「日本が圧力に負けるのか、世界が見ている」ICC赤根智子所長がICCを守る理由――「法の支配」か「力の支配」か【独占インタビュー 第2回】

アメリカ・トランプ政権から制裁対象に指定され、「解体」の圧力に晒されるICC=国際刑事裁判所。日本人として初めて所長に就任し、自らも制裁対象となっている赤根智子所長がBS-TBS「報道1930」の単独取材に応じました。
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松原耕二キャスター編集長の取材を通して、赤根所長が訴えたのは「法の支配」の重要性と日本政府に求められる姿勢でした。
(全3回連載の2回目)
「ICCは腐敗した組織ではない」
松原耕二(以下、松原):各国の反応で、ヨーロッパの各国は、ICCへの連帯を次々と打ち出しました。ところが、日本政府は、高市総理は『大変残念だ』ということに留まってる。これはどう受け止められましたか。
赤根智子(以下、赤根):これに関しては、マスコミの方とか、私の友人とか、もう大変心配していただいていて、応援をいただいてます。私は外交官でもないし、政治家でもないので、政府の行為についてとやかく言うことはしたくないというふうに思っています。
ただ、一番私として言っておきたいことなんですが、アメリカのルビオ国務長官などが言っている『ICCは腐敗した組織だ』、そして、『国際法を悪用して、主権国の主権を侵害しているんだ。そこに赤根も加担している、私自身も腐敗しているんだ』という趣旨のこと言いますけれども、これについてはまさに間違った言い方、事実を間違えているというふうに思い、そこは私がそのような腐敗した組織で、そのような権限逸脱の行為などをしていないと。ICCは、ローマ規程の枠組みの中で、管轄権が及ぼせる事件について、中立公正に仕事を続けているだけだということを、日本政府から公に言っていただくっていうことは思ってます。
日本政府に求めるのは「力強い支え」
松原:ただ日本政府の反応を見ていると、もともと赤根さんもそのICCの判事になられた時には、政府の指名もあり、強い後押しがあってなられたわけで、『それなのに』という思いは正直おありじゃないですか?
赤根:……そこを言われると厳しいですね。それは私としては、日本を頼りにしています。
松原:木原官房長官もですね、『赤根さんとは連絡を取り合ってるんだ』とおっしゃったけど、外務省は今取り合ってるんですか?あるいは政府とは。
赤根:基本的にはいつもですね、私は大使館経由だとか、あるいは直接外務省との事務方レベルが多いんですけども、とっております。で、外務省もですね、『私の個人的な不都合、経済的なものも含めて対処する』ということでお話をいただいてますので、今後私が困った時には助けてくれるんだろうということです。
松原:木原官房長官はですね、『必要な支援があればしっかりとやる』と言ってるんですね。何が一番今、政府に対して求めたい必要な支援ですか?
赤根:私は、政府の支援っていうのが、私個人の生活だとか、セキュリティ問題だとか、『個人のこと』だけに絞られている、つまり矮小化されているっていうところが若干気にかかるところですね。
私は確かに個人としては、何の理由もなく制裁にあってるんですけれども、ICCの所長として、まずICCを守らなきゃいけない。そして、職員も守らなきゃいけない。そして、世界の法の支配の最後の砦となるICC、それを守り抜くことによってですね、世界の法の支配っていうものが廃れていかないようにしなくちゃいけない。ですから、日本政府には――やり方は私はわかりません、外交とか政治レベルの話になると思うんですけれども――それを力強く支えてくれるということが一番の助けになると思います。
日本政府は「理念を崩してはいけない」
松原:先ほど赤根さんをICCの所長に指名をという政府が後押ししたという話をしましたが、なぜそうしたかというと、日本はやっぱり『力の支配』ではなくて『法の支配』ということを外交の柱で掲げてきたと思うんですね。正直それなのに今、今回の対応はと思ってしまう。そこの部分は正直どうですか?
赤根:ですから、これからの外交手腕とか、外交努力とか、政治的な圧力に屈しないとか、それは日本政府にかかっていることだと思ってますし、それはしてくれるものと信じています。
松原:そこはアメリカが同盟国であるから本当は言えるのに、今、同盟国だから言えない状況という感じが正直している。この辺どうですか?
赤根:これはいろんな政治的な状況とかもあると思いますし、私は政府の立場がわからないではないですけれども、それとこの『法の支配を堅持し、これからも発展させようとする日本の意思』というのは、ほとんどプリンシプル(理念)ですよね。理念を崩してはいけないと思っています。
「日本が圧力に負けるのか」世界が見ている
松原:そこは絶対、日本は負けてほしくないということですね。
赤根:はい。ですから、例えばICCに対してこれからも支援をし続ける。そして『絶対に脱退をしないんだ』ということをはっきりと表明していただきたいし、それから周辺諸国の中でICCに加盟している締約国となっている国がたくさんあるわけですけれども、そういう国々も日本を見てると思うんですね。日本がそういう圧力に負けるのか、あるいはそういう周辺国と協力してICCを支えようとしていくのかということは、世界が見ていると思います。
松原:そこはおそらく日本はこれからきっちりやってくれるだろうと信じていらっしゃるということですか。
赤根:そうでなければ、私はICCにいる意味がないと思っています。
松原:意味がない。どういうことでしょうか。
赤根:私の役割というのが、ICCを代表することではありますが、ICC一機関ではできないことが多すぎるわけですね、このような状況になると。ですから、多くの締約国に支えられていくっていうことが最も大事なことですし、一番強く支援している国のうちの一つである日本がそういう態度を示していくことによって、ICCが存続することに繋がっていくというふうに思っています。
「尊敬され頼りにされる」日本に求められる役割は?
松原:アメリカの今回の制裁に同調するかのようにですね、脱退している国があると聞きます。その辺はどういうふうにご覧になってますか。
赤根:はい。チャドとベネズエラが脱退の手続きを取りました。これについては一年後に発効するので、まだ締約国ではあるんですけれども、こういう流れが他のところでも起きないようにしていかなくちゃいけないと思うんですけれども、これも締約国の役割なんですね。その流れを止めるということは。それから、ICCに不協力になるかどうかということも、締約国がそれらを止めていく義務があると私は思っています。
ですから、それに対して大きな力を持っているのが日本で、日本がなぜそれに大きな力を持っているかというと、戦後ですね、長く近隣諸国と協力して、法の支配っていうのを掲げながら、平和の推進とかにも、またいろんな形でODAなどの形で様々な国を支援してきた国ですから、尊敬もされ、頼りにもされているわけです。それを『これからも続けるぞ』という態度を続けてほしいと。やってほしい、してほしいと。