしょう。一方で、海外展開に関しては、イレブンラボの技術は、自分たちの声を世界の言語に変える夢のような技術です。これまでと考え方を少し変えて、自分たちの新しい可能性を探ることが大事だと思いました」

声の生成で「正しいAIの使い方」を実現

イレブンラボジャパンは、2022年に英国で設立されたイレブンラボの日本法人。AIで音声を生成する高度な技術を持ち、インターネット上で誰でも利用できる音声AIのプラットフォームと、企業やアーティスト向けに最先端のAIオーディオツールを提供している。 

声を多言語化する方法は簡単だ。映像や音声のファイルを、プラットフォームに入れるだけ。自然な喋り方のまま、生成AIが指定した言語に変換する。音声の生成や多言語化は、権利者本人の同意および契約に基づいて行われる仕組みとなっており、無断利用を防ぐ運用が徹底されている。使用量に応じて料金が変わるサブスクリプションによる課金で、無料版も用意されている。

81プロデュースとイレブンラボは、2025年11月に設立が発表された「声の保護と多言語化協会(VIDA)」にも参加している。VIDAの大きな目的は、日本語の声優の声をAIによって30か国以上の言語に多言語化するとともに、AIによる声の無断生成や海賊版対策に取り組むことだ。

イレブンラボの技術はオーディオブックの音声生成や、テレビやラジオの音声の吹き替え、それに外国語学習アプリの「Duolingo」などにも活用されている。日本と韓国のジェネラルマネージャーを務める田村元氏は、81プロデュースとの業務提携により、AIを使った声の正当なビジネスを発展させたいと話す。

「私たちは声のAIを生業としていて、声の権利は本人のものであるというIP(知的財産)をきちんと守っています。ただ、声のAIを面白おかしく使う人は世の中にたくさんいます。倫理観もなく生成している世界とは違うことを訴えるためには、AIを使った声の正当なビジネスを発展させていくしかないと考えました。声優のみなさんにとっても、作品の受け手にとっても、ハッピーになる正しいAIの使い方を実現していきます」 

自然な言語でAIに演技指導ができる

イレブンラボの音声生成技術は、スタジオや機材、多くのスタッフなどを必要としてきたこれまでの音声アフレコのプロセスを、一台のパソコンで実現する画期的なものだ。それによりクリエイターは、より創造的な工程に時間を使うことができるようになる。

さらに、声優が発している日本語を、声優の声のまま他の言語に変換する。例えば、日本のアニメを英語版に変換する場合、25分番組であればファーストテイクは35分ほどで完成する。

単に変換するだけでなく、セリフの変更、それに演技指導も可能だ。演技力は声優の魅力の一つでもある。どのように演技指導するのかを田村氏に聞くと、その方法は「自然な言葉で指示するだけ」で、短いセリフの指導ならわずか数文字の記載で済むと答えが返ってきた。

「本格的な制作をする場合には、AIに対して演技の指示を出すなどして細かく調整することが可能です。他の言語に変換されたセリフを聞いて、日本語での演技をもっと再現したいと思えば、『ここで叫んで』とか、『恥ずかしそうに』とか、『囁くように』といった指示を出すことで、AIの演技力を高めることができます」

この演技の再現性の高さが、業務提携にいたった大きな要因でもある。南沢氏は、生成AIの活用が日本のIP収益構造を変え、声優の第二のビジネスの始まりになると期待している。

「日本のコンテンツはアニメーションを中心として、海外で大きく成長しました。その一翼を担っているのは声優たちだといつも言われます。しかし、コンテンツ産業の海外での売り上げが6兆円規模と言われている中で、海外で作品が売れても海外版は現地のスタッフが吹き替えているので、私たちの業界にロイヤリティが入ることはほとんどありません。あくまでも出演料がメインの収入です。

それが生成AIによってオリジナルの声を英語版や中国語版などに変換できれば、声優に権利が発生します。これは第二のビジネスの始まりだと感じています。手塚治虫先生の鉄腕アトムが日本初のアニメーションとして放送されて、これまで進化してきた中で、言語が進化するのは初めてです。数十年に一回現れる大きな改革の時ではないでしょうか。もちろん、声優やスタッフが受け入れるには時間も必要だと思いますが、そんなに時間もかけられないので、作りながら話をしていきたいですね」

多言語化には国内外のルール整備も必要

ただ、日本人声優の声を多言語化できる一方で、声を生成するAIの活用には課題もある。一つは、海外の映画作品などが生成AIで同様の取り組みをすると、日本語版の吹き替えという仕事が失われる可能性があることだ。

海外の映画やドラマでは、2010年に亡くなった野沢那智氏が、アラン・ドロン氏や、ブルース・ウィリス氏などの吹き替えとして定着するなど、日本語吹き替え版が一定の支持を受けてきたのも事実だ。この点については「これから調整が必要」だと南沢氏は指摘する。

「海外のソフトが日本に入ってくる場合には、放送を中心にしたガイドラインが必要だと思っています。発信者が海外の場合は対応できませんが、日本の放送にかける場合には、日本の声優が出演することを理想としたガイドラインです。

国内では、声優の先輩たちが作った業界のルールがこれまで継承されてきました。ルールを大切にして、私たちは日本のアフレコ文化を守ってきました。国内で築き上げたルールを守り、これからどう発展させていくのかは課題の一つです。

ただ、海外のオリジナルキャストの声が日本語になった方が面白いという意見が、視聴者の大多数を占めるならば、将来はそういう文化に変わっていく可能性があります」

また南沢氏は、多言語化したからといって、あらゆる国に展開できるとは限らないことも、もう一つの課題に挙げる。

「AIで作った日本の作品の海外版によって全世界をカバーできるかといえば、それも違う気がします。国によっては生成AIの活用に対して厳しい制約があるかもしれませんし、法令化やユニオンのルールなどで、海外ソフトは自国の言語で吹き替える文化の国もあるでしょう。一つずつ経験を積み上げながら、調整をしていくべきではないでしょうか。一方で、声優がいなくて、翻訳、アフレコ、ダビングなどの能力を持たない国にとっては、多言語化の技術は貴重なシステムとなるでしょう」

既存の作品を多言語化していくためには、音声だけでなく、映像や原作の権利をどうするのかも今後整理が必要になる。そこで81プロデュースでは、イレブンラボとの業務提携によって、まずは自社で制作する幼児向け番組の多言語化に取り組んでいて、第一弾の作品を2026年春頃から展開する予定だ。同時に、既存の作品の多言語化も進めていくという。

音声の生成AI技術は、両社の業務提携を皮切りに、映画やアニメなどのコンテンツや放送の現場を変えていく可能性がある。その時期はそう遠くないのかもしれない。

「調査情報デジタル」編集部

【調査情報デジタル】
1958年創刊のTBSの情報誌「調査情報」を引き継いだデジタル版のWebマガジン(TBSメディア総研発行)。テレビ、メディア等に関する多彩な論考と情報を掲載。原則、毎週土曜日午前中に2本程度の記事を公開・配信している。

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