“ICC最大の危機”ーー「力の支配」横行に赤根智子所長が警鐘「最終的に日本にも波及」国民に伝えたいこととは【独占インタビュー 第3回】

アメリカ・トランプ政権から制裁対象に指定され、「解体」の圧力に晒されるICC=国際刑事裁判所。日本人として初めて所長に就任し、自らも制裁対象となっている赤根智子所長に、BS-TBS「報道1930」の単独取材に応じました。
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松原耕二キャスター編集長の取材を通して、ICCにいま訪れている「最大の危機」と、世界で「力による支配」が横行することへの危険性が見えてきました。
(全3回連載の3回目)
さらなる制裁のエスカレートは?「職員の給料も…」
松原耕二(以下、松原):アメリカのルビオ国務長官は『ICC解体』という言葉まで口にしてます。何を懸念されてますか?
赤根智子(以下、赤根):一つは各国に、特に弱い国々に『脱退しろ』ということを要求していくと。実際に要求しているわけなんですけれども、そうすると小さい国々は、特にアメリカから多額の支援を得ている国、軍事的にサポートされているような国は『脱退しようかな』という気分になってしまう可能性がある。
ですから、そういうところを止めていくのは日本だとか、あるいはEU諸国の役割ではないかと。共同してそういうことをやっていただきたいなと思います。
もう一つ、先ほども言いましたが、制裁に関してもルビオ国務長官は口にしていますので、さらなるエスカレートということが起きかねないわけです。それに対して日本政府は、友好国と協力しながら、それを止める外交努力を続けていただきたいというふうに思います。
松原:次に、例えば、ICCの組織自体に制裁をもしかけるなんてことになったら何が起きますか?
赤根:これはまだ今まで起きたことがないのですね。正確に予測することは難しいんですけれども、大変難しい事態になることは間違いないです。
松原:それはつまり業務というか、役割を果たせなくなると、そういうことも含めてですか。
赤根:先ほど申し上げたとおり、ITなどは問題はないと思うんですけれども、今現在ICCに協力してくれている銀行がそれこそ二次的な制裁を恐れてICCとの取引をやめてしまう可能性もあるわけですね。そうすると、ICCは給料も払えなくなりますし、それから分担金ももらえなくなってしまうわけです。
松原:つまり、逆に言うと、各国の分担金を払い込むこともできなくなると。それ自体も考え得ると。
赤根:考え得るということですね。
「消えたら二度と出来ない」次世代への思い
松原:今伺っていると、ICCを発足して設立されて、正直『最大の危機』だという認識はおありですか?
赤根:もちろんそうです。だから、私もですね、7月26日から日本にいて、8月16日にこちら(オランダ)に帰ってきたんですが、その間、大阪とか名古屋に行きまして、各地の弁護士会の招きだったんですが、そこに行って『法の支配の大切さ』というものを次の世代に伝えようと思って、いろんな講演をしています。これは私よりも後の世代に託したいという気持ちもありました。もし消えてしまったら、二度とできないかもしれないので。日本の国民の方々の声、そして若い世代の人たちの奮起に期待したいと思っています。
松原:ICCを支援しようという、例えば署名が始まったりですね、いろんな支援の声が耳に届いてますか?あるいは目に入ってますか。
赤根:この署名活動に関しても、私の元ロースクールの教え子たちが中心になって、いろんな団体と連携をして始めてくれて。今朝見たところでは7万5千を超える署名がすでにできていて、私自身も非常に力を得ています。これはICCに対する応援であるとともに、日本国民が自分のこととしてこの事態を受け取ってくれているものと感じています。
松原:正直、この国民の広がりは予測してなかったですか?
赤根:そこまでは考えてなかったです。
松原:今のお話を伺っても、国民と政府の温度差があるように感じます。正直どうですか。
赤根:政府も国民の声を無視することはできないというふうには思ってます。
『声なき人たちの声』は届いている ICCは「最後の砦」
松原:国連総会で前も演説されたりしましたが、今回行かれる予定ではあったんですか?
赤根:今のところ行く予定にはしているんですが、ビザが使えなくなる可能性が大ですので、渡航不可になる可能性が大きくなったと思っています。
松原:色々な国に行くのも、相当不自由なんですか?つまり、プーチン大統領のロシアが逮捕状を出してたりするわけですよね。あるいは今回も制裁がある。不便という意味では各国を回ることも、正直いろいろ不自由が出てるんでしょうか。
赤根:ロシアからの逮捕状の件なんですが、今はモスクワの裁判所で私に『有罪判決』が出ていまして。刑の重さまでははっきりわからないんですが、3年半から15年ということになっているようです、拘禁刑。
何が起きるかというと、逮捕状の段階ではなく『独立した国における判決が出ている』ということで、それこそ犯罪人引き渡し条約を結んでいる国々には行けないということになります。ですから出張する際には、中継地も含めてICCが事前に調べた上、かつ各国との関係の重要性などを加味しながら、行く場所を決めていくということになります。
松原:おそらくICCの判事を引き受けられて、そして所長を引き受けられた時も、こういう事態になるっていうのは想像したこともおありでしたか?
赤根:もちろん、そこまで細かいことを想像する状況ではなかったですけれども。私が所長になった時には、すでに私に対してのロシアからの逮捕状は出ていましたし、パレスチナの武力紛争も始まってましたので、将来的にかなり厳しい状況になるんではないかという想像はしていました。
松原:逆に今のそういう状況になって、ICCの仕事の重要性みたいなものを、改めてご自身の中で確認するなんてことはあるんでしょうか。
赤根:はい、やはり多くの国々からの支援の声が届いています。そういう事態に至っても、ICCが今までと同様に裁判業務だとか捜査だとかを続けていることに対しての賞賛、そして最後には、このグローバル社会の中で最も重大な犯罪を犯した人たちを処罰することによって、取り残された被害者たちに希望の光を灯し続けるという役割を持っているICCに対する期待は、今まで以上に高まっています。それらは『声なき人たちの声』として私たちには届いています。
松原:逆に今、世界は『力の支配』というのがどんどん広がってるように見える。そこをどう見ていらっしゃるんですか?
赤根:その意味では、ICCが『最後の砦』かなという自負は持ってますし、職員たちの士気も高いです。こうした状況になって、例えば何らかの空席が出て募集をすると、今まで以上に応募してくる方々が増えてるんですね。びっくりするぐらいたくさんの応募が来てます。若い人たちはこうしたICCの取り組みに、自分もメンバーの一人として力を尽くしたいと言ってくださる人が増えてるってことです。
松原:逆に増えていると。前にお話を伺った時に『眠れない夜がありますか?』と伺ったら、『あります』とおっしゃった。今眠れてますか?
赤根:眠れる日と眠れない日とありますね。
松原:眠れない日はどうされるんですか?
赤根:『いつか眠れるだろう』っていうような(笑)。楽観的なタイプなので。
『力の正義』横行の中で…日本に求められる「リーダー像」とは
松原:そうですか。最後に、時間がだいぶ来ました。日本の国民に一番今おっしゃりたいことは改めて何でしょうか。
赤根:今世界は大きな転換期にあると思います。世界の法の支配などというと、自分とは関係ない、自分の生活とは関係ないって思われる方もいるかもしれませんが、そうではないということです。
力の支配が横行して、誰もそれを止められなくなった場合、最終的に日本にも波及する。例えば、周辺国での戦争犯罪などが、日本に大きく影響してくる場合っていうのが十分あり得ると思うんですね。ですから、自分のこととして、日常生活において『私たちは何をすればいいのか』ってことを考えていただければありがたい。特に日本の制度などに関しては、私は今も法の支配の下で十分機能していると思いますが、将来的に本当にそうであり続けられるのだろうかと、そういうことも含めて考えていくべき時期ではないかと。
世界で『力の正義』というのが横行するようになると、日本の中でもそれが当たり前のような社会になってしまわないかっていうことも、私は恐れています。
松原:改めてもう一つ、高市総理、日本政府にもっとおっしゃりたいことは何でしょう。
赤根:日本が標榜してきた、私たちが堅持してきた『法の支配』というのは、日本の国益にも非常に密接に関連しています。日本の立場というのを明確にしつつ、世界のために貢献する日本であり、世界のリーダーであってほしい、あり続けてほしいということです。