「病気」から「人」を診る医療へ――地域のクリニックに求められる新たな役割
超高齢社会の進展や地域コミュニティの希薄化に伴い、医療機関に求められる役割も変わりつつある。症状を治療するだけでなく、患者の生活環境や家族関係、社会的な孤立まで含めて捉える視点が必要になっているためだ。地域に根ざした医療とは何か。なのはな耳鼻咽喉科の境修平院長に聞いた。
症状の背景にある生活まで捉える
医療の専門化や効率化が進む一方、限られた診察時間のなかでは、患者が抱える生活上の問題まで把握することが難しい場合がある。特に地域医療の現場では、高齢化や孤立、ストレスなどが身体の不調に影響しているケースもあるという。
同クリニックが重視するのは、「病気ではなく、人を診る」という考え方である。境院長によると、耳や鼻、喉の症状には、生活習慣や仕事、家庭環境などが関係していることも少なくない。そのため、病名を特定して薬を処方するだけでなく、患者との対話を通じて日常生活の状況を把握することを心がけている。
患者の話を丁寧に聞くことは、不安の軽減や適切な受診行動にもつながり得る。一方で、診察時間を確保すれば待ち時間や医療従事者の負担が増える。対話の質と診療の効率をどう両立させるかは、地域のクリニックに共通する課題である。
医療機関を地域の相談拠点に
境院長は、地域の医療機関には疾患を治療する場にとどまらず、住民が困ったときに相談できる身近な窓口としての役割もあると考えている。
耳鼻咽喉科は、子どもから高齢者まで幅広い年代が受診する診療科である。継続的に患者と接するなかで、体調の変化だけでなく、家庭や学校、仕事などに関する悩みが見えてくることもあるという。必要に応じてほかの医療機関や地域の支援につなぐことも、かかりつけ医療機関の役割の一つとなる。
同クリニックでは、患者が話しやすい雰囲気づくりや、日常生活に即した説明を重視している。医療機関に相談する心理的なハードルを下げることができれば、早期の受診や症状の重症化予防につながる可能性がある。
利便性と信頼関係をどう両立するか
オンライン診療やウェブ予約など、医療分野でもデジタル化が進んでいる。待ち時間の短縮や受診機会の確保につながる一方、地域医療では対面でのコミュニケーションを求める患者も多い。
短時間での診察を希望する人もいれば、症状や不安について十分に話したい人もいる。異なるニーズに応じながら、医療の質を維持するためには、デジタル技術による効率化と対面での信頼関係を組み合わせる必要がある。
また、地域活動や環境への配慮など、診療以外の取り組みに医療機関が関わる動きも広がっている。ただし、こうした活動は直接的な収益には結びつきにくい。安定した診療体制を維持しながら、どこまで地域に人的・経済的な資源を振り向けられるかは慎重に検討する必要がある。
医療機関が地域のインフラとして機能するには、患者に寄り添う姿勢だけでなく、持続可能な運営体制も欠かせない。「人を診る」医療と診療の効率性をどのように両立するか。なのはな耳鼻咽喉科の取り組みは、地域のクリニックが今後果たすべき役割を考える一例となりそうだ。
【取材協力】

なのはな耳鼻咽喉科
院長 境 修平
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