“生きるためにやる”――青い舌の少女たち 高校生の70人に1人が経験、死に至るケースもある「オーバードーズ」彼女たちを救うには

かぜ薬や睡眠薬などを過剰に摂取し、酩酊状態に陥る「オーバードーズ」。死につながるケースもあり、特に少女たちの間で大きな問題になっています。
彼女らを救うにはどうしたらいいのか。乱用を繰り返す少女たちへの8か月間の密着取材から探ります。
【写真を見る】“生きるためにやる”――青い舌の少女たち 高校生の70人に1人が経験、死に至るケースもある「オーバードーズ」彼女たちを救うには
「男性に『自分はヤクザの息子だ』と脅されて、レイプされた」(10代少女)
「家庭で親から暴力を受け、食事も出してもらえず、トー横に逃げてきた」(20代女性)
彼女たちが淡々と口にする「ここに来た理由」に言葉を失う。ここは、新宿・歌舞伎町の「トー横」。
居場所を求めて集まってきた少女たちに、1人の女性がやさしく声をかけていた。
れいあさん
「こんばんは。ごめんね、突然話しかけて。10代、20代の子が困った時にLINEとかで話せる場所を知ってほしくて」
女性は、虐待やDV、犯罪の被害から女性たちを守るNPO法人「BONDプロジェクト」のスタッフ、れいあさん(30)。繁華街で少女たちの声に耳を傾け、相談できる場所などを紹介してきた。
BONDプロジェクト れいあさん(30)
「居場所がないとか、迷っている感じがする子に話しかけるようにしています。季節に合っていない服装だったり、荷物が極端に多かったり少なかったりする子も気になります」
れいあさんは、いま、ある問題に危機感を募らせている。
BONDプロジェクト れいあさん(30)
「苦しくなったり、息苦しくなったり?」
14歳の少女
「何回か倒れてたりはする」
薬を過剰に摂取する「オーバードーズ=OD」が蔓延しているのだ。取材した日も、トー横には、睡眠導入剤などの処方薬のパッケージが複数落ちていた。れいあさんは「オーバードーズをする未成年が増えている」と指摘する。
青い舌の中学1年生の少女(13)… オーバードーズの実態とは
私たちが出会ったその少女は、なんとまだ13歳、中学1年生だという。彼女はカメラに向かって舌を突き出した。その舌は青色に染まっていた。
青い舌は、ある睡眠導入剤を飲んだ証拠だ。この睡眠導入剤は、飲み物に混入させる悪用を防ぐため、青く着色されているのだ。
ODによって意識が混濁し、酩酊状態に陥ることを、少女たちは「パキる」と言う。
取材を続けていると、路上に倒れ込み、自力で立ち上がれなくなってしまう少女の姿もあった。目の焦点も定まっていない状態だが、周囲の若者たちが動揺する様子はない。
周囲の若者たち
「立てないね」「これ日常日常。日常だから逆に撮った方が面白い」
「ぶっ飛んでるだけ、すぐ戻るよ」「宇宙見てるわ」
その後、少女は病院に搬送された。東京消防庁によると、都内でODをしたとみられる10代の緊急搬送者数は、おととし300人近くに上り、直近5年間でおよそ3倍と急増している。
17歳の少女明かす理由・・・オーバードーズは「生きるため」
なぜ、ODを繰り返すのか。17歳の少女が、理由を明かしてくれた。
17歳の少女
「小学生の時からオーバードーズをしていました。親が離婚してて、父親の代わりだった姉から日常的に暴力や暴言を受け、包丁を向けられたこともあります。気分が病んで『死にたい』と思ったとき、その気持ちを消すためにやる。私は生きるためにオーバードーズをやっています」
「生きるために、オーバードーズをやっている」という少女。
オーバードーズ研究の第一人者、国立精神・神経医療研究センター薬物依存研究部の嶋根卓也さんはこう話す。
国立精神・神経医療研究センター 薬物依存研究部 嶋根卓也さん
「きっかけについて調べると、大きく三つあります。一つは家族関係、そして友人関係、学校関係。こういった身近な人間関係に起因する悩みやトラブルがきっかけとなっていることが分かってきています。身近な人との間の心理的な苦痛、言い方を変えると『生きづらさ』が、このオーバードーズの背後にあると考えられます」
「死を招く」オーバードーズ 意識障害を起こしビルから飛び降りも
嶋根さんは、薬の過剰摂取は命の危険を招くこともあるという。
嶋根卓也さん
「一つは意識障害です。本当にたくさん飲むと、意識を失ってしまうということです。あとは、呼吸が浅くなって速くなって、苦しくなって呼吸がしづらくなってしまう。それによって、最悪の場合、亡くなってしまうということも十分に考えられます」
20代男性
「家族って言える存在は、トー横にいる子たちばかりだから」
そう言いながら、ODで青く染まった舌を私たちに見せたのは、トー横で10代の少年少女たちの兄貴分だったという男性だ。
20代男性
「他の子たちの体が心配だから、オーバードーズは推奨しません。死ぬ子を減らしたい。逝っちゃう子を減らしたい。だから頑張ってあがいて、もがいて生き抜いて。俺自身は別にどうでもいいのよ」
取材に対し、こう話してからわずか2週間後のことだった。男性は、歌舞伎町のホテルの一室で、20代の女性とともに倒れているのが見つかり、その後、死亡が確認された。部屋には薬のパッケージが残されていて、直前にオーバードーズをしていたとみられている。
警視庁によると、少女らがオーバードーズの結果、意識障害を起こし、ビルから飛び降りて死亡するケースも複数発生している。
高校生70人に1人が乱用経験 400錠を一気に飲みICUに3日間いた女性も
オーバードーズはトー横の少女たちだけの問題ではない。
BONDプロジェクトでは、DVや虐待から逃れてきた女性を守る一時保護のシェルターを運営している。れいあさんは、そこで入居者の食事作りなど、生活支援も行っている。
BONDプロジェクト れいあさん(30)
「いつも汗をかいて着替えないといけなくなるくらい料理は苦手です」
かおりさん(仮名)
「れいあさん、大丈夫?」
BONDプロジェクト れいあさん(30)
「ありがとう、がんばる。おいしいご飯をね。愛を込めるから」
れいあさんを気遣うのは、入居者のかおりさん(仮名・20代)。半年前、交際相手のDVから逃れ、このシェルターに入居したが、彼女もまた、ODをしていた過去を持つ。スマートフォンの中には、大量に薬を飲んだときの写真が保存されていた。
かおりさん(仮名)
「処方薬を溜めて、400錠以上を全部一気に飲みました。ICU(集中治療室)に3日間入っていました」
高校時代に受けたいじめをきっかけに適応障害に。将来への強い不安から、薬を大量摂取するようになったという。今は、就労支援のプログラムを受けながら、自立した生活を送ることを目標にしているかおりさん。
日課は、就寝前の面談だ。「最近、ODしてる?」というれいあさんの問いに、かおりさんは「してない」と答えた。そんなかおりさんの様子を、れいあさんは温かく、慎重に見守り続けてきた。
BONDプロジェクト れいあさん(30)
「かおりさんは、『してない』と言葉にして自分に聞かせて、『しないぞ』と覚悟を決めている部分もあるのかなと思います。調子の波があって、不調な時は結構しんどそうなので、葛藤があるのかと心配です」
厚生労働省などの調査では、高校生のおよそ70人に1人が「市販薬を乱用した経験がある」と答えた。
元売人の大学生「とにかく金が」 1シート5000円・・・後を絶たない薬の違法取引
こうした事態を受け、今年5月、医薬品医療機器法で、指定成分を含むかぜ薬など、薬局で買える市販薬の規制が強化され、18歳未満に販売できるのは原則「1箱のみ」と定められた。
また、医師の処方が必要な睡眠薬などの譲渡はそもそも違法だが、そうと知りながら、トー横の少女たちの間では日常的に取引されている。
記者
「いくらで買った?」
少女ら
「1シート5000円。これは処方されないといけないから、希少価値が高い」
さらに、SNSを使った取引も。売人だったという大学生に、なぜ違法行為に及んだのか、聞いた。
元売人(大学生)
「欲しい人に買った時の3倍以上の値段で売りつける。10代、20歳過ぎないくらいの女の子が何人か・・・。目的は、とにかくお金が欲しかったので」
逮捕者も出ている。24歳の男は、トー横周辺で16歳の女子高校生に対し、睡眠薬などを売り渡した疑いが持たれている。少女らに、病院を受診して薬の処方を受けるよう指示し、手に入れた薬をオーバードーズ目的の少女に、繰り返し転売していたとみられている。
「ずっと孤独・・・」18歳からの深夜のSOS 「どうすればいいんですか?」
市販薬の販売規制だけでは限界があるオーバードーズ対策。では、どうすればいいのか。
18歳のマナさん(仮名)は、何度もオーバードーズから抜け出そうとしてきた。
記者
「最近はどういう生活を送っていた?」
マナさん
「ネットカフェかホテルかトー横広場か、みたいな」
記者
「なんでも自由にしていいよって言われたら?」
マナさん
「考えたことない。どうでもいい、その日暮らしだから」
家庭に居場所がないと感じ、中学生の頃からトー横に通い始め、その後、ODを繰り返すようになったという。
マナさん
「まじで現実逃避だから、ODして記憶も飛ばすし、ワケ分かんない状態になって、一瞬だけどしんどいこととかを紛らわすみたいな。紛らわす方法を、そういうことでしか知らないから」
取材中、マナさんは突然、交差点の真ん中で立ち止まった。落ちていた薬を拾い上げて…。
マナさん
「パキれるかなって」
記者
「パキれないよ」
マナさん
「これ拾っとこ」
記者
「汚いよ」
マナさん
「薬落ちてたら、調べなきゃダメでしょう。だってタダじゃん、落ちてたら」
記者
「拾って使うってこと?」
マナさん
「そうそうそうそう」
ある日の深夜、マナさんが突然、ビデオ通話で連絡をしてきた。歌舞伎町のネットカフェの個室で、1人、薬を過剰摂取した状態でリストカットをしてしまったと言う。
マナさん
「どうしたらいいのこれ…頼れる大人がいなさすぎてさ、ずっと孤独だから…どんくらいで来る?」
スマホの画面に映し出されたのは、血だらけの両腕。床には大きな血だまりができている。私たちは急いでマナさんの元に向かった。
マナさん
「パキっちゃって力加減が分からなくて。どこまで切って、どこまで出血してるかも分からない」
私たちは救急車を呼び、マナさんは救急搬送された。
その後、マナさんは母親とも相談し、「もうやめなければ」と薬物治療の専門病院に入院。退院後もいくつかの施設に入って薬を断とうと試みた。だが、抜け出すのは簡単ではない。マナさんが母親に送ったLINEには、切実な思いがつづられていた。
《もう無理だよ、何も辞められない。歌舞伎も酒も薬も。いつからこんなんになっちゃったんだろう》
腕に残る傷跡を見つめながら、マナさんはこう呟いた。
マナさん
「どうすればいいんですか? 分からない。私が一番分からない」
「やめろと言わず、否定せずに寄り添う」 抜け出すための“処方箋”とは
オーバードーズに悩む少女らの支援をするれいあさん。実は彼女も、かつてオーバードーズを繰り返したことがあった。貧しい家庭に育ち、小学生の頃から、幼い兄弟の世話を担う“ヤングケアラー”だったというれいあさん。19歳のとき、限界を迎えたという。
れいあさん(30)
「逃げたかったのは現実です。当時のツイッターでいろいろ『消えたい』とか、『しんどい』みたいなのを調べて、いっぱい飲むことで楽になれるんだっていうオーバードーズを知りました」
咳止め薬を大量に飲むようになったれいあさん。オーバードーズは28歳まで続いた。だが、ここ2年間はオーバードーズをしていない。きっかけは9年前、「BONDプロジェクト」に保護され、スタッフの竹下奈都子さんと出会ったことだった。
「あ、やっちゃったか…ということは、何度も何度もあった」と竹下さんは振り返る。
BONDプロジェクト 竹下奈都子さん
「でも、『やめなよ』という言葉は使いません。1人でやめられるものでもないですし。やめられる方向に持っていけるように、本人と対話を重ね、一緒に過ごすことを繰り返していく。気持ちは本当に一瞬一瞬変わっていくので、今やめても、次の瞬間は飲んじゃうかもしれない。『今、飲まなかった』『今日、飲まなかった』っていうことを、一瞬一瞬1日1日続けていくことで、飲まなくてもいい期間が少しずつ増えていく」
竹下さんは、れいあさんの胸の内を否定せずに最後まで聞き続けることを繰り返したという。そうすることで、薬を飲まなくてもいい期間が、徐々に伸びていった。
責められることなく、自分の苦しみを受け止めてもらえる安心感。それこそが、薬に頼らない時間を作る「処方箋」なのかもしれないと、竹下さんとれいあさんは感じているという。
国立精神・神経医療研究センター薬物依存研究部 嶋根卓也さん
「ODを繰り返したときに、責めたり否定したりする大人がいると、大人の前で子どもたちは正直になれません。やはり、ODしたことを安心して話せるような関係性や場所を増やしていくことが、この問題のゴールを目指す上では重要になってくると思います」
LINEなどSNSのチャットを通じて、若者たちから様々な相談を受けている団体がある。「ハームリダクション東京」。年間およそ3000件のチャットの6割以上が、「オーバードーズ」についてのものだ。共同代表の古藤吾郎さんも、「薬をやめなさい」とは決して返信しない。話を聞き続けることを大切にしている。
古藤吾郎さん
「ここは、『ここでだったら安心して話していいんだ、安全に話せるんだ』というオンライン空間なんです。『ODはもうやめなさい』と言うと、チャットが終わってしまう。見えないところでODが続くということになるので、それだと、実は命を救っているのではなくて、むしろ命を守れないということになってしまいます」
れいあさんは、歌舞伎町で少女たちに声をかける活動を続けている。
18歳のマナさん(仮名)にも話しかけた。
BONDプロジェクト れいあさん
「きょうは何しに来たの?」
マナさん(仮名)
「きょうは普通に遊びに来た」
BONDプロジェクト れいあさん
「それはどうして?」
マナさん(仮名)
「居場所だから」
BONDプロジェクト れいあさん
「行って楽しいって思う時もあるけど、辛いって思う時もある?」
マナさん(仮名)
「楽しくない時もある」
BONDプロジェクト れいあさん
「楽しくない時もあるんだ、どんな時?」
マナさん(仮名)
「パキってないとき」
BONDプロジェクト れいあさん
「飲んでると楽なの?」
マナさん(仮名)
「うん」
BONDプロジェクト れいあさん
「今、居場所を求めている子たちにとって、自分の存在が居場所になれたらと強く思います。一人で抱え込んでいる子がいたら、『大人に頼っていいんだよ』ということを、何度も諦めずに伝えていきたいです」
取材を終えて
18歳のマナさんから深夜、「オーバードーズをして、リストカットをしてしまった」と連絡をもらったとき、私はどうしたらいいのか分からず、119番することしかできなかった。
専門的な知識が無いと対処は難しいことを実感したわけだが、専門家の嶋根さんも、保護者や周りの方には、是非、専門的な知識のある相談機関とつながってほしいと言う。実は、周りの大人が支援に繋がり変わっていくことが、遠回りに見えて、少女が変わる近道だと言う。
全国各地の「精神保健福祉センター」は、オーバードーズに悩む当事者も、保護者ら周囲の人も、相談できる窓口だ。
また、薬物問題に取り組む民間の団体「八王子ダルク」は、家族のための相談所「SMILE」を開設。オンラインミーティングで、ODを繰り返す子どもがいる家族の悩みを聞き、関わり方について、アドバイスをしている。
「SMIILE」責任者 近藤あゆみさん
「一番身近で重要な環境である家族が支えられて、安心できるようになることが、ODを繰り返す本人の安心にも繋がっていく、という思いがあります。本人を何とかしよう、とする前に、家族や、私たち支援者、それから地域の大人たちが変わっていくことが大切なのかな、と思います」
マナさんから私がSOSの電話をもらったときに、強く感じたことがある。それは、マナさんには本当に頼れる大人がいないんだ、ということ。出会って2か月もたっていない私に連絡をくれたのだから…。
トー横の少女たちにODをする理由を聞いてみると、「仲間と繋がれるから」と、軽い気持ちではじめたという少女もいる。だが、よくよく聞いてみると、親からの虐待や、いじめなどの過酷な経験があって、頼れる大人もおらず、つらい気持ちを紛らわしているという少女が多い印象だ。
そしてオーバードーズをはじめると、今度は、薬代が欲しくなり、彼女たちの弱みに付け込む大人たちを相手に、「パパ活」や「売春」をしたり、大人たちに騙されて、犯罪に巻き込まれたりする少女もいる。ODを始める前も、始めてからも、少女たちは大人たちに裏切られ続けてきたのではないか。
時間をかけて、自然に、真剣に付き合っていく大人が周りにいれば、随分違うのではないか。オーバードーズから抜け出そうとしているマナさんと一緒にいて、そう思った。
取材:TBSテレビ報道局社会部 犬飼さき