【370兆円投資】高市総理肝いりの成長戦略“17重点分野”に巨額投資「今がラストチャンス」現場は期待も…課題は【news23】

TBS NEWS DIG Powered by JNN
2026-07-01 14:28

政府は先月30日、日本の成長戦略の原案を取りまとめました。目玉は、AIなど17の重点分野への巨額投資です。その額は、2040年度までに総額370兆円以上。その期待を背負う現場を取材すると、「今がラストチャンス」という声が聞こえてきました。日本は変われるのでしょうか。

【写真で見る】370兆円の巨額投資 期待する現場が抱える“課題”とは

社会を支える巨大ネジの工場 直面する「担い手の高齢化」

長崎県佐世保市にある工場で作られているのが…

記者
「こちらの企業では金属を加工したネジを作っていますが、最も大きなサイズとなると私の身長の約4倍のものになります」

長さは約6メートル、重さは2.5トン。高速道路の柱を支えているといいます。他にも風力発電設備など社会インフラを支えるネジを手がけています。

大型船用ディーゼルエンジンのネジは国内シェア9割を誇ります。

創業は1931年。95年にわたり、磨き上げてきた技術が「転造」。

濱田屋商店 濱田隆作 社長
転造は切削ネジに比べると強度が非常に強くなる

「転造」とは棒状の金属にローラーで強い圧力を加え、ねじ山を作る工程のこと。「緩み」や「ゆがみ」が起きにくいのが特長です。

しかし今、担い手不足に直面しているといいます。

濱田隆作 社長
本当にものづくりの企業として成り立っていけないんじゃないかなという、そういう不安があります。転造で作業している従業員も高齢化が進んでおりまして」

長崎県では人口減少が進み、ものづくりを支える働き手の確保が難しくなっているといいます。

工場では機械化を進めていますが、品質を左右する「転造」は今も熟練の“職人技”が欠かせません。

濱田隆作 社長
「シェアが90%という先輩たちが築き上げてきてもらった実績を、これから未来にどう繋いでいくのか。これは本当に大きな課題

官民投資の「フィジカルAI」 “ラストチャンス”工場が迫られる導入の決断

そんな中、期待をしているのが、AIで自律的に動くロボット「フィジカルAI」です。

政府は、2040年度までに10.5兆円の官民投資を実現するとしています。

高市総理
「未来への投資不足の流れを断ち切り、新たな市場獲得の挑戦を全力で後押ししていく」

ただ、現場での教育や実証などが必要で、実装には5年はかかると言われています。

濱田隆作 社長
「今、(フィジカルAI導入を)『やるかやらないか』というのを迫られているんじゃないかなと。ラストチャンスじゃないかな」

フュージョンエネルギー開発を阻む「資金の壁」

一方、市場の拡大がこれから期待される新しい産業でも“ラストチャンス”を迎えています。

管が複雑に入り組む巨大な装置で行われているのが「核融合発電」の技術実証です。“地上の太陽”とも呼ばれる「核融合」=フュージョンエネルギー。

原子核同士を衝突・融合させて核融合反応を起こし、地上で太陽の原理を再現することで生まれる膨大なエネルギーで発電する次世代の技術です。

世界各国が2030年代の発電実証を目指し、技術開発を競い合っているのです。

中でも京都大学発のベンチャーは、世界に先駆けた強みを持っています。

京都フュージョニアリング 小西哲之 CEO(69)
「エネルギーを取り出して電気にして皆さんの手元に届ける技術を開発しているのは、まだ“世界で我が社だけ”アメリカも中国もやっていないので、間違いなく世界でトップを走っていると自信をもって言える」

資源を海外からの輸入に頼る日本にとって、「核融合発電」は海水から燃料となる水素をほぼ無尽蔵に作り出すことができるほか、1グラムの燃料で石油8トン分のエネルギーを生み出す効率の良さも魅力です。

しかし、課題のひとつは「資金」。アメリカの核融合ベンチャーの中には、1社で5000億円もの資金を集める企業がありますが、この企業の調達額は162億円程度。

小西哲之 CEO 
「フュージョンエネルギーをやろうという機運は、アメリカ・中国が一歩進んでいる。お金が来れば、若い人に(技術を)伝えて新しい仕事をすることができる。それが繋がるギリギリのところ。最初で最後のチャンスかもしれない

総額370兆円・17の成長分野 「失われた30年」を脱するラストチャンス

藤森祥平キャスター:
狙いを17の成長分野に定めた、総額370兆円を超える巨額投資。高市総理は「世界的な産業政策の大競争時代に対応していく」としていますが、そうなるのでしょうか。

TBS経済部 古市啓一朗記者:
この失われた30年、日本は技術で勝っても、世界の市場を取ることで負けるという歴史を繰り返してきました。

アメリカや中国、韓国が、いずれもすでに巨額の投資を行っている中、取材した現場からは「今やらないと勝てない」という声が聞かれましたので、“ラストチャンス”とも言えるのだと思います。

藤森祥平キャスター:
効果は本当に出るのでしょうか?

古市啓一朗記者:
高市政権の成長投資、課題は大きく2つあります。

(1)官民の投資額の内訳
(2)財政悪化→円安?

「官民370兆円」という巨額のうち、民間・政府がいくらを出すのかという内訳は示されていません。政府が呼び水となるお金を出しても、期待する民間投資を引き出せるかは未知数です。

政府は今回数字を出し、ブラッシュアップする過程でさらに具体化していくと言っていますが、まだ全貌は見えない状況です。

歴史的円安で世界が注視「日本の財政」と巨額投資の行方

藤森祥平キャスター:
円安が止まらない中で、政府がどれだけお金を出すのか世界が注目していますよね。

古市啓一朗記者:
アメリカの要因もあり、6月30日夜時点では1ドル=160円台前半と円安が進んでいますが、背景には高市政権の積極財政で、財政が悪化するとの懸念がくすぶっていることがあります。

政府は積極投資で経済成長して税収が増えるとの絵を描いていますが、人手不足の日本で本当に投資が集められるのか、疑問を持たれると金利が上昇したり、あるいは日本売りに繋がりかねない状況です。

東京大学准教授 斎藤幸平さん:
私は「計画経済」を支持しています。これまでのような市場任せではなく、国家が何を作るか。

アベノミクスを振り返ると、量的緩和をしても企業の内部留保や株式市場に滞留するばかりで、実体経済や研究開発には回りませんでした。

それを変えるためには、高市総理が目指すように、国が旗振りをして方針を示す必要があります。

ただし、注意すべき点もあります。
過去の「クールジャパン機構」のように、使途が不透明なまま失敗に終わるリスクもありますから、単なるバラマキにならないよう、過去の失敗を検証することが不可欠です。

また、中国からしっかり学ぶ必要もありそうです。
中国はこの20年間、宇宙開発やAI・半導体、ロボットなどの分野に投資し、世界最先端のアメリカにも勝つほどになっています。

日本は「中国のほうが劣っている」という考え方を捨てて、目を向けるべきです。

そうすることで見えて来るのは、競争環境の整備や、投資分野の選定プロセスの透明化、第三者による厳格なチェック、そしてしっかりやっていない場合の罰則を設けることが求められます。

投資額の大きさだけではなく、「意味のある計画」となることを期待しています。

==========
<プロフィール>
古市啓一朗 記者
TBS経済部 内閣府・財界担当
高市政権の成長戦略や経済界を取材

斎藤幸平さん
東京大学准教授 専門は経済・社会思想
著書『人新世の「資本論」』

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