消費者物価2%割れでも、『名目』から『実質』への転換の時【播摩卓士の経済コラム】

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2026-04-25 14:00
消費者物価2%割れでも、『名目』から『実質』への転換の時【播摩卓士の経済コラム】

長年の目標だった消費者物価の上昇率が2%に達したのは、ウクライナ戦争開始直後の2022年4月のことでした。それから4年、物価上昇が当たり前の世の中になったものの、賃金はなかなか物価に追いつかず、成長力もなかなか高まりません。経済の「実質」の改善を、より重視する局面に入ってきています。

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消費者物価 2か月連続2%割れ

24日に発表された3月の全国消費者物価指数は、生鮮食品を除く総合指数が、前年同月比で1.8%の上昇となり、1月の1.6%に続き、2か月連続で目標とする2%を下回りました。

生鮮を除く食料が5.2%の上昇と相変わらず高い上昇率だった一方で、ガソリンの暫定税率廃止や電気ガス料金への補助金などの政策効果で、エネルギーが前年同月比で5.7%も下落したことが、2%割れに大きく寄与しました。

もっとも、エネルギーの下落率は、2月のマイナス9.1%から、イラン戦争による原油価格高騰を受けて、3月はマイナス5.7%へと、マイナス幅は大きく縮んでいます。ホルムズ海峡の事実上の封鎖が長期化する中で、今後のエネルギー価格の上昇次第で、消費者物価は再び2%を超える可能性が高いとみられます。

日銀が重視する生鮮食品とエネルギーを除いた指数(日本版コアコア)は、前年同月比2.4上昇と一貫して目標の2%を上回っています。生鮮を除く総合指数というヘッドラインは2か月連続の2%割れですが、日本経済の地力は、すでに2%目標に到達していると見るのが自然です。

年度では2.7%の消費者物価上昇

3月の統計が出たことで、2025年度の数字も明らかになりました。

2025年度の消費者物価(除く生鮮)は前年度比2.7%の上昇でした。ちなみに2022年度は3.0%、23年度2.8%、24年度2.7%ですから、4年連続で目標の2%を相当超えています。

アベノミクスによる異次元の金融緩和をしても、全く手の届かなかった2%が、こうして、まるで魔法にでもかかったかのように実現したのです。

デフレ脱却で「名目」増大の効果

デフレを脱却し、物価上昇が当たり前の時代になった効果は、至る所に現れています。

国力の象徴でもある名目GDP(国内総生産)は、2025年に662兆円と前年比で4.5%も増加しました。長らく500兆円と言われた名目GDPが5年連続増加し、600兆どころか、700兆円を目前にしているのですから、物価上昇の効果を感じずにはいられません。

中でも税収は最も恩恵を受けたものでしょう。26年度予算では、国の税収を83兆円と見積もっています。コロナ前まで60兆円前後で停滞していたことを考えると、隔世の感があります。

物価高の分だけ消費税収が増え、賃金の増加で所得税も増収です。企業の売上や利益も名目値ですから、法人税も増収です。税収が増えれば、歳出拡大余地が生まれ、財政赤字の削減も現実的に可能になります。

株価も物価上昇を織り込めば、上昇するのは当然で、日経平均は昨年秋に5万円、23日にはついに一時6万円台と、ピッチの速い上昇です。

「名目成長」によって企業行動にも変化

物価が上昇して名目値で経済が大きくなったことは、企業行動にも良い影響を及ぼしています。

デフレ時代はコストをなかなか価格転嫁できないので、付加価値の高い新商品の開発への意欲が鈍ります。価格が引上げられない分、企業利益を左右するのはコスト削減となり、投資は「余計なこと」といった風潮が強まりました。

物価が上昇して、価格転嫁が可能な世の中になったことで、賃上げや投資にお金をより使うという前向きな企業行動が出始めています。これこそが今後の成長のカギを握る動きです。

実質賃金プラス化は定着するか

しかし、問題は物価高に賃金が追いついていないことです。

毎月勤労統計によると、消費者物価分を差し引いた勤労者の実質賃金は、昨年末まで、4回の例外を除き、一貫してマイナスでした。消費者物価の上昇が鈍った26年1月に前年同月比で0.7%、2月に1.9%と、久々にプラスに転じました。

ただ、いずれもエネルギー関連の政策効果の影響が大きく、補助期間の終了や今後のイラン情勢次第では、実質賃金がいつマイナスに転落してもおかしくない情勢です。実質賃金のプラス化が定着しなければ、消費者の懐具合は改善せず、消費拡大の力も強まらないでしょう。そもそも日本の実質賃金は、長期低落傾向が続いていているのです。

まずは「名目成長」がきっかけに

さて、問題はこれから、です。

確かに物価が上昇しない、すなわち名目経済が大きくならないというデフレの世界が、良くなかったことは明白です。だからこそ、まずは名目成長できる世界をめざし、物価上昇2%を目標にしてきました。

その物価上昇率が、単月で2%を下回るという状況になった今、何が必要なのでしょうか。

再び物価上昇に遮二無二アクセルを踏むことが適当なのか、それとも、2%目標は掲げつつも、もう少しモデレートで、持続可能な物価上昇を目指すべきなのか、考えるべき時だと思うのです。

「名目」に「実質」が伴う成長へ

2025年のGDPも、名目では4.5%増ですが、実質では1.1%増にとどまりました。日本経済の実力からすると実質1%は上出来です。これをどうやって持続し、底上げするかが一番の課題でしょう。実質賃金の上昇を通じた消費拡大は、その核のはずです。

高市政権が、新たな成長に向けて、戦略的な投資に積極的に取り組むことは、こうした実質成長に向けた意義ある取り組みです。マクロ経済政策でも同様にきめ細かな運営を心掛けてはどうでしょうか。

実質でいうと、実質金利は未だに深いマイナスです。政策金利が0.75%でも、2.7%の物価上昇率なら、実質金利は2%近いマイナスです。日本が突出した実質マイナス金利で、物価高を加速させた過度な円安が是正されることなどないでしょう。

経済運営の重心を、事態打開のための「名目」の改善から、「実質」を伴う改善に、そろそろ移していくべき時なのではないでしょうか。

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