「全員引きずっていた」パリで流した涙の先へ…石川祐希30歳が肉体改造で挑む“世界一の競争”とあえて封印したリーダーシップ【バース・デイ】

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2026-07-15 06:00
「全員引きずっていた」パリで流した涙の先へ…石川祐希30歳が肉体改造で挑む“世界一の競争”とあえて封印したリーダーシップ【バース・デイ】

2026年4月、イタリア中部の地方都市・ペルージャ。自ら車を運転して待ち合わせ場所に現れたのは、バレーボール男子日本代表のエースであり、キャプテンを務める石川祐希(30)だ。  カプチーノを注文し、少しリラックスした表情を見せる石川は、イタリアに拠点を移して11年目を迎える。

【写真でみる】リラックスした表情で取材に応じる石川選手

日本と比べて、異国での日常で最も違いを感じる部分を尋ねられると、彼はふっと表情を緩ませた。

「やっぱり周りの目をあまり気にせずに過ごせるので、その辺はちょっと楽かなと思います」

石川がイタリアへと渡るきっかけとなったのが、2014年に韓国・仁川で行われたアジア大会だった。当時、大学1年生の18歳で日本代表デビューを果たした石川は、低迷していた男子バレー界に現れた待望の新星として一躍注目の存在となった。

初めて世界との戦いを経験したこの年、さらなる成長を求めて石川は世界最高峰のプロリーグ・イタリア「セリエA」への挑戦を決断する。

異国の地での1人暮らしと絶対的エースへの階段

慣れない異国の地で初めての1人暮らし。19歳の若者は、覚悟を滲ませるようにこう語っていた。

「正直大変ですけどやらないといけないので。大変な経験も味わっておくと後が楽かなと思います。年齢が若いですけど関係なく、代表チームを引っ張っていけるような存在になりたい」

その言葉通り、日本代表の絶対的エースとなり、男子バレーの復活を牽引してきた石川。今年は日本のキャプテンとして、2年後のロサンゼルス五輪へ向かう勝負の1年である。

日本代表合宿の場で、石川は「やっぱりメダルを取りたいという思いは変わらない。パリで非常に悔しい経験もしたので、ロスではその経験に意味があったと言えるように」と思いを口にした。

パリ五輪での痛恨の逆転負け、そして再起の誓い

2024年のパリ五輪。世界ランク2位のメダル候補として挑んだ、イタリアとの準々決勝。日本は2セットを連取し、第3セットを迎えた。勝利まであと1点というマッチポイントまで迫りながらも、ここからイタリアに逆転を許してこのセットを奪われると、まさかの逆転負けでベスト8敗退。メダルを逃した。

石川は「この1本、この1点を獲らなきゃいけない時に逃した代償、ダメージは大きい。僕だけじゃなくて、全員引きずっていた」と振り返る。さらに昨年、3大会連続のメダルを目指した「ネーションズリーグ」でも敗戦を喫し、大会後、日本の世界ランクは7位まで後退した。石川は「オリンピックの切符を取ることが一番重要なので、そこでしっかり結果を出せるチーム、選手になりたい」と前を向く。

パリで流した涙のその先へ。ネーションズリーグ開幕戦のロッカールームで、円陣を組んだ石川の鼓舞する声が響いた。

「勝ちに一番こだわってやっていきましょう」

雪辱を誓う不屈のエース、その激闘の日々を追った。

世界一シビアな競争と強化ポイント「サイドアウト率」の向上

「個人それぞれが成長すること、そして、代表でプレーするときに常に結果が出せるチームであること。うまくなりたい、強くなりたい、トップになりたい」

1点に泣いたパリからの雪辱へ燃える石川。パリ五輪後、さらなる成長を求めて戦ってきた舞台が、イタリア・セリエAの強豪「ペルージャ」である。各国のエースが集まる常勝軍団では、毎日、世界一シビアな競争が繰り広げられている。日々の練習からアナリストが各選手のデータを収集し、分析結果が張り出される。

石川はデータを見つめながら、その見方を解説してくれた。

「これがブロックで、こっちがレセプションかな。良かったらGOOD。良くなかったらBADマーク。数字が上がれば練習がしっかりできている証明になる」

ここで石川が強化ポイントとして取り組んできたのが、「サイドアウト率」の向上である。

サイドアウト率とは、サーブレシーブからチームの得点に繋がった確率のことだ。相手サーブの標的になりやすいアタッカーにとって、攻守両面で大事な指標となる。石川は「サイドアウト率が出てる数字とかバーって見せられて。チームの1位がポーランドのセメニウク選手で70%、7位が僕で64%」と現状を明かす。そのために「自主練というかレセプション(サーブレシーブ)を時間がある時は練習している。ひたすらボールを受けてただ受けるのではなくて、こうしたら返球率が上がるとか、自分の中でそういったものを掴む」と課題に向き合ってきた。

徹底したフィジカル強化とイタリアでのリーグ制覇

そしてもう1つ、石川が世界で戦うために取り組んできたのが、フィジカルの強化である。週5日、チーム練習前にウエイトトレーニングを行い、肉体を追い込む。練習の合間の息抜きについて尋ねられると「あまりしてないですね」と石川は苦笑する。

「体育館と家を行き来してばっかり。僕は歩くのがあまり好きじゃない、歩くことも疲れるし。バレーだったらちゃんとやりますけど、それ以外のことに体使うのがあまり好きじゃなくて…」

世界のトップチームでレギュラーを争い、セリエAの2025―2026シーズンでアタッカーとしてさらに一段進化した石川は、今年5月には初のリーグ制覇も経験した。現地メディアのインタビューに、石川は流暢なイタリア語で「この優勝は僕のキャリアにとって非常に重要ですが、人生は続くので、これから何が起こるか楽しみです」と語る。

名将ティリ監督の就任とあえて封印したリーダーシップ

技術を磨く一方で、日本のキャプテンとして追い求めてきた姿がある。

「プレーで見せるのは前提で、コミュニケーションとか、言葉一つでチームを動かせられるようにしたい。例えばいつも通りコミュニケーションをとる中で、一言ちょっと心に刺さるようなワードを入れたり」

だが、昨シーズンだけはあえてリーダーシップを封印した。その理由について、石川は冷静に分析する。

「様子も見たかったというか、監督が変わって1年目で監督の求めるバレーボールをすぐに発揮することの難しさ…」

昨年、日本代表はロサンゼルス五輪に向けチームを一新した。その新たな監督に就任したのが、東京五輪でフランス代表を金メダルへと導いた、世界を知る名将ロラン・ティリである。ティリ監督は「今年は日本代表が3年後のロス五輪で最高の成果を上げるための移行と再構築の年になります」と方針を示し、1年目はパリの主力選手を休養させ、若手中心のメンバーでチームを始動させた。

新チームの初陣となった「ネーションズリーグ」では、これまでサブでの出場が多かった宮浦や大塚、若手の甲斐などに経験を積ませた。途中合流した石川は、あえて前に出ない選択をした。

「口は出さずに、監督の思っていることを全て受け入れてチームを作っていく。少しメンバーも若くなったりして、彼らの様子も見ながらチームを作っていた」

そして、3大会連続のメダル獲得がかかったネーションズリーグの決勝ラウンドでベスト8敗退に終わった際、石川は「終わってみれば、もう少し自分がチームをまとめるべきだったかなと思っているところはありますけど。1年目はこれで良かったかなと正直思います。今年はそれプラス僕の意見もそうだし、選手たちの意見もプラスしてチームを作っていければと思います」と振り返っていた。

封印を解いたキャプテン、新チーム2年目の進化

今年5月、ナショナルトレーニングセンター。新チームとなって2年目、石川は封印していたリーダーシップを発揮し始めた。「お前が前方でコール、俺が前衛に上がって入る」など、選手はもちろん、監督やスタッフと意見を交わし、チーム作りを進めていく。

そして6月。中国・臨沂(りんぎ)にて、日本代表の新チーム2年目の真価が問われる「ネーションズリーグ」が開幕した。

ラスト1点の攻防に泣いたパリの経験を糧に、さらなる成長を追い求めてきた石川。スロベニアとの第4戦を前にした日本代表のロッカールームで「試合最後の1点を取り切るまで油断せず、集中して戦い切りましょう」とチームを鼓舞した。

日本代表の真価が問われるシーズン最初の国際大会「ネーションズリーグ」の予選ラウンド。日本は初戦から破竹の6連勝を飾る。第7戦では、パリ五輪銅メダルのアメリカと対戦。宮浦のアタックや、髙橋藍のバックアタックなどで日本の勝利となり、開幕7連勝を果たした。

絶対王者フランスを大逆転、大阪ラウンドとメダルへの決意

迎えた第8戦。対するは、五輪連覇の絶対王者フランスである。フランスにマッチポイントを握られ、あと1点で敗北という絶体絶命の状況の中、キャプテンが異次元の輝きを放ち、その本領を発揮する。石川はレシーブからの得点でチームを救うと、さらに鋭いアタックを決めていく。そして、日本はパリ五輪王者のフランスを倒し、見事に8連勝を果たした。

決勝ラウンド進出をかけ、大阪での戦いに挑む石川は、「次は僕たちのホームラウンドになるので、皆さんの前で試合をするのが楽しみです。もっとパフォーマンスを上げられる、まだまだだと思うので、もっと上げた状態で大阪ラウンドに入りたい」と意気込みを語る。

2大会ぶりのメダル獲得、そしてアジア大会制覇へ。石川祐希の戦いはこれからも続く。

(TBSテレビ「バース・デイ」2026年7月11日放送より)

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