紙の出版物が減る一方、なぜ「声」が選ばれる? VTuberとラジオの共通点

TBS NEWS DIG Powered by JNN
2026-08-07 07:00
紙の出版物が減る一方、なぜ「声」が選ばれる? VTuberとラジオの共通点

イヤホンをつけたまま、洗い物や洗濯物をたたむのを済ませてしまうことはないでしょうか。あるいは、動画を再生したまま画面はほとんど見ずに、音だけを聞き流していることは。実はいま、無料の動画サービスを利用している人のおよそ半数が、そんな聴き方をすると答えています。ポッドキャストやラジオはもちろん、画面が主役のはずの「VTuber」までもが、「声」で楽しまれているという実態も。なぜ声で届くコンテンツが、これほど支持されているのか。その理由について、リサーチャーのcomugiが解説します。

(TBS Podcast『コムギコ:資本主義をハックしろ!!』2026年4月26日配信『VTuberとラジオは似てる? 世界一やさしい「VTuberビジネス」入門 #コムギコ #76』より)

紙の出版物は縮み、耳で聴く時間は増えている

新聞の発行部数や雑誌の売上が長く減り続けてきたことは、多くの方が肌感覚で知っているところだと思います。出版科学研究所の集計では、2025年の紙の出版物の販売金額は9,647億円で、前の年より4.1%減りました。

そのうえで興味深いのは、「耳で聴くメディア」の存在感が増していることです。音楽ストリーミングの利用者は増え続け、ポッドキャストを聴く人も、調査によって幅はあるものの世界的に増えました。インターネットの登場で消えるかもしれないと言われていたラジオも、いまも残っています。この変化を考えるうえでいちばん面白いと思ったのが、じつはVTuberの世界でした。

無料動画の利用者の半分が「耳だけで聴くことがある」

まず、前提になる数字から紹介させてください。博報堂メディア環境研究所が2026年3月に公開した調査によると、無料の動画サービスをふだん利用している人のうち、およそ半数が「動画を耳だけで聴くことがある」と答えています。10代にかぎってみると、その割合は7割ほどまで上がります。

場面としては、家事をしながら、勉強をしながら、通学や散歩をしながら。理由でいちばん多かったのが、「映像を見なくても楽しめるコンテンツだから」でした。

ひと昔前まで、動画は画面の前に座って観るものでした。ところがいまの若い世代にとって、YouTubeはラジオやポッドキャストと地続きの「ながら聴き」ができるメディアになりつつある。動画と音声を分けていた線が、受け手の側から溶けはじめているということです。

VTuberのファンが好きなのは、見た目より「声」だった

この変化が極端なかたちで表れているのが、VTuberの世界です。キャラクターの姿でYouTubeなどの動画・ライブ配信サービスで活動する配信者のことで、名前に「Virtual YouTuber」と入っているくらいですから、本来は目で見るメディアのはずです。

ところが、トイズキング(有限会社ヤマト)が2025年7月に、VTuberを週1回以上視聴していて「推し」がいる10代から30代の男女1,013人を対象に実施した調査では、意外な結果が出ています。複数回答で聞いた「VTuberにハマったきっかけ」の1位は「トークの面白さ」で54.9%。同じく複数回答の「VTuberの好きなところ」では、「声」が51.0%で、「キャラクターのビジュアル」の48.7%をわずかに上回りました。

熱心なファンにかぎった調査ではありますが、作り込まれたキャラクターと並べても、声を選ぶ人のほうがわずかに多い。矢野経済研究所が2025年4月に発表した調査では、国内のVTuber市場は2023年度の800億円から、2024年度は1,050億円の見込み、2025年度は1,260億円と予測されています。国内でVTuberの事務所やプロジェクトを運営する企業の、海外事業も含めた当該事業の売上高を積み上げた数字です。産業としてはグッズの売上が大きな柱になっていますが、ファンがその世界に入る入口になっているのは、派手な映像よりも毎日のしゃべりのほうだ、ということです。

なぜ、長い配信は耳で聴かれるのか

理由は大きく3つあると考えています。

1つ目は、配信時間の長さです。VTuberのライブ配信は、1回が数時間に及ぶことも珍しくありません。雑談の配信では、4時間、5時間と続く回もあります。それだけの時間、画面を見続けられる人はそう多くありません。自然と、音は流したまま作業のBGM代わりに聴くスタイルに寄っていきます。

2つ目は、配信の中心がトークとリアクションだということ。しかも、そのリアクションのほとんどは音で伝わります。声の上がり下がりや息づかいで、いま良い場面が来ていることがわかる。ラジオのパーソナリティのあり方と、ほとんど同じ構造です。

3つ目は、キャラクターという仕組みの性質です。キャラクターは実写の顔に比べて表情の情報量が整理されていて、細かなゆらぎが少ない。そのぶん視聴者の注意は、顔の変化よりも声や話の中身に向かいやすくなります。見た目を作り込んだメディアが、結果として声を際立たせているわけです。

耳は、目とは別の時間を取りにいっている

少し視野を広げて、耳という感覚器の特徴を3つ整理しておきます。

1つ目は、視線の外まで届くこと。人間の目の視野角は200度ほどで、背後で何が起きているかは見えません。一方で耳は、見ていない方向の音も拾います。しかも声には、その人の状態を推し量る手がかりが多く含まれます。ささやき声や生活音を聴かせるASMRが、聴く人によって強い感覚を呼び起こすのも、音がそれだけこまやかな情報を運んでいるからだと考えられます。

2つ目は、「何かをしながら」が可能なこと。音声は、画面に視線を向け続けなくても受け取れるので、家事や歩行と組み合わせやすいのです。

3つ目は、産業としての見方です。テレビと動画とSNSとゲームは「目の可処分時間」を奪い合ってきました。音声メディアはそこと正面からぶつからず、目が塞がっているあいだの時間という、別の時間帯を取りにいっているのです。

背景のひとつと考えられるのが、ワイヤレスイヤホンの普及です。アップルのAirPodsが発売されたのは2016年12月。パナソニックが2024年2月に発表した、首都圏の学生と20代・30代の社会人あわせて600人への調査では、イヤホンのメイン利用がワイヤレスタイプという人が全体で73.5%、20代の社会人では80.5%でした。首都圏の若い層にかぎった数字ではありますが、耳をいつでもメディアにつなげる状態が、ここ10年で当たり前になってきたことはうかがえます。

声は「カタチのない身体」、鍵になるのはコンマ数秒のずれ

ここまでは「耳」の話です。お伝えしたいのは、そこで運ばれる「声」のほうの性質で、ひと言でいうと、声は「カタチのない身体」のようなものだと思っています。

もちろん、声は演じられますし、いまは加工も合成もできます。それでも、風邪をひけば鼻声になり、疲れていれば張りがなくなる。緊張すればのどがしまって高くなり、落ち込めばトーンに出てしまう。文字なら気合いを入れて元気な文章を書けますが、声には身体の状態がにじみやすいのです。

そう考える手がかりになる研究が2つあります。ひとつは「スピーチ・ジャマー」と呼ばれる装置です。産業技術総合研究所の栗原一貴さんと、当時は科学技術振興機構「さきがけ」に在籍していた塚田浩二さんが開発し、2012年にイグノーベル賞の音響学賞を受賞しました。しゃべっている人の声を拾い、コンマ数秒だけ遅らせて本人の耳に返すという仕組みで、これだけで発話が乱れることがあります。効き方には個人差がありますが、しゃべるという行為が、自分の声を耳で確かめながら成り立っている運動だということは、この装置からよくわかります。

もうひとつが、「なぜ自分で自分をくすぐれないのか」という研究です。イギリスの認知神経科学者サラ=ジェイン・ブレイクモアさんたちが1999年に発表した実験で、参加者は左手でロボットのアームを動かし、それに連動した別のロボットが右手のひらを刺激する、という仕掛けを使いました。左手を動かしてから刺激が来るまでの時間差を、0、100、200、300ミリ秒と変えていくと、自分の動きが起点であるにもかかわらず、遅れが大きくなるほど「くすぐったい」という評価が段階的に上がっていったのです。

声と身体という別々の現象を扱った2つの実験が、そろってコンマ数秒という短い時間を扱っている。ここから先は僕の受け取り方ですが、自分の身体とそうでないものを分ける境目は、皮膚の上だけでなく、時間のほうにもあるように思えます。同じ人が、同じセリフを同じ声でもう一度くり返せないのも、声が身体と切り離せないからです。

VTuberとラジオ、決定的に違う3つのこと

こうして見ていくと、VTuberは「画面がついた新しいラジオ」に近いメディアに思えてきます。声で聴かれ、長い時間流され、パーソナリティで推される。ラジオやポッドキャストの特徴とかなり重なります。

ただし、同じではありません。1つ目の違いは、コメントが誰に見えているかです。VTuberの配信では、送られたコメントが視聴者全員の画面を流れていきます。ラジオでは、届いたメールを読むかどうかは番組側が決めるので、読まれなかった投稿はほかのリスナーの目に触れません。同じ「参加」でも、見え方がまったく違うわけです。

2つ目は、生放送と収録の比率です。ラジオにも、放送中に届いたメールやSNSの投稿をその場で読む番組はたくさんあります。ただ、ポッドキャストは収録して配信するものが多く、この記事のもとになったコムギコもそうです。VTuberの日常配信はほぼ全編が生放送なので、番組全体がその場のやり取りでできあがっていきます。

3つ目は、リスナー側の気持ちよさの種類です。ラジオには、何百通と届くメールから自分の1通が選ばれるという「選ばれる気持ちよさ」がある。VTuberの配信で生まれるのは、「いま、この場に一緒にいられている」という参加の感覚に近いものです。

どちらが進んでいるという話ではありません。VTuberもラジオも「声で聴かれるメディア」であることは同じで、そこから先の作り方だけが別々に育ってきた、ということだと思います。

そして文章のほうは、AIによっていくらでも早く作れる時代になりました。しゃべり言葉も、温度や言い淀み、ちょっとした間まで、合成音声で再現できるようになっていくのだろうと思います。

ただ、人が言い淀むときには、言いにくいことを口にしようとしている、まだ考えがまとまっていない、といった事情がその場にあります。AIが同じ音を出せたとしても、その音の裏に同じ事情があるわけではありません。聴き手が受け取っているのは、声のゆらぎそのものではなく、そのゆらぎが生まれた理由のほうだからです。だとすれば、文章がいくらでも自動で作れるようになるこれからこそ、人がしゃべるメディアの出番はむしろ増えていくのかもしれません。あくまで僕の見立てですが、ポッドキャストもVTuberも伸びているという流れは、そう考えるとつながって見えてくるのです。

<コムギコ:資本主義をハックしろ!!>
毎日ニュースを100本を読むビジネス系VTuberのリサーチャーであるコムギ(comugi)が、日々の経済にまつわるニュースを解説するビデオポッドキャスト。本記事は2026年4月26日配信『VTuberとラジオは似てる? 世界一やさしい「VTuberビジネス」入門 #コムギコ #76』から抜粋してまとめたものです。

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