社会に求められる「基礎的公共情報」の共有・その2<明日のジャーナリズムへ>第4回【調査情報デジタル】

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2026-07-25 08:30
社会に求められる「基礎的公共情報」の共有・その2<明日のジャーナリズムへ>第4回【調査情報デジタル】

SNS全盛時代にあって、新聞やテレビなど伝統的な報道機関の持つ影響力や存在感は相対的に弱くなったと指摘される。しかし、健全な民主主義社会には専門的に報道に携わる組織あるいは個人が不可欠であることは論をまたない。ただ、そうした人たちの取材報道活動=ジャーナリズムを時代にあわせてアップデートすることは重要だ。そのために必要な議論の素材を提供する目的で始まった、専修大学ジャーナリズム学科・山田健太教授による連載「明日のジャーナリズムへ」の第4回は、前回に続き、「基礎的公共情報」の共有について。

名前を報じるうえで現場において最も悩ましいのが、犯罪被害者の扱いであることは間違いない。例えば実名報道をした後、犠牲者のご遺族から涙ながらの抗議の電話がかかってくれば、人としてそれを無視することはできまい。むしろそうした辛い思いをさせてしまった責任を、当該メディアは負う必要が出てくる。

さらに近年では、当事者にはすぐに弁護士が付く制度が整備され、取材や報道に対して法的な警告書の類いが届くことも少なくない。今回は、こうした具体的な事例を念頭に、犯罪被害者の取材・報道に特化して話をしていきたい。

40年の間に大きく変わった被害者報道

これまで(あるいは今日においても)社会制度として、犯罪被害者をきちんと守っていくことが十分ではなかった。当事者遺族が声をあげることによって、ようやく徐々にではあるが法律が追いついてきたのが1990年代以降の流れである。

同様に取材報道の在り方も、遠慮なき取材や書きたい放題の時代から、大きく様変わりしてきた。例えば、1985年の日航ジャンボ機御巣鷹山墜落事故の際、日本航空は乗客名簿をいち早く公開。放送はじめ多くのメディアは名前だけではなく、なぜ搭乗したかをはじめ詳細な個人情報の「発掘」競争を繰り広げた。

その約10年後に発生した1997年の女性会社員円山町殺害事件では、被害者の生前の行状や全裸写真まで週刊誌で報じられる事態となった。翌1999年の女子大学生桶川ストーカー殺害事件(注1)においても、被害者の大学生について事実に反する噂話が報道によって拡散していった。いずれの場合も、弁護士会が声明や意見書を発表し、取材や報道を戒める事態を生んだ。そうしたなかで、「全国犯罪被害者の会(あすの会)」が2000年に設立され、具体的な支援法制に繋がっていく流れができていった(注2)。

一方、2003年の個人情報保護法が成立するなど、社会全体でプライバシーをめぐる意識の高まりがあり、2000年代以降、被害者をめぐる扱いは大きな転換を迎えたといえる。

例えば2005年に起きたJR西日本福知山線事故では、一部の犠牲者の氏名は伏せられたままとなった。2013年のアルジェリア日本人人質事件でも、日揮・政府ともに実名発表はしなかった。その後も2016年の相模原障害者施設殺傷事件、2017年の座間連続殺人事件、2019年の京都アニメーション放火殺傷事件、2022年知床遊覧船沈没事故と、事件・事故が起きるたびに「実名・匿名」問題が社会的問題となり、結果として被害者遺族に精神的プレッシャーを与える結果となってきたと言えよう。

(注1)遺族の取り組みや清水潔の調査報道(『桶川ストーカー殺人事件――遺言』に詳しい)により真犯人が特定されたことなどもあり、ストーカー規制法制定に結びついた。

(注2)犯罪被害者支援の歴史をごく簡単に振り替えると、最初は1967年の市瀬朝市さんの「殺人犯罪の撲滅を推進する遺族の会」の発足が挙げられることが多い。1980年に犯罪被害者給付金支給法、1992年に東京歯科医科大学「犯罪被害者相談室」設置、96年に警察庁が被害者対策要綱を制定するとともに犯罪被害者対策室を設置、98年に全国被害者支援ネットワーク発足、そして99年の「被害者の権利宣言」へと続く。

整備が進んだ犯罪被害者保護制度

こうした2000年代の変化の根底にあるのは、被害者保護のための法制度の新設だ。2004年に制定された犯罪被害者等基本法は3条で、「すべて犯罪被害者等は、個人の尊厳が重んぜられ、その尊厳にふさわしい処遇を保障される権利を有する」と明快だ。同時に6条では、「国民は、犯罪被害者等の名誉又は生活の平穏を害することのないよう十分配慮するとともに、国及び地方公共団体が実施する犯罪被害者等のための施策に協力するよう努めなければならない」と定められ、ここには当然ジャーナリストも含まれる(注3)。

基本法を受け政府は5年ごとの犯罪被害者等基本計画を発表している(2005年が第1次)。2026年度に第5次が発表されているが、内容にそれほど違いはない。

報道の関係で注目すべきは、「重点課題に係る具体的施策」の「精神的・身体的被害の回復・防止への取組」の中で定められた、法15条関係の「安全の確保」に関する規程である。ここでは「犯罪被害者等に関する情報の保護」として警察の被害者実名発表については「配慮する」ことが明文化された(注4)。これだけでは何を言っているかわからない一文だが、その真意は当事者の意向に沿うようにとの意味合いである。

法制定や基本計画策定の経緯のなかで、「被害者側意向=匿名発表」であるとして、原則警察は氏名を発表しないことを盛り込む考え方が示された。報道界は従来の警察と報道間の「慣習」を大切にして、原則実名発表を維持するように求め、玉虫色の決着をみたといえよう。

一方で2017年改正の個人情報保護法で新たにカテゴライズされた要配慮個人情報の1つとして「犯罪被害者情報」が含まれることになった。この点でも、警察が実名発表する際の扱いとしてより物理的精神的な壁になることは間違いない。

(注3)警察情報に基き被害者からの求めがなくても「犯罪被害者等早期援助団体」が介入できる仕組みもできている。また毎年11月末には「犯罪被害者週間」が実施されている。

(注4)「キ 警察による被害者の実名発表、匿名発表については、犯罪被害者等の匿名発表を望む意見と、マスコミによる報道の自由、国民の知る権利を理由とする実名発表に対する要望を踏まえ、プライバシー保護、発表することの公益性等の事情を総合的に勘案しつつ、個別具体的な案件ごとに適切な発表内容となるよう配慮する」

被害者との接触が困難になってきている現状

さらに被害者報道にとっての大きな環境変化が、犯罪被害者支援制度の充実だ。

今年2026年に始まった犯罪被害者等支援弁護士制度(法律援助・注5)では、被害者は無料で、早期の段階から弁護士による包括的かつ継続的な援助を受けることができるようになった。また以前から各地に犯罪被害者支援センターが設置され、警察OBや市民ボランティアによる被害者サポート体制ができあがってきた。

日本で最も手厚い活動組織の1つであって警察・支援センター・弁護士によって構成される「かながわ犯罪被害者サポートステーション」配布のパンフレットでは、「周囲の人の言動による傷つき」の事例として「配慮に欠けるマスコミの取材、報道」が掲げられている。これらを受け、被害者弁護士の仕事の一つは「メディア対策」であって、いかに報道関係者から被害関係者を引き離すか(接触させないか)にあるとされる。

実際には被害者を傷つける者の筆頭が報道関係者(メディア)ではなく、むしろ警察官・検察官・裁判官、加害者・加害者家族・加害者側弁護士、医療関係者、支援者、家族であったりすることが、研究調査報告書からも明らかではある(注6)。

しかし一方で、報道関係者の「悪事」がネット等で増幅され、メディアが人権侵害の元凶という悪イメージが固定化されているのは否定できない。また実際、遺族に対して事件や事故の発生直後に、いまだに大挙して取材攻勢をかけたり、「いまのお気持ちは」的な配慮がない質問の投げかけが続いていたりすることも数多く報告されている(注7)。

こうしたすれ違いのなかでの両者の直接的な接触機会の減少は、結果的に報道の必要性や意義を関係者に伝えることもできないまま、一方的に警察発表に基づく報道が先行する結果を生み、ますます被害者(家族)との距離を大きくしてしまう結果を生んでいる側面も少なくない。それは双方にとって不幸な事態といえるだろう。

実際に取材や報道による「2次被害」(トラウマ)が生じる可能性はあるわけで、こうしたトラウマの専門的知識なしに取材を行うことが、当事者の苦しみを増幅していることは否定できない(注8)。

(注5)2026年1月から開始され、法務省ウエブサイトでは「法テラスは、対象犯罪の被害者等からの問合せに対し、本制度や犯罪被害者支援の経験や理解のある弁護士の紹介を行い、被害者等は、紹介を受けた弁護士から、無料法律相談を受けることや、捜査機関や相手方に対する法的対応等の支援・代理などをしてもらうことができます」と記す。

(注6)平成19年厚生労働科学研究費補助金(こころの健康科学研究事業)「犯罪被害者の精神健康の状況とその回復に関する研究」分担研究報告書による。

(注7)被害者の心理的反応と時間的経過の基本的な知識も必要だ。被害直後の衝撃機(数時間から48時間)、急性期(数日から数か月)、慢性期(数か月から年単位)によって心理反応が異なるとされるが、これらも研究の深化によって変化がある。また当然のことであるが、すべての人が精神障害を発症するわけではないし、あらわれ方も人それぞれである。例えば『犯罪被害者に対する急性期心理社会支援ガイドライン』参照。

(注8)犯罪被害により衝撃や喪失とともに、2次的に生じるストレスがあるとされ、これには刑事司法上の手続き、民事訴訟、身体的・精神的治療、さまざまな機関との関係と並び、メディアへの対応が挙げられてきた。

犯罪被害者の「嫌なこと」の内実

しかし一方で、報道は一般に「相手の嫌がることを報じる」ことが少なからずある。その典型は政治家の悪事の追及で、当人にとっては嫌なことに違いない。事件事故報道においても、当事者(被害者)の期待通りの報道(時には報道しないこと)ではなく、場合によっては望まない報道をしなくてはいけないことは十分にある。むしろその方が現実的には多いといってもよかろう。

では「嫌なこと」とは何なのか。実名報道されることが嫌との声があることは事実だが、その内訳は名前そのものが出ることではなく、それがきっかけでのプライバシーの暴露であることが多い。直近の例でいえば沖縄・辺野古沖転覆事故において、犠牲者の高校生の父親はウェブ上で誤った情報を正す必要があると思ったと記している(注9)。

そもそもプライバシー権は、スキャンダル報道を懲らしめるために米国の弁護士によって考え出された法理論であって、取材報道を制限することが目的である。そうしたプライバシーの侵害があるとすれば、当然、報じたものには責任を負う覚悟と責任が求められることになる。

そして何より犯罪被害者も、まったく報じないことを望んでいるのではなく、多くの当事者が声をあげているように、「もっと伝えて欲しいこと」が存在する。それと伝えてほしくないことのあまりにも大きなアンバランスが、メディアを忌避するといった行動に繋がっていることを知らなければなるまい。

具体的には、(1)被害者支援についての情報、(2)被害者(とりわけ性犯罪被害者)についての偏見の是正(3)被害者の置かれている状況(被害状況の深刻さ、警察等の対応の問題など)は、以前から繰り返しメディアに対し期待されている事柄である。

(注9)事故遺族がnote内で発信する「辺野古ボート転覆事故遺族メモ」から。2026年3月28日から7月10日までに19回投稿。

やってはいけないこととやらねばならないこと

改めて記すまでもないことだが、被害者の救命、生命の保護は絶対優先だ。過去の大阪・附属池田小学校児童殺傷事件(2001年)や熊本地震(2016年)の時のような、取材行為による「邪魔」はさすがに最近はないと信じたいが、小さいトラブルはなかなか止まない。そのうえで、ここでは大きく3つのことを記しておきたい。

第1は、「弔いの機会の保護」である。遺族には死を悼む時間や空間を確保する「権利」があるということだ。例えば、死亡事実のファーストアナウンスはあってはならないし、常に犠牲者に対する尊厳を保つ必要がある。近年一般化している空撮による遺体の運び出し中継(ブルーシート取材)もその必要性を十分に吟味したほうがよい。

第2は、「虚偽情報との峻別」だ。通常の報道以上にとことん事実と確認できた情報のみを報道する姿勢を貫いてほしい。逆に、明白な誤りや真偽不明情報には毅然として対峙すべきで、例えばネット上で出回っているデマに対しては、打消し報道が必要な時代に来ている。

SNS晒し行為に対しても、あえて火中に飛び込んでもやってはいけない行為であることを厳しく指弾すべきだ。また、推測に基づく識者コメントが心無い書き込みに繋がっている場合が少なからずあり、テレビが誹謗中傷の発信源になり得ることを自覚しなくてはいけない。桶川ストーカー事件報道で最も傷ついたのはテレビコメンテーターの心無い発言であると、遺族が警告している。また、関連して警察や周辺取材で知り得たことを不用意に「伝えない」ということも大切だ。

そして第3は、改めて「過熱集中取材・報道の回避」という古くて新しい問題だ。放送・新聞の警察取材中心の取材態勢の宿命でもあろうし、とりわけテレビにおけるコスパと確実性から事件・事故の現場に取材陣が集中しがちな実態がある。

しかし、こうした高い関心事(≒視聴率)はマッチポンプの可能性がある、くらいの反省と見直しが必要ではないか。むしろ、孤独感や裏切られ感を強めがちな被害者が、社会に対する信頼を取り戻すことに繋がる報道をしなくてはいけない。一人ではない、ジャーナリストがいると思わせる報道こそが求められている(注10)。

(注10)犯罪発生時、被害者に対応ハンドブック等が支給されることが一般化しているが、そうしたハンドブックの1つに、報道機関が共同で制作した取材・報道の意味や報道によって実現できることなどをまとめた冊子やサイトがあってしかるべきだろう。2016年の性暴力と報道・対話の会『性暴力被害取材のためのガイドブック』は性暴力被害者と被害者を取材する記者向けのものであって、こうした取り組みがより広がることが期待される。

「個」で「社」で「界」で、それぞれ取り組む

そして何より、日常的にやっておかなければならないことが数多くある。

まずは「認識より知識」である。犯罪被害者の心理や支援制度についての知識をしっかり獲得することが求められる。そのためには、犯罪被害者のメンタルヘルスについての専門家の教えを乞うことが一番だ(注11)。

事件・事故取材について、警察取材のノウハウと経験の蓄積は放送・新聞ともに豊富だ。共同通信はじめ、各社においてもハンドブックが整備され、こと細かく取材の仕方や記事の書き方まで指南されている。しかしこれまで圧倒的に、被害者取材についての専門知識についての教育・研修が欠如していた。

次には認識を深めるために、事件・事故の当事者の声を聴くことが大切だ。その多くは耳が痛いことばかりであろうが、耳や目を背けてはなるまい。

また、被害者弁護士やサポートステーション(支援センター)スタッフの話も有益に違いない。こうした支援センターには実際、各地で報道機関OBが数多く在籍している。最近では数多くの被害者の側の声を聴く機会が設けられており、こうした会に参加することはおそらくハードルが低い方法だろう。これらの機会が、被害者の気持ちをきちんと理解し、実際に相対したときに共感や傾聴ができることにつながるはずである。

もちろん、報道機関の内外にも詳しい人はいる。海外ではジャーナリスト向けの被害者取材の講座や講義が開設もされており、これらへの参加者も既に存在する。また、長く被害者取材の在り方に取り組んできた者もいる(注12)。こうした研究や経験の蓄積をみんなで共有することが大切だ。

取り組みには、個人でできることのほか、社で取り組むべきこと、あるいは報道界全体でやる必要があるものと、さまざまなレイヤーがあろう。これらを一つずつクリアすることによって、「遅れている」日本の被害者取材・報道がアップデートされ、被害者当事者にとっても意味がある、あるいは積極的にジャーナリストの前に立とうと思う環境が生まれることになるはずだ。

(注11)例えば武蔵野大学心理臨床センター・ウェブサイト「犯罪被害者のメンタルヘルス情報ページ」や「トラウマ支援コンテンツ」。同センター構成員の小西聖子、中島聡美らが積極的に発言をしてきている。

(注12)代表的なものに、継続的な河原理子の仕事がある(高橋シズヱ、河原理子著『<犯罪被害者>が報道を変える』(岩波書店、2005年)、ジョー・ヒーリー著、河原理子編訳『トラウマを聴く前に知っておきたい10のこと~当事者の声と取材者の実践』(岩波書店、2026年))。

<執筆者略歴>
山田 健太(やまだ・けんた)
専修大学ジャーナリズム学科/大学院ジャーナリズム学専攻教授。
専門は言論法、ジャーナリズム学。
自由人権協会代表理事、日本ペンクラブ副会長。放送批評懇談会、情報公開クリアリングハウスなどの各理事を務める。BPO人権委員会など歴任。
主な著書に、『法とジャーナリズム 第4版』(勁草書房)、『ジャーナリズムの倫理』(いずれも勁草書房)、『沖縄報道~日本のジャーナリズムの現在』(ちくま新書)、『転がる石のように~揺らぐジャーナリズムと軋む表現の自由』(田畑書店)ほか多数。
専修大学で一般公開の「表現の自由研究会」を開催中。

【調査情報デジタル】
1958年創刊のTBSの情報誌「調査情報」を引き継いだデジタル版のWebマガジン(TBSメディア総研発行)。テレビ、メディア等に関する多彩な論考と情報を掲載。原則、毎週土曜日午前中に2本程度の記事を公開・配信している。

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