猫が『喉をゴロゴロさせる回数』には遺伝子が関係する?研究で示された意外な事実とは

2026-02-25 16:00

謎多き猫ですが、近年では少しずつ猫に関する研究が増えつつあります。そんな中、2025年に京都大学などの研究グループにより、ある遺伝子が猫の喉をゴロゴロさせる頻度に関係している可能性の高いことがわかりました。しかもその遺伝子は、猫と人との関係に強く影響されていると考えられています。身近な猫の「ゴロゴロ」に関する、意外な事実をご紹介します。

猫の「ゴロゴロ」の役割

猫の授乳

ネコ科動物の中でも、ライオンやトラなどのヒョウ属に属する大型ネコ科動物は、とても迫力のある咆哮と呼ばれる声を出します。一方、イエネコ(猫)を含む小型ネコ科動物やヒョウ属以外の大型ネコ科動物は、咆哮ができない代わりに喉をゴロゴロと鳴らします。

このゴロゴロと喉を鳴らす鳴き方は、英語ではPurringと言いますが、日本語では特に決まった表現がなく、「ゴロゴロ」とか「喉鳴らし」などと呼ばれています。

ゴロゴロは、主に子猫が母猫の母性行動を促す際に使われるため、生存に不可欠な声だと考えられています。また成長後も、ゴロゴロと喉を鳴らし、相手に親近感を示す、衝突を回避する、要求を伝えるなど、コミュニケーションに使われています。

しかしこのゴロゴロは、どの猫も同じように行うとは限らず、中にはあまり喉を鳴らさない猫もいます。この猫のゴロゴロの回数(頻度)の個体差には、ある遺伝子が関連している可能性を、京都大学などの研究者グループが突き止めました。

今回は、2025年5月28日に国際学術誌の「PLOS One」にオンライン掲載された論文の概要を、わかりやすくご紹介します。

遺伝子と行動特性(性格)に関するこれまでの研究

高い場所から下に向かって威嚇する猫

多くの動物は、個体ごとに固有の性格を持っており、その性格によって現れる行動が変わってきます。このように、個体によって現れる行動のパターンや傾向のことを、行動特性と言います。

行動特性に影響を与える性格は、遺伝的な要因(生まれ)と育った環境(育ち)によって作られることが広く知られています。しかし、猫を対象とした遺伝子と行動特性に関する研究は、他の動物と比べて遅れていました。

先行研究では、アンドロゲン受容体(AR)遺伝子が、人の暴力的な犯罪行為や攻撃性などの形質、犬の攻撃性、ラクダの恐怖反応などの行動特性と関連していることがわかっています。そこで研究チームは、猫を対象にAR遺伝子と行動特性の関連を調査しました。

※AR遺伝子とは、男性ホルモンであるテストステロンやジヒドロテストステロンなどのアンドロゲンに高い親和性を持つ受容体タンパク質を生成する、X染色体上にある遺伝子です。

実験の概要〜猫のゴロゴロの頻度とAR遺伝子の関係

DNA

AR遺伝子には、アンドロゲンを受け取る感受性を決める遺伝子情報に、多型と呼ばれる個体差が存在します。代表的なのは「CAG」という塩基配列が繰り返される回数(長さ)の違いで、短いほど感受性が高くなる傾向があります。

対象となったのは、一般家庭で飼育されている、280匹(オス145匹、メス135匹)の雑種猫(内79%は元野良猫)で、口腔内粘膜から採取した細胞のゲノムDNAを抽出し、AR遺伝子のCAGリピートの多型を判定しました。また、国立生物工学情報センターのデータベースを利用し、他のネコ科動物のAR遺伝子の多型と比較しました。

質問票を通して飼い主から得た行動特性とその猫のAR遺伝子の多型とを分析し、遺伝子が行動特性に与える影響の関連性を調べました。その結果、下記のことがわかりました。

イエネコのAR遺伝子の多型の判定

CAGリピート数による多型は、15〜22回の8タイプが確認され、リピート回数18回以下を短型、19回以上を長型と分類しました。
なお他の研究により、長型のAR遺伝子は、雑種よりも純血種で優位に多く見られることがわかっています。

ネコ科動物間のAR遺伝子の多型比較

11種のネコ科動物で、AR遺伝子の多型が見つかりました。多型のリピート回数は12〜19回で、短型が多く、20〜22回の長型はイエネコでしか見つかっていません。

イエネコのAR遺伝子が与える甘え方や対人関係への影響

  • 短型のAR遺伝子を持つ猫は、長型の猫よりも喉をゴロゴロ鳴らす頻度が高い
  • 短型を持つオス猫は、相手に向かって鳴くことでコミュニケーションを図る頻度が高い
  • 短型を持つメス猫は、見知らぬ人に対する攻撃行動を見せる頻度が高い

この研究結果が示唆する意外な事実!?

撫でられて喉を鳴らす猫

本来、猫のゴロゴロは、子猫が生きるために不可欠な母猫とのコミュニケーション手段でした。しかし、長型のAR遺伝子を持つ猫は、あまり喉をゴロゴロ鳴らさない猫になることがわかりました。

今回の研究では、特に長い長型のAR遺伝子は、イエネコしか持っていないことがわかりました。さらに先行研究では、雑種よりも純血種の方が長型のAR遺伝子を持つ猫が多いことがわかっています。このことから、人との関わりが深い猫ほどゴロゴロ鳴かなくなることがわかります。

論文の中では『生まれた直後から人に世話をしてもらえる猫は、喉を鳴らさなくても生存が脅かされないため、ゴロゴロと喉を鳴らす必要がなくなったため』と考察し、AR遺伝子の変化には猫と人との関係性が反映されている可能性があるとしています。

現在の日本で飼育されている純血種の猫はまだ2割に過ぎず、多くは保護された元野良猫の雑種です。しかし地域猫のTNR活動が進み、街中から野良猫の姿がなくなるであろうそう遠くない将来には、生まれつき人を信用している、飼い主さんに撫でられてもゴロゴロと喉を鳴らさない甘え方の猫が増えていくのかもしれません。

まとめ

猫博士

今回の研究は、ようやく猫の遺伝子と行動特性の解明が始まったという段階に過ぎません。さらに研究が進むことで、さらに多くの関連性が解明されていくことでしょう。今回得られた知見を活かして、遺伝子データに基づいた行動傾向を予測し、観察とケアの強化による動物福祉の向上が実用化される日を、心待ちにしたいと思います。

論文は、PLOS Oneの公式サイトで公開されていますので、詳細を知りたい方はアクセスしてみてください。

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