リレー侍、伝統の“アンダー”から“オーバー'へバトンパスを変更 ロス五輪メダルを見据え「大きなトライ」

32年ぶりに日本で開催されるアジア大会に向けて、陸上男子4×100mリレー日本代表が、11日に味の素ナショナルトレーニングセンターで公開練習を行った。メンバーは桐生祥秀(30、日本生命)や小池祐貴(31、住友電工)、多田修平(30、住友電工)のベテラン勢に加え、今季絶好調で自己ベスト(10秒07)を大幅に更新した小室歩久斗(20、中央大2年)の4人。
バトンを手にトラックに集まると、小室だけでなくベテラン勢もバトン渡しを入念に確認。よく見ると、バトンパスが伝統のアンダーハンドパスからオーバーハンドパスへと変化していた。
信岡沙希重ヘッドコーチは、「これまで日本にはオーバーハンドパスでのデータがないので、ロス五輪に向けてバトンパスは何が最善なのかというのを考えたときに”アンダーの方が良い”という根拠がなかった。代表チームとしては、今日が本当に初めての試みだったので手応えなどは申し上げられないが、オーバーハンドを試すことは前々から議論には上がっていて、じゃあ一回試してみようというのが世界陸上や五輪のない今回のタイミングとなった。確実にオーバーハンドでロス五輪まで目指しますということではなく、各国もバトンパスが向上しているなかで、日本もこれ以上の上昇ができないかという部分で大きなトライとして取り入れた」と話す。
長年、日本リレーチームを牽引してきた土江寛裕氏(日本陸連シニアディレクター)は、過去のインタビューでアンダーハンドパスを取り入れた経緯について、「日本代表選手がバトンパスにもっと重きを置くように、という理由でアンダーハンドパスを取り入れた。なので、正直アンダーハンドパスの方が良いということではなく、練習をしなければいけないという意識づけが目的だった」と話している。
アンダーとオーバーの大きな違いはバトンの受け取り方にある。アンダーハンドパスでは、受け手は手のひらを下に向けた状態で、渡し手が下から入れるようにバトンを渡す。一方、オーバーハンドパスは手のひらを相手に向けるように高く出し、渡し手は押し出すようにバトンを渡す。アンダーのメリットは、バトンの安全性と受け手の走り易さにある。渡し手と受け手の距離が縮まることで近いところで安全に渡すことができ、受け手は大きく手を上げずに普段の走るフォームに近い形で受け取れることで加速へ乗りやすい。逆にオーバーハンドパスのメリットは利得距離。お互いに精一杯手を伸ばして受け渡すため、距離を稼げるところにある。日本はアンダーハンドパスを独自に進化させ、渡し手が精一杯手を伸ばしながら渡すことで利得距離においても稼ぐことができていたが、東京五輪や今年の世界リレーでのバトンパス失敗を経て、大きな変革の時を迎えた。
実際にこの日、初めてオーバーハンドパスを試した選手らは、受け手の手の出し方や渡し手の声をかけるタイミングを一回一回確認。いつも以上にコミュニケーションを取りながら、練習を進めている印象を受けた。練習序盤、1走の多田から2走の小室へのバトンパスでエラーはあったが、その後リード距離(走り出す目印を置く距離)を修正すると見事にバトンが渡り、その他の区間では一発でバトンが渡った。
日本陸連でリレーの科学的分析を行う小林海氏は、「パリ五輪終わりから議論に上がっていて、このタイミングでオーバーのデータを取ろうということになった。オーバーハンドパスのデメリットで言うと、受け手が手を高く上げることで、体勢が起き上がり加速に影響が出るところ。それを世界各国と同じような高さに手を上げるのではなく、アンダーの良いところも取り入れながら、受け手の手の高さなどを調整していければ。実際に今日やってみて、タイムもアンダーと同等の数値が出ている」と話す。
これまで、バトン受け渡しの40m区間タイムを3秒75という基準を設けていたが、初回となる今回でも、それに近い3秒8前後で受け渡しを成功させていた。リレー侍によるオーバーハンドパスのお披露目レースは、来週18日㈯にあるダイヤモンドリーグ・ロンドンが初戦。この13年、日本代表でリレーを走ってきた桐生は、「アンダーの良いところもあれば、オーバーの良いところもある。(受け手の)リード距離も変わるし、声をかけるタイミングもアンダーより離れている。それでも、利得距離があるので離れていても渡せるなという感覚はあった。僕自身もオーバーハンドパスをやってみたいと思っていたタイミングだったので、試合が楽しみ」と前向きな感触だった。
日本選手権を優勝し5年ぶりに代表チームに帰ってきた多田は、「僕の走り方的にアンダーよりオーバーの方が渡しやすいと思っていた。僕は上半身を反って走るのでアンダーだと一回手元を見るために下を見たりしていた、渡しづらさがあった。今日実際にやってみて、距離感はアンダーよりすごい遠いので、焦ってしまったところはあったが、本数を重ねて慣れていければと思う。ダイヤモンドリーグで来年の世界陸上北京の出場権を獲得するために37秒7台ってところをチームで最低限の目標にしているので、まずはタイムを出したい。アジア大会では、自国開催の東京五輪でバトンを失敗して終わっているので、そのリベンジとして、しっかり勝ち切りたい」と力強く話した。大きな変革期を迎えたリレー侍が、アジアを制して再び世界のメダルを目指す。