女性特有の症状に対応する「必須漢方8処方」を初特定、近畿大学研究グループが発表
2026-06-15 12:19

近畿大学東洋医学研究所は、産婦人科医を対象とした全国調査により、女性特有の症状に対して優先的に学ぶべき「必須漢方8処方」を初めて体系的に明らかにしました。
概要
近畿大学東洋医学研究所の研究グループは、女性特有の症状に対する漢方診療について、産婦人科医を対象とした全国調査を実施し、重要と考える「必須漢方8処方」を明らかにしました。本研究成果は、更年期症状やPMSなど、女性診療で頻繁にみられる症状に対して、産婦人科以外の医師でも実践しやすい漢方診療の基盤となる処方群を示したもので、一般診療や産業医領域における女性診療支援への活用が期待されます。論文掲載誌:Journal of Obstetrics and Gynaecology Research
掲載日:令和8年(2026年)5月24日(日)
研究の背景と目的
月経困難症、PMS、更年期症状、不安・不眠といった女性特有の症状は産婦人科で多くみられますが、専門医を受診できない場合もあり、一般臨床医や産業医が初期対応を担うケースも少なくありません。このような状況で活用しやすい漢方診療への関心は高まっていますが、一般臨床医が優先的に学ぶべき漢方処方については、これまで明確に整理されていませんでした。経済産業省の試算によると、女性特有の健康課題による経済損失は年間約2.5兆円に上るとされており、働く女性の健康支援は社会的に重要性を増しています。公的医療保険制度下で広く使われる漢方治療は、産婦人科以外の医師にとっても導入しやすい治療法として注目されていますが、その優先順位は不明確でした。そこで本研究は、全国の産婦人科医を対象に調査を行い、一般臨床医が優先的に学ぶべき「必須漢方8処方」を特定することを目的としました。「必須漢方8処方」の特定と特徴
本研究では、令和7年(2025年)5月から9月にかけて、産婦人科漢方研究会会員1,421人を対象に匿名Webアンケートを実施し、255人の産婦人科医から回答を得ました。回答者には、女性特有の疾患に対応する上で必要と考えられる漢方処方を最大8種類まで選択してもらい、その推薦頻度を解析しました。その結果、「加味逍遙散」、「桂枝茯苓丸」、「当帰芍薬散」をはじめとする8処方が、一般臨床医が優先的に学ぶべき「必須漢方8処方」として抽出されました。特に、「加味逍遙散」「桂枝茯苓丸」「当帰芍薬散」の3処方は、古くから「婦人科三大処方」として知られ、月経関連症状や更年期症状に対する中心的な漢方治療として高い支持を集めました。また、医師の性別、臨床経験、漢方専門医資格の有無による大きな差異は見られず、産婦人科領域において広く重要と認識されている漢方処方には共通認識があることが示されました。抽出された8処方は、更年期障害、PMS、頭痛、冷え、不安、不眠、倦怠感など、女性診療で頻繁に見られる多様な症状に幅広く対応できる特徴があります。今後の展望と期待
本研究で特定された「必須漢方8処方」は、一般臨床医が女性診療における漢方処方を学び始める際の手がかりとなります。今後は、これらの8処方を基にした初期研修医向け教育資材の作成が進められており、一般診療や産業医領域における女性特有の症状・疾患への初期対応に活用されることが期待されます。この研究成果は、一般診療や産業医領域での女性医療支援の強化、漢方教育の標準化、さらには女性の健康課題への社会的対応の強化に貢献するものと考えられます。近畿大学東洋医学研究所の武田卓所長・教授は、「更年期障害やPMSなどの女性特有疾患の治療は、女性活躍推進の観点から注目されています。ホルモン補充療法やピルは有効ですが、産婦人科以外での導入には課題があります。一方、漢方治療は診療科を問わず処方しやすく、初期対応として有望です。今回選定された8処方を基に、全国6大学が中心となって初期研修医向け教育資材を作成中であり、今後、医学教育を通じて女性特有疾患への対応の裾野が広がることを期待しています」とコメントしています。
用語解説
※1 PMS(月経前症候群):月経前に起こる心身の不調。イライラ、不安、頭痛、むくみなど多様な症状が現れる。※2 漢方診療:日本で独自に発展してきた伝統医学に基づき、患者の体質や症状全体を総合的に捉えて行われる治療。
※3 加味逍遙散(かみしょうようさん):更年期症状、PMS、不安感、イライラなどに広く用いられる代表的な婦人科漢方処方。
※4 桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん):月経不順、月経痛、更年期症状、のぼせ、肩こり、冷えのぼせなど、血流の滞りに関連する不調に用いられる代表的な婦人科漢方処方。
※5 当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん):冷え、貧血傾向、月経不順、月経痛、むくみ、めまいなど、血行や水分バランスの乱れに関連する不調に用いられる代表的な婦人科漢方処方。
まとめ
近畿大学の研究グループは、産婦人科医を対象とした全国調査により、女性特有の症状に対応するために一般臨床医が優先的に学ぶべき「必須漢方8処方」を初めて特定しました。この研究成果は、産婦人科以外の医師による女性診療の質向上に貢献し、働く女性の健康支援を強化することが期待されます。関連リンク
東洋医学研究所 教授 武田卓(タケダタカシ)https://www.kindai.ac.jp/meikan/818-takeda-takashi.html
東洋医学研究所
https://www.med.kindai.ac.jp/toyo/