国立博物館・美術館に課された「中期目標」をめぐって~人々にとって真に意義ある存在であるために何が必要か~【調査情報デジタル】

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2026-08-29 08:30
国立博物館・美術館に課された「中期目標」をめぐって~人々にとって真に意義ある存在であるために何が必要か~【調査情報デジタル】

国立博物館、美術館は2001年以降5年ごとに文科省から「中期目標」を示されている。2026年にも次期「中期目標」が策定、公開された。しかしながら、そこに示されている博物館、美術館に対する「評価」の手法は依然深化しておらず、財源の多角化の議論も深まっていない。公募展示室の予約率やライブラリーの利用者数などの外形的な数値だけで博物館、美術館の価値は評価できるだろうか。利用する側の内面に踏み込んだ価値評価ができていないのではないか。博物館学を専門とする佐々木亨氏(小樽市総合博物館館長、合同会社エ・バリュー共同代表)が考察する。

次期「中期目標」の策定と公開

2026年2月に文部科学省は、独立行政法人として管理運営されている国立美術館・国立文化財機構(国立博物館など)・国立科学博物館に対して、次期「中期目標」※を策定し、公開した。

これらの組織は2001年(平成13年)に独立行政法人となって以来、5年ごとに中期目標を見直しながら経営を進めている。

これら独立行政法人の財源は、国費からの「運営費交付金」と入館料や寄附などの「自己収入」からなり、独法化以降、おおむね運営費交付金が全体の7〜8割程度を占めてきた。文部科学省は今回の中期目標で、各独立行政法人に対して、これまで以上に自己収入を増やし、運営費交付金を削減するような運営を目指すように方向を示した。

※正式名称は「独立行政法人国立美術館(国立文化財機構・国立科学博物館)が達成すべき業務運営に関する目標」

「中期目標」を熟読して

この「中期目標」をあらためて熟読してみた。一番に感じたことは、使われている評価手法がまったく深化していないことである。併せて、財源の多角化に関する議論が深まっていないことである。

ここでは、はじめに2001(平成13)年度に国立美術館などが独立行政法人化されてからしばらく経過した時点で、これらの独立行政法人の現状と課題に関して、評価手法と財源の多角化の2点に着目して、どのような議論がなされていたのかを振り返ってみたい。

次に「中期目標」に現れる評価指標や手法をあらためて吟味していく。最後に、これから国立美術館などがどのように評価を活用して、財源の多角化を進めることができるかを考えたい。

2007,2010当時の議論:前田論考と「国立文化施設等に関する検討会」資料から

慶應義塾大学名誉教授で美術史学者の前田富士男は「文化行政と評価−評価の再構築にむけて」(2007)の中で、「『文化行政』や文化事業という重要な領域における評価作業は、この10年ほどの間に大きく改善されたが、あらためてシステムにおける『評価』を再検討・再構築する局面」を迎えているという立場で、制度改革の過程で、今後ますますひろく深く徹底して議論されなければならない機能とは「評価」であると主張している。

その上で独立行政法人における評価の課題を3点挙げているが、3点目に定量評価と定性評価の問題を指摘している。文化行政の評価では、定性的な評価の重要性がよく認識されねばならない。なぜならば定量的評価の一人歩きは文化行政にダメージを与えかねないからと警鐘を鳴らしている。

一方、財源の多角化に関しては、2009年に「独立行政法人及び政府関連公益法人の抜本的見直し」が閣議決定され、2010年の行政刷新会議による事業仕分けで、民間からの寄附、自己収入の拡大などを徹底し、国からの負担を増やさない形での事業充実を図るべきであるとの評価結果が示された(文化庁「国立文化施設等に関する検討会」における論点整理(2010))。その後、政権交代しているが、この方針は堅持されている。

実は、このような議論が出てきたころから、博物館学関係の学会ではアメリカのミュージアムの財源は、「国や州からの政府資金」「寄附」「基金」「事業収入」の4つから構成され、財源の多角化を保っているという知見が広く共有されていた。

「国や州からの政府資金」とは、我が国の独立行政法人でいえば国からいただく「運営費交付金」にあたり、この削減がいま焦点となっている。「寄附」には、法人や財団などからの寄附、個人寄附、場合によっては友の会会費なども含まれる。「基金」とは、寄附金などを基金として積み立て運用した収益を指す。「事業収入」は、チケット収入やミュージアムショップ・カフェなどの収益、教育プログラムでの収入、イベント収入など多様である。

しかも、この4つのどれか1つの財源に偏ることなく、4つが等分とまではならなくても、どれか1つの財源が潤沢でなくなった場合でも、ほかの3つの財源でうまくカバーできるような工夫、つまり持続可能性を担保する仕組みをアメリカのミュージアムは持っていることは周知の事実であった。ただし、アメリカのミュージアム発達の歴史、寄附などに関する社会的慣習が異なるので、日本の社会に合致した方法や進め方を探ることが必要であろうと考えてきた。

評価手法の未成熟さ

以上のような指摘や議論を踏まえた上で、あらためて今回の「中期目標」を熟読してみた。ここでは「国立美術館 中期目標」から引用する。

前田(2007)は「2001年の博物館・美術館の独立行政法人化とともに、従来の評価作業とは異なる制度が導入された」と指摘している。筆者もこの主張には賛同する。

2000年までは、我が国の博物館界で実施されていた「展示評価」という枠組みがあった。展示に特化した評価体系・実践であったが、「効率性や経済性」と「公共性や文化的価値」に関する幅広い対象を評価するもので、来館者調査とセットで扱われていた。

一方、2001年からの独立行政法人化、2003年の指定管理者制度に伴い導入された評価の枠組みは、展示だけでなく博物館全体の活動を対象としている。しかし、評価のための新たな来館者調査は十分に行われず、既存データの活用を基にした「アウトプット」中心の定量的指標に偏っている(佐々木亨2026)。

独法化以降、評価手法の改善はさまざまなところで主張されてきた。しかし、今回の中期目標の<III.国民及び外国人観光客に対して提供するサービスの質的向上>の<1.美術を取り巻く状況の変化に対応した多彩な活動の展開>を見る限り、<(2)美術創造活動の活性化の推進>では公募展示室の予約率が、<(3)美術に関する情報の拠点としての機能の向上>ではHPへのアクセス件数、デジタル化した所蔵作品データの公開率、アートライブラリーの利用者数などが、<(4)教育普及活動の充実>ではイベント参加者の満足度が並んでいる。

いちばん注目された<(1)多様な鑑賞機会の提供と経営の持続可能性の確保の両立>では、持続可能性の確保として、法人全体の展示事業に係る費用に対する展示事業に係る自己収入額の割合を次期中期目標期間中に100%とすることを目指しつつ、本中期目標期間の最終年度に「65%以上」とするが掲げられた。多様な鑑賞機会の提供では、展覧会や上映会の満足度、および地域の美術館と連携して実施する展覧会の満足度を掲げている。

しかし、どうであろうか。公募展示室の予約率、HPへのアクセス件数、所蔵作品データの公開率、アートライブラリーの利用者数は、単なる「アウトプット」指標であり、国立美術館が目指している「アウトカム」、例えば、創作活動や作品鑑賞、教育普及活動の参加の先にある、利用者側に生じることを期待する「認識や行動の変化」を直接説明するものではない。

津田塾大学総合政策学部教授の深谷健(2026)が「性質的には質的評価を要する政策や事業であっても、KPI設定(最終目標を達成するために、その過程における進捗具合を測る具体的な数値を定めること)そのものが目的化することにより、形式的な数値管理に傾斜してしまうことがある」と述べていることが、まさにここに現れていると考える。

国が提示している評価指標は、かつての「展示評価」における「効率性や経済性」のみであり、美術館が本来到達したい「公共性や文化的価値」に関する評価指標は出ていない。

なお、利用者の「満足度」も指標として中期目標で多用されているが、これを美術館のアウトカムと捉えるにはあまりに荒すぎる。なぜならば、展覧会における感動といった本質的な価値を現すこともあるが、利用者が感じている観覧料金の値ごろ感、スタッフ対応の善し悪し、観覧環境の善し悪しに、常に満足度は大きく左右されるからである。

中期目標が発表された直後、さまざまな新聞やwebマガジンなどで関係者が発言していた。例えば、短期的な効率だけでは測れない価値が本質にあり、それがどこまで中期目標に汲み取られたか疑問である。また、どうしても計測可能な部分だけが評価の焦点になるが、文化の本質的な価値は数字では測れない、といった発言をよく目にした。

前田が2007年に、定量的評価の一人歩きは文化行政にダメージを与えかねないと警鐘を鳴らしていたが、例えば2010年代には、英国においてミュージアムにおける公共価値や共同体的価値の評価が試みられていたとの報告がある(関谷泰弘 2023)。

また我が国でも、人が直接訪れることによって生じる経済波及ではなく、文化財に関する市場を通らない価値、つまり「外部便益」として、まだ訪れていないけれども将来の利用が動機となって生じる価値、訪れるか否かに関係なく文化財が存在していること自体で生じる価値を、仮想評価法を用いて定量的に算出している研究がある(垣内恵美子ほか2011)。この研究はその後、2010年代後半から国内の公立博物館・美術館でも数館に対して適用されてきた(林勇貴2016,2025,2026)。

このように豊富な先行事例を参照し、評価設計してリサーチを実施したならば、数字では測れない部分がより文化の特性に沿った形で特段に広がったはずである。併せて、文化施設が持つ短期的な効率だけでは測れない価値を見える化・顕在化させるチャレンジを、独立行政法人として行ってきたのだろうか。

例えば、手間はかかるが、来館者一人一人に起こっているであろう「アウトカム」(認識や行動の変化)を長期的に捕捉し、各自のライフヒストリーと重ねながら「ナラティブ」を丹念に記述していく方法など、文化人類学や社会学的なフィールドワークにおける手法を参考にできるであろう。

これらの独立行政法人を直接所管する歴代の文化庁長官には研究者もいたはずであり、独法化以降、国内外のさまざまな文化施設評価に関する研究成果を活用して、国立博物館・美術館の評価の枠組みを再設計するチャンスがあったはずである。にもかかわらず、なぜ長年できなかったのか大いに疑問が残る。

「財源の多角化」こそ、外部評価の対象である

前節で紹介した、いま注目されている<(1)多様な鑑賞機会の提供と経営の持続可能性の確保の両立>における「持続可能性」の確保について、ここでは「展示事業に係る費用に対する展示事業に係る自己収入」に限らず、独立行政法人における自己収入の1つである寄附金収入の推移をみてみたい(各年度の「独立行政法人国立美術館 決算報告書」より)。

独法化から10年経過した2011(令和23)年度では、国立美術館の寄附金収入が3千万円弱であったが、2014(平成26)年度には寄附額が6億円台となり、令和(2019年~)になってからはおおむね7億円台で推移している。

筆者がネット上で知り得る範囲は限られているため、国立博物館などに勤務していた数名の方にこの間の体制の変化などを伺ったところ、ファンドレイザー(非営利団体において活動に必要な寄附金、会費、助成金などの資金を集める職業)が資金調達する体制はできつつあるという。

一方で、その一件あたりの調達額が小さく、全体としてなかなか大きな自己収入増には至っていない。個人や法人のニーズを的確に把握し、より大きな資金調達を可能にする枠組みを創出するマーケッターの存在が欠かせないのではないかという。

ただし、アートに関する情報を発信しているTokyo Art Beat(2026.3.30)の記事で、青山学院大学総合文化政策学部教授の片山泰輔氏が述べているように「交付金抑制による要員不足もあり、マーケティングやファンドレイジング(上記ファインドレイザーの活動)の戦略的な取り組みはあまり行われず、交付金に頼る財政構造が継続されてきた面がある」のであれば、単に資金調達に係る要員を増やせばよいという単純な構造ではないことがわかる。

筆者は、財源の多角化の議論からもうこれ以上逃げない方がよいと考える。この議論は国立美術館などの持続可能性を手に入れる第一歩であり、将来的に資料収集・保存、調査研究といったミュージアムの本質的な価値を生み出す機能を維持していくことに関わるからだ。

この財源多角化の議論の中で「展示事業に係る費用に対する展示事業に係る自己収入額の割合を(中略)本中期目標期間の最終年度に65%以上とする」ことを検討すべきと考える。

その理由は、65%以上のラインに到達することだけを考えれば、例えばマスコミとの共催展を連続し、「展示事業に係る費用」つまり分母を小さくすることに注力すれば、実現する可能性が低くないからである。しかしその結果、美術館の収集と調査・研究の成果を存分に発揮する自主企画展が大幅に減少してしまっては、将来の持続可能性の道筋がねじれてしまうように思う。

今回の中期目標では、<IV−2. 組織体制の見直し>や<V−1. 財源の多角化による自己収入の拡大>が挙がっているが、検討すべき事項を横並びに記述しているに過ぎず、戦略性は読み取れない。

そもそも評価の目的は、「説明責任」と「事業改善」の2つである。これらの独立行政法人の評価では、さまざまな手続きを踏んで内部で作成される自己評価とそれを受けての外部評価から構成されている。

これまでのように外部評価では自己評価から持ち上がってきた数値を、国民に対する説明責任の一環で吟味するだけではなく、財源の多角化が現状ではなぜうまく進んでいないのか、進めるためにはどこを変えていくことが必要なのかなど、現場の声を独自にヒアリングしながら、事業改善に向けてもっと創造的な議論が展開することを期待したい。

<執筆者略歴>
佐々木 亨(ささき・とおる)
北海道大学文学部卒。
旅行代理店勤務後、北大文学研究科修士課程入学。1987年民間シンクタンク、1989年北海道教育委員会(学芸員)、1997年東北大学東北アジア研究センター勤務。2000年北大文学研究科。2025年北海道大学名誉教授。同年4月より、文化施設や文化事業に関する評価の伴走支援を行う合同会社「エ・バリュー」共同代表。2026年4月より小樽市総合博物館館長

【調査情報デジタル】
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