「温泉が金脈を作った」日本唯一の“金鉱山”…資源争奪戦に勝つためには?【Bizスクエア】

日本唯一の“商業金山”菱刈鉱山の採掘現場。深さ340mの先にあったのは“温泉”が作り出した“金脈”だった。争奪戦となる鉱物資源の現状と生き残るための戦略とは?
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1体5500万円“黄金”の大谷選手
1月、都内の百貨店『新宿高島屋』で開催された金の催事「大黄金展」。
客の関心を集めていたのは、大谷翔平選手の等身大黄金像「黄金のバッター 大谷翔平」と「黄金のピッチャー 大谷翔平」で、価格は1体5500万円。使われている金箔は2体で3000枚だという。
『SGCゴールドショップ 新宿高島屋店』坂口清隆店長:
「金相場の高騰と、金箔の大谷翔平選手の登場によって大変好評」
「温泉のおかげで金鉱脈ができた」
“有事の金”と呼ばれ、安全資産と言われる金の価格は、ウクライナ侵攻が起きた4年前と比べると約4倍に。
こうした中、存在感を高めているのが日本で唯一稼働している金の鉱山、「菱刈(ひしかり)鉱山」(鹿児島・伊佐市)だ。
『住友金属鉱山 菱刈鉱山』鉱山長・前田敏明さん:
「1983年に開山。1985年に海抜100mレベルで鉱石に着脈して出鉱を開始して、25年の7月で40年になった」
坑道の入り口は海抜265m。そこから海抜マイナス80mの深部へ。
東京タワーの高さに匹敵する345mの深さを進むと、そこにあったのは“金を生み出す温泉”だ。
岩盤からしみ出ている温泉が足元を濡らし、触ってみると温かい。
前田鉱山長:
「岩盤の中にパイプが水平に200~300m入っている。そこに金鉱脈があって、金鉱脈の中に溜まっている温泉を抜いている。“温泉のおかげで金鉱脈ができた”」
100万年前の火山活動によって「マグマの中に含まれていた金」が熱水とともに地表近くまで運ばれ、世界屈指の金鉱脈を形成。坑道の総延長は170kmで、最新の重機が硬い岩盤の中にあるわずかな鉱脈を正確に捉えるという。
前田鉱山長:
「元々は岩盤に亀裂があって、そこを熱水が下から上がってきて、温度が下がり圧力が下がり熱水の中で溶けなくなり沈着していったのが“金鉱脈”、石英脈になっている」
岩盤に穴を開ける特殊な車両で水を注入しながら3mほど削るー
機械は自動化が進んでいて、爆薬を仕掛けるポイントも自動でナビゲーションしてくれるシステムだ。
『住友金属鉱山 菱刈鉱山』上橋玄祈さん:
「同じ現場でも日々鉱脈の向きや岩盤の硬さとかが変わってくるので、見ていて面白かったりする」
まだまだ掘れる「金の埋蔵量154トン」
菱刈鉱山で採れる金は、「1トンあたり平均20g」で、“世界の主要鉱山の10倍以上”。年間約3.5トンの金を安定的に産出している。
金が含まれている石英(せきえい)と呼ばれる石を選別したら、愛媛県にある「東予工場」に運び、製錬して金製品となる。
――国内で今も金を掘っているのは意外と知られていないが、菱刈鉱山は有望?
『住友金属鉱山』松本伸弘社長:
「私どもにとって菱刈鉱山は貴重な財産だと考えていて、当然金を採掘しているので世の中に対して“金を供給し続けることが一つの重要な役割”」
また、“鉱山技術を蓄え継承していくため”にも貴重だという菱刈鉱山。採掘開始から40年だが、今後も掘り続けられるのだろうか。
松本社長:
「40年間で菱刈鉱山で採掘した金量は270トン前後だが、まだいろんなポテンシャルを持っていると思い調べているところ。いま金の価格が過剰に高くなっているので、昔に比べれば金品位(含有量)が若干低くても採掘する可能性はある。基本的には菱刈鉱山の近辺をいろいろ調査している」
菱刈鉱山には、まだ約154トンの金があるとされている。
――今の金属の高騰はどう見ているのか
松本社長:
「金に関しては、どちらかと言えば過剰感が少しあると思う。金は実需でないところのいろんな動きが強い。世界で年間5000トンぐらいの金が作られるが、その内の30%ぐらいが実需。足元でどちらかと言えば世界情勢が不安定なこともあり安定資産である金にお金が流れ込んできて、皆さん買っている」
金だけでなく「銅」や「ニッケル」も
住友金属鉱山は業績も好調で、2月9日に発表した決算では2026年3月期予想の純利益は1400億円と、「前年比約8.5倍」になる見通しだ。
――株価も1年で倍以上でホクホク(笑)
『住友金属鉱山』松本伸弘社長:
「これがずっと続いてくれればホクホクだけど(笑)、当社はものづくりの会社。事業は価格に左右されるところはあるが、“ものづくりの会社としていろんなものを作っていく”というのが我々の使命だと考えている」
住友金属鉱山が手がけるのは、金だけではない。
南米やオセアニアなどで銅やニッケルなども採掘し、菱刈鉱山で磨かれた採掘・精錬技術を武器に、海外では8つの鉱山で資源争奪戦を勝ち抜こうとしている。
松本社長:
「一番多いのは銅。南米・北米・オーストラリアが中心で、海外の大手鉱山会社と一緒に鉱山開発をしてそこで採掘している。ニッケルは分布している部分が限られていて、赤道に近いところにしかない」
<住友金属鉱山 海外の鉱山>
▼【銅】アメリカ、ペルー、チリ(3か所)、オーストラリア
▼【ニッケル】ニューカレドニア
▼【金】カナダ
鉱物資源開発の現状と今後
さらに、資源事業だけでなく「材料事業」にも力を入れている。
例えば、見た目は濃い青色の粉の「ソラメント」。
タングステンなどを混ぜて開発した機能性材料で、“光を通しながら熱を吸収する”特性を持っている。
繊維に混ぜて化学繊維を作ったりと様々応用ができ、この技術を活用した「日傘」は、25年に開催された大阪・関西万博で限定販売された。
――地政学、大国の時代になって資源争奪戦になっている。現在の変化をどう見ているか
『住友金属鉱山』松本伸弘社長:
「“自国に取り込もうという傾向はさらに強くなってくる”と思う。海外で資源を確保するのは難しくなってくるし、海外で資源開発するためのコストも上がってくる。問題もいろいろ出てくると思う」
――資源のない日本が海外で採掘するためには
松本社長:
「当社は銅もニッケルも精錬の工場を持っている。さらに生産性のいい工場にしていく取り組みもやっているし、コストを下げて競争力のある工場にしていこうと取り組んでいる。そういう魅力が伝えられれば、海外の鉱山会社も『住友金属鉱山と組んで一緒にやろう』となると思う」
――創業400年の歴史があるが、次の400年に向けて必要なものは
松本社長:
「事業をいろいろ展開・拡幅するのは当然だが、“人をいかに育てていくのかが大事”。何をするにしても人がキーワードとして活用せざる得ないところがある。プロセス開発も新しい製品開発も、AIでできるかといったら分からないが、人が判断してそれなりのものをやっていかないといけない。人材をいかに確保していくかが大事なポイント」
資源争奪戦で生き残るための“3つの基本”
高騰が続く「金」だが、国際経営論と経営戦略論が専門の入山さんは「まだ上がる」と見ている。
『早稲田大学ビジネススクール』教授 入山章栄さん:
「やはりアメリカの国力が落ちてきていて、“ドルから金へのシフト”がすごく起きていている。実は意外と金を買っているのが中国とか中東の国。こういうところが金に移ってきてるので、おそらくこの後も世界が不安定である限りは、金の価格が上がるのではと思う」
――どの国も資源エネルギーの囲い込みに動いているが、日本はこの時代をどうやって生き残っていったらいいのか
入山さん:
「日本は資源もエネルギーもないので、“基本の3つ”をやるしかない。それは、“分散・リサイクル・備蓄”。資源のために世界の国と手を組む時に、1カ国だけに頼るのはものすごくリスクが大きいから可能な限り分散する。リサイクルは、レアアースなんかもスマホに入っているわけで、国内で循環させていくことが重要。それと、何かがあった時に使えるように国内で備蓄しておく。この3つを地道にやっていくしかない」
(BS-TBS『Bizスクエア』 2026年2月21日放送より)