石破政権の経済政策、岸田路線継承も、『好循環』への高いハードル【播摩卓士の経済コラム】

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2024-09-28 14:00
石破政権の経済政策、岸田路線継承も、『好循環』への高いハードル【播摩卓士の経済コラム】

自民党総裁選挙は決選投票の末、石破茂元幹事長が勝利しました。1日に発足する予定の石破新政権は、経済政策では岸田政権の路線を踏襲し、デフレ完全脱却をめざすとしていますが、『好循環』実現には高いハードルが待ち構えています。

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総裁選では岸田路線継承を強調

総裁選の投票日が迫った25日、石破氏はわざわざ記者会見を開き、自らの経済政策について説明する場を設けました。この中で石破氏は、「岸田総理が進めて来た『成長と分配の好循環』をさらに力強く確実なものにしていく」と、岸田路線継承を強調しました。

決選投票を睨んで、岸田総理や旧岸田派の支援を得ようという思惑が明白ですが、石破氏自身が岸田路線に違和感がないことの表れでしょう。

石破氏は、「物価上昇を上回る賃上げを目指す」と岸田政権同様に明言し、最低賃金を2020年代中に1500円まで引き上げる目標も掲げました。
財政健全化についても、石破氏は元々「有事の備えた財政規律は、国家にとって必要」と、その重要性を認めつつも、「機動的な財政出動を最も効果的に行っていく」と、当面は『好循環』実現に重心を置く姿勢を示し、こちらも岸田路線に寄り添いました。

岸田路線の継承を明言したことは、少しづつ金融正常化を進め、金利のある世界と経済再生を両立させていくという金融政策の方向性も、基本的に支持しているということです。

金融所得課税強化は軌道修正

総裁選スタート直後に石破氏は、金融所得課税の強化について、「実行したい」と発言、総裁選の争点の1つとなりました。利子や配当など金融所得は、源泉分離課税制度によって富裕層には恩恵が大きいことから、石破氏としては、公平性の問題提起をしたのでしょうが、「貯蓄から投資という流れに逆行する」といった批判にさらされました。

その後、石破氏は「NISAを縮小すると言った意味ではない」などと防戦に追われ、25日の記者会見でも「貯蓄から投資への流れは一層加速していく」と、事実上、軌道修正を迫られました。

現実問題として、金融所得課税を打ち出せば、株価が下がることは明白で、NISAで投資を始めたばかりの「普通の人」にとっても痛手になるわけで、そうしたことに考えが及ばないところが、石破さんらしいと形容する向きもあります。

「経済音痴」の批判返上なるか

石破氏は、しばしば「経済音痴」と評されることがあります。当選12回で経験豊富な政治家ではあるものの、得意分野は、防衛と、地方や農業で、農水大臣以外の経済閣僚の経験はありません。

鳥取県の出身であり地方創生大臣も経験したことから、「地方から経済活性化を」とか。「スマート農業で高付加価値化を」といった話は良く聞きますが、マクロ経済運営で、何か特徴ある主張を積極的に行ったことはあまりないように思います。
強いて言えば、金融所得課税の強化や、法人税の一部引き上げに言及するなど、自民党の指導者の中では、「分配」をより重視する信条なのではないかと見られます。

こうしたことから10月1日にも発足する石破新政権では、経済政策の中心に誰を据えるのかが、最大の焦点です。石破氏としては、必ずしも得意でない経済政策の立案は一定、経済チームに任せることになるのではないでしょうか。

石破政権を待ち構える大きなハードル

しかし、経済運営の先行きは、岸田路線継承と言うだけで楽観できるほど、甘い状況ではありません。「好循環」の実現と、財政健全化という2つの大きなハードルが待ち構えています。

来年の春闘で今年同様の高い賃上げができるかが、まず第一の必要条件。その上で、実質賃金プラスの世界が実現できるかが問われます。インフレ先行の世の中では、賃金が上がるまでのタイムラグがある上、人によって賃金の上がり方にも大きな差が出るため、その間に必要な家計支援が未だ欠かせません。
また、長らくデフレ経済に慣れた消費者心理の下では、多少の実質所得プラスではなかなか消費増に結び付かないので、需要の増加という真の経済の「好循環」には、なお時間と政策支援が必要になるでしょう。

その一方で、世界的なインフレによって、日本でも「金利のある世界」が戻りつつある中で、財政への目配せは欠かせません。金利の上昇によって、国債の利払い費が財政を徐々に圧迫することは明らかですし、日本の財政に対する信頼が損なわれると、市場で長期金利が急騰するリスク(=国債価格が急落するリスク)に直面してしまいます。

「好循環」実現までの経済対策に加え、高齢化、子育て支援、防衛費増額、災害対策など財政拡張が避けられない中で、どうやって財政健全化への道筋をつけるかは、相当な難問です。少なくとも、市場に不安を抱かせない態度を示すことだけでも、大変な作業です。

近く予想される解散・総選挙、そして来年夏の参議院選挙を控え、自転車操業的な政権運営を余儀なくされるので、石破新政権はそこまで考える余裕などないかもしれません。

播摩 卓士(BS-TBS「Bizスクエア」メインキャスター)

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