東京2020大会から5年、IPCパーソンズ会長が子どもたちと学ぶ「ボ学」を視察――未来へ受け継がれるボランティアのレガシー
東京2020パラリンピック競技大会から、早5年。東京では、障害の有無に関わらず誰もが暮らしやすい「共生社会」の実現に向けた取組が広がっています。パラスポーツの普及やユニバーサルデザインの浸透など、東京2020大会のレガシーは都市の様々な場面にしっかりと根付きつつあります。
そんな中、東京2020パラリンピック競技大会5周年記念事業の一環として、国際パラリンピック委員会(IPC)のアンドリュー・パーソンズ会長が来日。東京2020大会後、5年間で進展したレガシーのさまざまな現場をパラ応援大使とともに視察しました。
8月29日(土)には、東京2020大会を契機に広がったボランティア文化の定着をテーマに、日本財団ボランティアセンターが実施する小中学生向け特別授業「ボ学」を視察。授業では、東京2020大会や各種スポーツ大会で活動したボランティア経験者が登壇し、ボランティアの魅力や意義を紹介しました。
さらに、視覚障害者の誘導や聴覚障害者とのコミュニケーションなどの体験プログラムを通じ、子どもたちとともに障害理解や支え合いの心を育む取り組みにも参加しました。
世界を変えるプラットフォームとしてのパラリンピック

授業の冒頭、IPCのパーソンズ会長が子どもたちや保護者に向けて挨拶を行いました。
「私たちがパラリンピックで重視しているのは、家族の方にも参加してほしいということです。パラリンピックは、世界を変えるためのプラットフォーム。競技場でプレイするアスリートたちの姿は、障害を持って生きる人々の日常生活や、世界を変える力を持っています」と語るパーソンズ会長。
家族揃って大会に足を運び、アスリートの活躍を目にすることは、障害を持つことへの理解を深め、共生社会の実現について共に考える絶好の機会です。
「家族と関わって一緒に取り組むことはより楽しく、そしてより強くなることです。これはボランティアにも同じことが言えます。親子でボランティア活動に参加することは特別な絆を生み、他者のために時間とエネルギーを費やすという、地球上で最も美しい活動につながります」と、ボランティアの意義を力強く伝えました。
あの夏の記憶と、動き出したそれぞれの未来

続いて、東京2020大会で実際にボランティアとして活動した3名が登壇。当時のエピソードや大会後の自身の変化について語りました。

村松芳容さん(東京2020大会ボランティア、視覚障害当事者)
視覚に障害がある村松さんは、静岡県で開催された自転車競技の表彰式で、メダルを運ぶ仕事やアスリートを案内するボランティアを担当しました。
「障害者としてパラリンピックに出場する選手側のことは知っていましたが、ボランティアとして何ができるのか最初は分かりませんでした。でも、金メダルを触らせていただいたり、メダルに打たれた点字を読んで『TOKYO 2020』と書いてあるのを実感できたことは貴重な経験でした。日本人で金メダルを獲得した杉浦佳子選手をエスコートできたことも印象に残っています」。

当時、周囲のサポートを得ながら活動した経験を通じ、村松さん自身も「周りの人に助けを求めやすくなった」と自身の変化を語りました。

相原雅文さん(東京2020大会ボランティア)
「有名な選手の近くで活動できたら面白いんじゃないか」という気持ちで応募した相原さんは、ホテルで大会関係者の通訳兼秘書のような活動を担当。しかし、実際には外国語は話せませんでした。
「現場には語学が堪能なボランティアさんがたくさんいて、最初は恥ずかしく思いました。でも、私は日本語が得意で話すことが好きです。通訳は難しくても、皆さんが話したいことや困っていることを日本語で積極的に聞くようにしました」。

結果として、語学力を越えたコミュニケーションで多くの人に感謝されることに。元々スポーツが苦手だったという相原さんですが、この経験を機に「支えるスポーツ」の面白さに目覚め、今ではスポーツが大好きになったと語ります。

星野祐子さん(東京2020大会ボランティア)
幼い頃からお祭りなど人が集まる場所が好きだったという星野さんは、大会関係者やメディアを車で送迎するボランティアを担当しました。
乗車するのは海外の方ばかりでしたが、星野さんも外国語は話せません。それでも「なんとかコミュニケーションを取りたい」と、手作りのメッセージカードや日本のお守りである水引を渡し、歓迎の意を伝えました。「皆さんがすごい笑顔で『ありがとう』と言ってくれたことが心に残っています」。

さらに星野さんは、ボランティア仲間だった聴覚障害の方と友達になりたいという思いから手話を学び始め、現在は手話通訳を目指して勉強を続けています。
「ちょっとした気づき」が誰かの助けになる
トークセッションの後は、子どもたちも参加する体験プログラムがスタートしました。
<視覚障害者へのサポート体験>
村松さんと相原さんによる、視覚障害者への誘導デモンストレーションを実施。街中で困っている視覚障害者を見かけた際の、具体的な声のかけ方やサポート方法を実践しました。

また、街中でよく見かける「点字ブロック」の役割についても解説。「ブツブツ」のブロックは「止まれ・この先危険あり」、「線」のブロックは「進め・この方向は安全」を意味します。

村松さんは、「点字ブロックの上に荷物を置いたり立って遊んだりすると、ぶつかって危険です。フロアマットがかぶっていたら率先してずらしてあげてください」と呼びかけました。その後、子どもたち自身もアイマスクをして点字ブロックの上を歩く体験を行い、視覚に頼らずに歩くことの難しさと、サポートの重要性を肌で感じました。

<聴覚障害者へのサポート体験>
続いて、星野さんを講師に迎えた手話体験。耳が聞こえない人とのコミュニケーション方法として、「ありがとう」と「困っていること何?」という2つの手話を練習しました。

言葉が通じなくても、身振り手振りやジェスチャーを交えて工夫することで、相手に思いを伝えることができます。「おじいちゃんやおばあちゃんと話すときにも活かせるので、普段の生活でもぜひ使ってみてください」と、コミュニケーションの広がりについて伝えられました。
子どもたちの素朴な疑問に会長が回答!

プログラムの終盤には、パーソンズ会長への質問コーナーが設けられ、子どもたちから次々と素朴な疑問が飛び出します。
Q 好きな食べ物は何ですか?
「ひとつだけと言われたら、お寿司です! 料理をするのも好きで、娘が一番好きなのは私のチキンカレーです」と笑顔で答えると、会場の子どもたちからも「一緒だ!」と歓声が上がりました。
Q なんでパラリンピックって言うんですか?
「ギリシャ語で『平行して、一緒に行く』という意味の『パラ(para)』から来ています。また、脊髄損傷の選手(パラプレジック)とオリンピックを組み合わせた言葉でもあります。オリンピックとパラリンピックは、平行して一緒になって動くという意味が込められています」
Q どんなボランティアをしてみたいですか?
「スポーツ大会なら、ファンと交流して案内や説明をするのが好きです。スポーツ以外なら、目の見えない方のために本や新聞を読んであげる『音読ボランティア』をやってみたいですね」
生涯の友と出会える場所。ボランティア精神が未来の社会を創る
イベントの最後には、IPCのコリーン・レン エグゼクティブディレクターとパーソンズ会長から、参加者に向けて力強いメッセージが送られました。
「スポーツは大事ですが、もっと大事なのはお互いに助け合って生きていくことです。家族、友人、隣人など、助けを必要としている人を手助けすることで、皆が共に生き、遊び、働ける良い未来につながります。東京2020大会で一番強く覚えているのは、ボランティアの皆さんの温かい心と歓迎の精神です」(レン氏)

そしてパーソンズ会長は、ボランティアの根本的な価値について語りました。
「大会でボランティアをするということは、生涯の友を得るということでもあります。私自身、東京大会で補佐をしてくれたボランティアの方と、今日5年ぶりに再会することができました。ボランティアは、他人のために時間とエネルギーを投入する人生の教育です。今の世界は分断やナショナリズムに満ちていますが、他人のことを考え、サポートする『ボランティア精神』を社会のさまざまな側面に広げていくことができれば、世の中を変えていくことにつながります」

東京2020大会から5年。あの夏に芽生えたボランティアの精神と共生社会への想いは、確かなレガシーとして、次世代の子どもたちへしっかりと受け継がれています。