難民認定のあるべき姿を示した東京高裁・地裁の2つの判決 「難民認定の大原則」を守り入管の主張を退けた判断は“スタンダード”になり得るか【“知られざる法廷”からの報告】

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2026-05-02 07:30
難民認定のあるべき姿を示した東京高裁・地裁の2つの判決 「難民認定の大原則」を守り入管の主張を退けた判断は“スタンダード”になり得るか【“知られざる法廷”からの報告】

入管段階の審査で難民不認定とされたカメルーン人の男性が、不認定処分の取り消しなどを求めて国(出入国在留管理庁)を訴えた裁判で、1審東京地裁と2審東京高裁が、いずれも男性を難民と認める判決を言い渡した。まさに難民認定のあるべき姿を示した2つの判決は、これからの裁判でも“教科書的なスタンダード”になるのか。「知られざる法廷」から報告する。(元TBSテレビ社会部長 神田和則)

英語圏で起きた分離独立運動

「(男性は)難民に該当すると認められるから、不認定処分は違法で取り消されるべき」

4月15日、東京高裁(吉田徹裁判長)は国の控訴を棄却し、1審の東京地裁(鎌野真敬裁判長)に続いて、男性を難民と認める判決を言い渡した。

男性が入管に対して最初に難民申請してから14年。救いの手は入管でも、難民審査参与員でもなく、裁判官によって差し伸べられた。

難民とは、人種、宗教、国籍、特定の社会的集団の構成員、政治的意見などによる迫害を理由に母国を逃れて、他国に保護を求めた人々だ。難民条約で規定され、日本は1981年に加入した。

カメルーンは第1次世界大戦後、英仏が分割統治した影響で、1960年代に仏語圏と英語圏からなる連邦国家がつくられた。その後、仏語圏に置かれた政府が主導して中央集権化が進められたことから、英語圏で分離独立を求める運動が起こり対立が続いてきた

男性は英語圏の政治団体「南カメルーン国民会議」(SCNC)に所属して集会やデモに参加、2004年から2011年の間に警察当局に4回逮捕され、このうち3回で体中に傷跡が残るほどの暴行、拷問を受けた。

2012年に保護を求めて来日、「帰国すれば逮捕されて命の危険にさらされる」と2回にわたり難民申請したが、「本国政府から指名手配されたことから、帰国した場合、逮捕され、命の危険にさらされる旨申し立てていますが、あなたの供述には不自然、不合理な点が認められ、申し立ての信ぴょう性に疑義があります」などとして、1次審査にあたる入管の難民調査官も、2次審査の難民審査参与員も不認定に。2023年に裁判を起こした。

「核心部分で一貫、信用できる」

裁判の主な争点は、男性の難民該当性を、どう判断するのかにあった。

「難民には当たらない」とする国(入管)の主張と2審東京高裁判決を対比してみたい。

▽供述の変遷と信用性

<国>
「SCNCのメンバーとして活動し、警察から逮捕、抑留、拷問を受けたという男性の供述部分は、逮捕、拷問を受けた時期や回数という重要な事実について不合理な変遷を繰り返し、拷問や暴行の程度が当初よりも苛烈になるなど信用できない

<高裁判決>
「男性の陳述、供述は、警察に逮捕された年月日、場所、逮捕時の状況、抑留の期間と処遇、拷問・暴行の有無・態様などについて具体的かつ詳細で、若干の変遷があるものの核心部分・大筋において一貫している。顔面、肩、下腿などの複数の目立った傷跡の写真、整形外科専門医の診断とも整合する。米国務省や国際人権NGO『アムネスティ・インターナショナル』作成の報告書も、逮捕、抑留、暴行の核心部分にあたる具体的な供述を客観的に裏付ける。男性の供述の核心部分は基本的に信用できる

▽SCNCについての知識

<国>
「SCNCの加入時期や活動内容という重要な事項についても合理的な理由がないのに供述を変遷させ、活動の基本的知識も乏しい

<高裁判決>
「SCNC加入の時期を変遷させたほか、独立宣言の時期や大統領の任命の有無などSCNCの知識を正確に把握していない供述も見られるが、入国後間もない時期で記憶を喚起する手掛かりとなる手持ちの資料が乏しい状況がうかがわれ、SCNCでの地位や活動内容と併せて検討すると、時の経過による記憶の減退の影響もあって不正確な供述をしたとしても不自然ではない

▽カメルーン出国と難民申請の経緯

<国>
「逮捕状の発付や指名手配を知って出国を決意したというのに、旅券発給から4か月後、日本のビザ取得からでも2か月後に出国し、日本に入国する際に渡航目的を『商用』と申告し、難民として庇護を求めなかったのも不自然、不合理だ」

<高裁判決>
出国・渡航の手はずを調えるまでに一定の時間を要することはあり得る。逮捕状の発付などの客観的裏付けはないが、身体拘束などの危険を感じて出国を決意し実行に至った経緯や入国2日後に難民申請したことからすると、不自然、不合理とまでは言えない

▽政府が男性個人を迫害対象として特定、注視したか(個別把握説)

<国>
「出身国情報を通覧すれば、一般に、単にSCNCのメンバーであることを理由に政府による拷問を伴う身体拘束は認められない。男性に逮捕、抑留、拷問などの危険があったとは認められない

<高裁判決>
「出身国情報の中には、主要メンバー以外の者が逮捕されたり、集会参加の自由が制限されたりした報告があり、SCNCの末端構成員に過ぎない男性について、政府当局から拷問を伴う身体拘束、その他の人権の重大な侵害の危険があることは否定できない

▽偽造が疑われる文書の証拠提出

<国>
「偽造が疑われるSCNC作成名義の会員証、本国の総合病院作成名義の医学証明書などの文書を証拠提出したことは、SCNCのメンバーであること自体を疑わせ、供述の前提を否定する重大な事情だ」

<高裁判決>
「いずれも偽造の疑いがあることは否定できないが、1回目の難民不認定処分の後、難民支援NGO職員から『証拠があった方がいい』とアドバイスを受けて、妹に証拠の送付を依頼した。(SCNCの)会員証などの文書を提出する前の本人の陳述、供述の核心部分は、その後も大筋で一貫しているうえ、少なくとも1回目の難民申請の段階で男性自身が会員証などの文書の作成に積極的に関与したとは認められない。偽造された疑いがあることが、供述の信用性を揺るがすとは言えない」

最後の「偽造が疑われる文書の証拠提出」に注目したい。これは裁判所が、難民申請者は、そもそも供述を裏付ける証拠を本国から持ち出すこと自体が難しいという苦しい事情を考慮して、「仮に疑わしい文書が提出されたとしても、それ以外の証拠で正しく難民性を判断しますよ」と宣言したに等しく、画期的だ。

裁判官にも難民保護の義務

「地裁も高裁も国際難民法のグローバルスタンダードに沿って難民申請者の供述の信用性を評価している。いい意味での教科書的な判決だ」

国際人権法の専門家である阿部浩己・明治学院大教授は2つの判決を高く評価する。その理由を詳しく紹介したい。

まず、争点である供述の信用性については…。

「第1に供述の核心部分に焦点を当て、周縁部分の矛盾には過度に固執してはいけないという難民認定の大原則を忠実に守っている。特に高裁は踏み込んで、難民申請者が置かれた弱い立場を考慮しつつ、時間の経過によって記憶が曖昧になることで変遷のように見えるなどとしている。第2に難民認否の判断に関係がない無意味な出身国情勢を羅列することなく、本件に真に必要な人権を巡る情報を基に、供述内容と整合しているかどうかを見ている。高裁は政府の情報だけでなく、定評ある国際NGOの情報にも幅を広げて供述は信用できるとした

文書偽造の可能性については「高裁はどういう経緯で誰が作ったのか、申請者が関与しているとは思えないなどと見極めたうえで、偽造されたとしても核心部分の信用性には影響しないと非常に丁寧に判断した」と語った。

また、「SCNCに関する知識は組織の末端に属していたので、そんなに詳しく知らなくても不思議はないと合理的に判断した」と評価した。
この「迫害する側から個別に把握されていなければ難民とは認めない」という入管の「個別把握説」については若干、説明が必要だと思うが、2023年に3回以上の難民申請者の強制送還などを可能にする入管法の改定案が国会に提出された際、当時の入管庁次長は「ご指摘のような考え方は採用していない」と述べていた。しかし裁判では従来と変わらず国会答弁に反する主張をしていた。阿部教授は「裁判所は個別把握説を採らず、男性のような立場にある人ならば個別に把握されていなくても警察から狙われておかしくないと判断した」と語った。

そのうえで、「難民条約は国家機関である裁判所・裁判官にも難民を保護する直接の義務を課しているが、2つの判決には『もし判断を誤って出身国に帰してしまい、重大な人権侵害が生じるような事態は、何としても避けなければならない』という難民条約の基本的な要請が反映されている。1990年代から弁護士や支援者が粘り強く続けてきた闘いの成果が、司法の場に映し出されつつあることをうかがわせる意義深い判決だ」とたたえた。

入管の判断を覆してクルド難民を認めた札幌高裁判決(2022年)、ウガンダ難民が逆転勝訴した東京高裁判決(2023年)、3回にわたり難民不認定とされたミャンマーの少数民族ロヒンギャを難民認定した名古屋高裁判決、やはり3回不認定とされたアフリカ出身の政治活動家を難民と認定した東京地裁判決(2024年)などに続く、今回の2つの判決。この流れを定着させるべきだし、そうなれば、保護すべき人が保護されていない現在の入管行政に大きな影響を及ぼすことになる

“対等の権利、平等な立場”からの共生の道とは

2025年1月、1審東京地裁での本人尋問で、男性が裁判官に訴えた言葉が耳に残っている。

男性は、カメルーンの歴史を振り返り、仏語圏と英語圏は一切の武力闘争なしに平穏、平和に、対等な立場で同じ権利を持つ形で一緒になることが決まったが、英語圏には原油、ダイヤモンド、石炭などの天然資源が国全体の70%あったことから、人口が多数派の仏語圏政府は我々に対して圧政を敷いたと指摘した。

そして…。

「私がなぜ、いま、ここにいるのか。その理由は一つです。私は人々のために闘い、真実を、独立を追求しているからです。(仏語圏と英語圏は)そもそも平等な権利の下で一緒になり、共生の道を追求した。しかし、いま、英語圏に発言の機会は認められず、人々は自分の思っていることを英語で主張することを恐れている。何も無謀なことを言っているわけではありません。対等の権利、平等な立場によって英語圏と仏語圏それぞれの人々が共生の道を選ぶべきだというのが私の考えなのです」

国は上告を断念し、高裁判決が確定した。「対等の権利、平等な立場で追求する共生の道」。問いかけられているのは、カメルーン政府だけだろうか。

<“知られざる法廷”からの報告>
裁判所では連日、数多くの法廷が開かれている。その中には、これからの社会のあり方を問う裁判があるが、報じられないまま終結してしまうことも少なくない。“知られざる法廷”を取材して報告する。

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