40代で年収8600万!社内通貨制度、上司からの指示禁止…半導体企業「ディスコ」の高利益率の秘密とは?

外資系金融でも、メガテック企業でもない。1937年創業の老舗企業でありながら、40代で年収8600万円や30代で年収3200万円という、日本の常識を覆す報酬を実現している企業があります。その名は「株式会社ディスコ」。半導体製造装置の分野で世界シェアトップクラスを誇る、知る人ぞ知る超優良企業です。半導体業界の最前線を追うNewsPicks編集部記者の岡ゆづはさんによると、その驚異的な高収益の源泉は、独自の社内通貨制度と、徹底した「個人事業主化」を促す組織運営にあるといいます。なぜ一見「ギスギス」しそうな競争原理が、社員のモチベーションと生産性を爆発的に高めているのか。そこには、日本企業の停滞を打破するヒントが隠されていました。
東京ビジネスハブ
TBSラジオが制作する経済情報Podcast。注目すべきビジネストピックをナビゲーターの野村高文と、週替わりのプレゼンターが語り合います。今回は2026年5月10日の配信「40代で年収8600万円。ヒミツの高収入企業「ディスコ」が実践とは(岡ゆづは)」 を抜粋してお届けします。
世界シェアトップクラス、半導体装置メーカー「ディスコ」の実力
野村:半導体業界で非常に注目されている「ディスコ」について、まずはこの会社がどのようなビジネスを展開しているのか、改めて教えてください。
岡:ディスコは半導体の製造装置メーカーで、具体的には半導体を「切る」「削る」「磨く」という3つのプロセスに特化した機械を製造しています。たとえば、半導体ウエハーを極限まで薄く磨き上げたり、丸いウエハーからチップを四角く精密に切り出したりする装置では、世界で圧倒的なシェアを持っています。
野村:今、半導体業界全体が活況ですが、やはり業績も相当良いのでしょうか。
岡:おっしゃる通りです。ディスコだけでなく、日本には東京エレクトロンやアドバンテストといった強力な装置メーカーがあり、業界全体の平均年収も非常に高い傾向にあります。たとえばディスコの平均年収は約1600万円ですが、特筆すべきは「上限」の高さです。一般社員であっても、成果次第で数千万円のボーナスを手にすることができる。年齢、学歴、職種を問わず、頑張りがダイレクトに報酬に反映される「夢のある企業」なのです。
ボーナスに直結? 独自の社内通貨制度とは
野村:42歳で8600万円というのは、一般的な日本企業では経営幹部でもなかなか届かない金額です。どのような仕組みでこれほどの高額報酬が可能になるのでしょうか。
岡:その根幹にあるのが、ディスコ独自の社内通貨制度「Will(ウィル)」です。これは仕事のあらゆる局面で実際に流通している「お金」のようなものです。社員は仕事をすることでこのWillを稼ぎ、貯まったWillの量に応じてボーナスが決まる仕組みになっています。
野村:社員が社内で仕事を「受注」して稼ぐということですか?
岡:まさにその通りです。社内には「受注側」と「発注側」が存在します。開発、設計、組み立てといった実務だけでなく、資料作成や翻訳などのタスクひとつひとつに価格がつき、社内で取引が行われます。
野村:面白い仕組みですね。しかし、どうやって収支を管理しているのでしょうか。
岡:まず、社員は毎月、自分自身の「人件費」がコストとして引かれたマイナスの状態からスタートします。たとえば月給が50万円の人なら、マイナス50万Willを抱えた状態です。そこから仕事を受注して赤字を補填し、さらに利益を積み上げていく必要があります。
一方で、コストに対しても非常にシビアになります。会議室の使用料、PCの利用料、さらには食堂での食事や傘立ての利用にまでWillがかかります。自分の利益を最大化するために、無駄な会議を減らしたり、椅子や机を中古で済ませてコストを浮かせたりと、全社員が「個人事業主」のような感覚で動いているのです。
会社の利益が自分の取り分に直結するボーナス体系
野村:個人の収支がそのままボーナスになるということは、原資はどこから出ているのでしょうか。
岡:ボーナスの原資は、会社の「経常利益」に連動しています。会社が大きく稼いだ年は、ボーナス原資も何百億円と膨らみます。それを、個人のWill獲得量に応じて分配する仕組みです。
野村:つまり、自分だけでなく会社全体が儲からないと、自分の取り分も増えないわけですね。
岡:はい。そのため、「自分だけが稼げればいい」という考えにはなりにくいのです。会社の利益が下がればWillの価値(円への交換レート)も下がるため、組織全体でコストを削減し、高い付加価値を生み出そうという自浄作用が働きます。ディスコの社長も、「会社が儲かっているのに社員に還元しないと、社員のモチベーションを維持できない」という考えを徹底されています。
「上司の命令禁止」?徹底した市場原理と個人の意思
野村:8600万円を稼ぎ出すような人は、具体的にどういった動きをしているのでしょうか。
岡:高い技術で価値ある仕事を完遂するのはもちろんですが、ディスコには「PIM(Performance Innovation Management)」という業務改善運動があります。ここで優れた提案をしてプレゼンで勝利すると、多額のボーナスWillが支給されます。また、営業であれば、外から大きな案件を獲得してくることで高いインセンティブを得られます。
野村:社内市場原理を徹底すると、上司の立場はどうなるのでしょうか。
岡:ここがディスコのユニークな点ですが、上司からの指示や命令は原則として禁止されています。
野村:指示が禁止なのですか?
岡:上司の命令で動いてしまうと、「成果が出ないのは上司の指示が悪いせいだ」という言い訳ができてしまいます。それを防ぐため、あくまで「提案」にとどめ、社員が自分の意思で仕事を選び、価格を決めます。
さらに、強力な「フリーエージェント(FA)制度」もあります。今の上司の許可なく、他部署の部長と合意できればいつでも異動できる。つまり、嫌な上司や無能な管理職からは部下がどんどん逃げていき、仕事が回らなくなります。上司も「選ばれる存在」でなければならないという、究極の市場原理が働いています。
20年以上の試行錯誤を経て到達した「驚異の生産性」
野村:この仕組みは、最初からうまくいっていたのでしょうか。
岡:いいえ、導入から20年以上の歴史があります。1990年代にアメーバ経営をベースとした管理会計から始まり、2011年頃に個人単位のWill制度へ移行しました。当初は「おままごと」のように感じる社員もいたそうですが、2014年頃から個人Willとボーナスを本格的に連動させたことで、社員の意識が劇的に変わりました。
野村:その成果は数字にも表れているのでしょうか。
岡:圧倒的です。個人Willを導入した2011年当時の「1人あたりの営業利益」は約386万円でしたが、2024年には3174万円まで上昇しています。営業利益率は40%を超えており、これはNVIDIA(エヌビディア)のような世界的テック企業に匹敵する、製造業としては驚異的な数字です。
社内通貨「Will」がもたらしたものとは?
野村:これほど数字にシビアだと、余裕がなくなったり、育児や介護など人生の転換期にいる人が苦労したりはしないのでしょうか。
岡:実は、逆の側面もあるようです。たとえば育休明けの社員からは、「Willを支払うことで仕事を依頼できるのが、精神的に楽だ」という声があります。急な早退が必要なとき、単に「申し訳ない」と謝るのではなく、正当な対価(Will)を支払って引き継いでもらう。そうすることで、感情的な「貸し借り」ではなく、ビジネスライクに解決できることが、心理的な負担を軽減している側面があります。
野村:なるほど。お願いベースではなく、システムとして解決できるわけですね。新しいことへの挑戦についてはどうですか?
岡:そこには「インベストメントボックス」という仕組みがあります。社内でプレゼンをして仲間からWillを募る「社内クラウドファンディング」のようなものです。出資したプロジェクトが成功すれば、投資した社員にも配当が入ります。上司に予算を仰ぐのではなく、社員同士が「このプロジェクトはいける」と見込んで投資する。まさに社内ベンチャーキャピタルのような機能まで備わっています。
日本企業の停滞を打破する「ディスコ流」の教訓
野村:今回、ディスコの全貌を伺ってきましたが、非常に合理的な仕組みだと感じました。
岡:そうですね。取材して印象的だったのは、高年収を狙うギラギラした人ばかりではなく、意外にも穏やかで配慮のある方が多いことでした。「嫌な奴」と思われてしまうと仕事が回ってこなくなり、Willを稼げなくなるからです。結局、経済合理性を突き詰めると、誠実に他者と協力することが一番得になる、という世界観が構築されています。
野村:「働かない人が高い給与をもらっている」という不満が一切出ない、徹底した透明性。上司の主観的な査定ではなく、社内の市場価格で評価が決まるという仕組みは、多くの日本企業にとって耳が痛い話かもしれませんが、非常に示唆に富んでいると感じます。
岡:社員を信じ、権限と責任をセットにして完全に委ねる。そして、出した成果に対しては上限なく報いる。ディスコが示しているのは、そんなシンプルで力強い経営の形なのかもしれません。
<聞き手・野村高文>
Podcastプロデューサー・編集者。PHP研究所、ボストン・コンサルティング・グループ、NewsPicksを経て独立し、現在はPodcast Studio Chronicle代表。毎週月曜日の朝6時に配信しているTBS Podcast「東京ビジネスハブ」のパーソナリティを務める。