対米投資第一弾、トランプ流『脱炭素』転換と対中国、日本のメリット最大化を【播摩卓士の経済コラム】

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2026-02-21 14:00
対米投資第一弾、トランプ流『脱炭素』転換と対中国、日本のメリット最大化を【播摩卓士の経済コラム】

日米関税交渉で合意された、日本による5500億ドルの対米投融資の第一弾が、18日、正式にこぎつけました。ガス火力発電、原油輸出施設、人工ダイヤモンド製造の3つのプロジェクトです。脱炭素政策からの転換や中国依存への対抗といった、トランプ大統領が国内的にもアピールしたい、トランプ好みの案件が選ばれました。

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お金は日本、決めるのはトランプ大統領

「トランプ好み」になったのは当たり前のこと。そもそも、プロジェクトの決定権者はトランプ大統領、という仕組みだからです。案件を選定して大統領に推薦するのも、アメリカ側の投資委員会です。そこに諮る前に、日米の協議委員会が開かれるという建て付けになっていて、「金を出すのは日本だけれど、決めるのはアメリカ」という、実に「不平等な」取り決めだからです。トランプ関税を引き下げてもらうには、不平等な取り決めを受け入れる以外なかったのです。

となると、案件選定にあたって、どこまで日本側の利益になるものを入れ込めるかが、腕の見せ所になるわけで、赤沢経済産業大臣が訪米してラトニック商務長官との交渉を経て、ようやく合意に至りました。

AIデータセンター向けガス火力発電

3つのプロジェクトのうち規模が最も大きいのは、オハイオ州にアメリカ最大の天然ガス火力発電所を建設する案件です。事業額は333億ドル(5.2兆円)で、事業主体は日本のソフトバンクグループの子会社、同じソフトバンクグループが手掛けるAI開発用のデータセンターに電力を供給します。

日系企業が関わる大きなプロジェクトを支援するわけですから、日本側のメリットもわかりやすく、タービンや発電機、送電網などの関連機器の供給に、東芝、日立、三菱電機が関心を示しています。また、最終プロダクトであるAIは、米中が次の経済覇権を賭けて、まさに鎬を削っている分野で、経済安全保障上の日米協力にもかなっています。

原油輸出拡大にむけ積み出し基地建設

今回の対米投資合意では、日本企業が事業主体ではなく、アメリカ、或いは第3国の企業が事業主体でも、日本側にメリットがあれば、対象になるところに大きな特徴があり、後の2つの案件が、それに当たります。

1つは、テキサス州での原油輸出ターミナルの建設(事業総額21億ドル、3300億円)で、事業主体はアメリカの石油関連企業。商船三井や日本製鉄、JFEスチール、三井海洋開発が、パイプラインをはじめとする関連機器の供給に関心を表明しています。

シェールオイル発見以前、石油輸入国だったアメリカには、元々、原油輸出のための施設がなく、石油輸出国になった今は、積み出し施設の整備が輸出増大の鍵を握っています。米国産原油の輸入の拡大につながり得る事業は、日本のエネルギー安全保障上も意義があります。

脱中国依存めざす人工ダイヤモンド

もう1つは、ジョージア州での人工ダイヤモンドの製造プロジェクト(事業規模6億ドル、900億円)で、こちらはグローバル企業デビアスの関連会社が事業主体です。ダイヤモンド工具メーカーである旭ダイヤモンド工業やノリタケが製品の購入に関心を示しています。

ダイヤモンドは、その硬さから、切断や研磨などの工作機械には欠かせないもので、電子、自動車、航空部品製造に不可欠です。また近年は、高温高圧でも作動する半導体材料としても大きな注目を集めています。しかし、今や中国が、人工ダイヤモンドの供給の9割を握っており、最近も輸出規制を示唆するなど経済的威圧の道具と化しています。中国はお得意の補助金政策で、コスト優位を実現し他国のシェアを奪ったのでした。

こうした重要産物の中国依存を減らすために、日米が共同でサプライチェーンづくりに取り組むことは、事業主体が日本企業でなくとも、十分、理にかなっています。

日本のメリットがわかる情報開示が必要

こうしてみると、第一弾に選ばれたプロジェクトは、いずれも日本側のメリットが見えやすいもので、日本政府は「ウィンウィンの関係だ」と成果を強調しています。また、こうした複雑なスキームを作りあげた上で、個別に案件を積み上げるのは、日本の官僚組織ならではの仕事ぶりで、韓国やEUなど他国にとってもモデルを提供した形です。

もっとも日本企業による設備や機器の納入や、日本企業による産出物の調達の価格や条件は、今後、個別に詰めていくものです。本当に「良いビジネス」になるかどうかは、これからです。

また資金面を見ても、国際協力銀行による出資や融資の額や条件も、具体的には全く明らかにされていません。さらに、資金の多くは日本の銀行が日本貿易保険(NEXI)の保証を受けて融資することになりますが、その金利も明らかではありません。第一弾の発表まで時間がかかったのは、金利などの条件が難航したからだという報道もありますが、外からは見えません。

民間企業の個別のビジネスに関わるだけにすべてを公にできるわけではないでしょうが、最終的に焦げ付いた場合には、日本の公的資金に損失を与えるわけですから、今後も適切で積極的な情報開示が求められています。

国内アピール優先のトランプ政権にリスク

オハイオ州、ジョージア州は、大統領選挙では典型的なスイングステート(激戦州)です。テキサス州も選挙人の多い重要州です。3つの案件の場所を見ても、トランプ大統領が日本による対米投資プロジェクトを、国内政治でのアピール材料に使っていることは明らかで、それは評判の悪い自らの関税政策を正当化する材料にもなっています。

それだけに、うまく行かなくなれば、再び、関税引き上げで脅しをかけてくる可能性は、考えておいた方が良いでしょう。そうした場合でも、日本にとって、きちんとメリットがある形で、案件を積み上げることができるかが、非常に重要です。また、将来的に政権が交代し、アメリカが再び脱炭素に舵を切るようなことが起きれば、巨大な火力発電や原油開発プロジェクトが止まるリスクもあるでしょう。

今回決まった第一弾は総額5500億ドルのうち、まだ1割にも達しません。上記のようなリスクを意識しながら、第二弾、第三弾を、日本の利益になるように、つくりあげていくという難しい作業が続きます。

もちろん、アメリカへの投資の知恵を絞るだけでなく、同時並行で、日本国内への投資を促進する政策を推し進めることが、何より重要な、政府の仕事です。

播摩 卓士(BS-TBS「Bizスクエア」メインキャスター)

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