サッカーW杯の「3分間の給水タイム」、なぜ今大会から始まった? サッカーが「お金」に変わる仕組み

TBS NEWS DIG Powered by JNN
2026-06-22 19:40
サッカーW杯の「3分間の給水タイム」、なぜ今大会から始まった? サッカーが「お金」に変わる仕組み

サッカーのワールドカップを観ていると、前後半それぞれの途中で、試合が3分ほど止まる場面があります。選手が水を飲む「給水タイム」です。解説をしていた元日本代表の本田圭佑さんが、中継のなかで「これ、なんすか?」と口にしたほど、目新しいものでした。目的の一つは、選手への配慮。けれど、その裏には、もうひとつの狙いが隠れています。この小さな"中断"に、スポーツビジネスの今が詰まっているのです。ひとつの試合が、どうやって細かく切り売りされているのか。その仕組みについて、リサーチャーのcomugiが解説します。

(TBS Podcast『コムギコ:資本主義をハックしろ!!』2026年6月20日配信『サッカーW杯こそ「資本主義」のショーケースである』より)

突然始まった、3分間の給水タイム

この給水タイム、正式には「ハイドレーションブレイク」と呼ばれます。前半と後半、それぞれ22分ごろに3分間、試合を止めて選手が水を飲む。これが、今大会の全104試合で、初めて義務づけられました。

目的の一つは、選手の体を守ることです。今大会は、開催国の一つがアメリカで、暑い時間帯の試合もあります。直接のきっかけになったのは、昨年アメリカで開かれたクラブワールドカップでした。このとき、厳しい暑さのなかで、選手やコーチ、ファンから不安の声が上がりました。その反省を受けて、今大会から暑さ対策として導入された、というわけです。なお、1994年のアメリカ大会も猛暑が問題になりましたが、今回の直接の引き金は、あくまで昨年のクラブワールドカップです。

実際、医学の専門家からは「3分では短くて、5、6分ほしい」という声も出ています。「選手のため」という面は、確かにあるのです。ところが、この3分間には、まったく別のもうひとつの顔があります。

その「試合が止まる時間」が、まるごとCM枠になる

その顔とは、広告です。試合が止まる3分間が、まるごとコマーシャルの枠に変わるのです。

仕組みを、もう少し細かく見てみましょう。報道によると、中継する放送局は、給水ブレイクが始まって20秒ほど経ったところでCMを流し始めて、試合が再開する30秒前までに画面を戻す、という流れになっているそうです。これで、1回あたり最大2分10秒ほどの、新しいCM枠が生まれます。給水ブレイクは、前半と後半に1回ずつ、1試合で2回。それが全104試合ですから、試合が止まる時間だけで、合計10時間分を超える。その止まった時間の多くが、まるごと広告に使える枠に変わっている計算になります。

しかも、その広告枠の値段がすごいのです。アメリカの報道によると、この時間に流す30秒のCMが、グループステージの序盤の試合でも約20万ドル、日本円で約3000万円。アメリカ代表が出る注目の試合になると、約75万ドル、1億円を超える、という単価だそうです。選手を守るという目的と、広告枠を増やすという狙いが、同じひとつの仕組みのなかに同居しているのです。

サッカーを、アメフトのような「クォーター型」に作り変える

では、なぜわざわざ、こんなふうに試合を止める時間をつくるのでしょうか。

考えてみると、サッカーには、もともとアメフトや野球のような「自然な中断」が、ほとんどありません。90分、流れるように試合が進みます。これは、観るぶんには魅力なのですが、広告を売りたい側からすると、CMを差し込むすきまがない、ということでもあります。

だからこそ、給水という名目で、計画的に試合を止める時間をつくって、そこを広告として売る。これは、見方を変えると、流れっぱなしだったサッカーの試合を、アメリカの人気スポーツのように、いくつもの「区切り」がある競技に作り変えている、とも言えます。たとえば、バスケットボールのNBAは、1試合を4つの「クォーター」に分けます。アメフトも、同じく4クォーター制。試合がこまめに止まって、その止まったところに、CMをどんどんはさんで稼ぐ。流れの止まらないサッカーを、その「クォーター型」のスポーツに、じわじわ近づけている、というわけです。これが、いかにもアメリカらしいやり方なのです。

決勝には史上初のハーフタイムショー 試合を「魅せる興行」に

試合が止まる時間を商品にする発想は、ハーフタイムにも及んでいます。今大会の決勝戦では、ワールドカップの歴史上はじめて、ハーフタイムショーが行われます。出演するのは、マドンナ、シャキーラ、それからBTS。これは、アメリカのアメフトの祭典、スーパーボウルでおなじみの演出です。

ただ、サッカーの現場からは、戸惑いの声も出ています。報道によると、ショーの設営と撤去まで含めると、ハーフタイムが25分から30分まで延びるかもしれない、というのです。そうなると、選手のコンディションや試合の流れにどう響くのか、中継する側も心配している、という話です。

それでもやるのは、サッカーの試合を、ただの試合ではなく、「魅せる興行」、エンターテインメントのショーに仕立てることで、サッカーファン以外の人まで呼び込めるからです。試合を、丸ごとひとつの興行として設計し直す。これも、アメリカらしい考え方なのです。

チケット、二次流通、接待まで 「ひとつの試合」が分解されて売られる

ここまで、試合が止まる時間の話をしてきましたが、視野を広げてみると、ワールドカップでは、ひとつの試合が、いたるところで細かく分解されて売られています。

まず、チケットです。今大会では、需要に応じて値段が動く「変動価格(バリアブルプライシング)」が、ワールドカップで初めて導入されました。航空券やホテルと同じ考え方です。なお、よく使われる「ダイナミックプライシング」という呼び方を、FIFA自身は使いません。値段が自動で変わるわけではない、として「変動価格」と説明しています。決勝戦のチケットは、いちばん高い正規の席で、最終的に約3万3000ドル、日本円にすると約500万円まで引き上げられました。前回のカタール大会の最高額が約1600ドルだったので、なんと約20倍です。

その二次流通市場も、商売に取り込まれています。FIFAはチケットの転売を禁止せず、自分たちで公式の二次流通サイトを用意して、取引のたびに、売った人と買った人の両方から、それぞれ15%の手数料を取ります。さらに、観戦に飲食や専用ラウンジを付けた高額な「ホスピタリティ」というパッケージもあり、いちばん高いものは約1100万円。これは、観戦が「個人の娯楽」から「企業の接待」へと変わってきていることの表れです。そして、この流れは日本にも来ていて、国立競技場には2026年4月、企業向けの最上級の観戦エリアができました。

ワールドカップは、いまの資本主義の「ショーケース」

座席、止まる時間、ハーフタイム、二次流通、接待。こうやって並べてみると、ひとつの試合を、たくさんの部品に分解して、それぞれを別々の商品として売っていることが見えてきます。90分の試合を観るというより、半日がかりの、丸ごとの体験を売る。そうやって、お客さん1人あたりから落ちるお金を、最大にしていく。これが、アメリカ流のスポーツビジネスなのです。

こうした切り売りが、これほど加速しているのはなぜでしょうか。背景にあるのは、大会そのものの大型化です。今大会から、出場国が32から48に、試合数も64から104へと、大きく増えました。規模が大きくなれば、動くお金も膨らみます。FIFAが今のサイクルで手にする放映権料だけでも、約6800億円。賭け金が大きくなったぶん、一つひとつの試合から少しでも多く回収しよう、という力が働くわけです。

そして、こうした変化の多くは、開催国のひとつであるアメリカが磨いてきた手法です。1試合を、座席や、中断時間や、データにまで切り分けて、お金に変えていく。今回のワールドカップは、いまの資本主義の最前線を、これ以上ないほど分かりやすく見せてくれる「ショーケース」になっているのだと思います。

<コムギコ:資本主義をハックしろ!!>
毎日ニュースを100本を読むビジネス系VTuberのリサーチャーであるコムギ(comugi)が、日々の経済にまつわるニュースを解説するビデオポッドキャスト。本記事は2026年6月20日配信『サッカーW杯こそ「資本主義」のショーケースである』から抜粋してまとめたものです。

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