好意に乗じられて恩を仇で返すような仕打ちを受けてしまうことを「庇を貸して母屋を取られる(ひさしをかしておもやをとられる)」と表現します。
これらは裏切りを受けることなども言う表現です。
しかし、そもそも「庇」とは何を指しているのでしょうか?
今回は「庇を貸して母屋を取られる」について解説します。
特に「庇」の意味はもちろん、由来が語源についても説明します。
「庇を貸して母屋を取られる」とは
まずは「庇を貸して母屋を取られる」の意味を見てみましょう。
「庇を貸して母屋を取られる」の意味
「庇を貸して母屋を取られる」とは好意に乗じられて恩を仇で返すような仕打ちを受けてしまうことの例えです。
文字通り、これらの言葉は軒先を貸したところいつのまにか母屋を乗っ取られてしまうことを言う言葉となります。
つまり、一部を貸したために結局その全部が奪い取られることを例えた表現の1つです。
転じて、保護してあげたのに恩を仇で返されるようなことを指すようになったとされています。
なお、これら「庇を貸して母屋を取られる」はその昔「片屋を貸して母屋を取られる」とも言われる言葉だったそうです。
現在でもそちらの表現が使用されることもあるので注意しましょう。
「庇を貸して母屋を取られる」の由来
ここからは「庇を貸して母屋を取られる」がどこから来た言葉なのかを見ていきましょう。
「庇」とはなんのこと?
そもそも「庇を貸して母屋を取られる」の「庇」は軒に差し出た雨風や日光を防ぐための小さい屋根のことを言います。
本来は家から少し飛び出た屋根のことを言う言葉です。
しかし、ことわざの「庇を貸して母屋を取られる」においては、軒先という意味で解釈した方がわかりやすいです。
由来は軒先を貸した後の最悪な結末を例えとしたこと
「庇を貸して母屋を取られる」とは、雨宿りや日除けなどを理由に「庇」を貸したところ「母屋」ごと奪われてしまったという最悪の結末から来た言葉です。
実際に「庇を貸して母屋を取られる」にまつわる以下のような話があるそうです。
ある日、商家の主人のもとに旅人が訪ねてきました。
その際、主人は旅人に軒先を貸してあげたのだとか。
しかし、その旅人は次第にその商家の店番をするようになっていったそうです。
そして、終いには主人にまでなってしまったとのことです。
そこから生まれたのが「庇を貸して母屋を取られる」となります。
事実、他人に親切にしたばかりに自分の大切なものを奪われてしまうことは往々にしてあります。
それらある種で戒めや教えのような意味も込められているのが「庇を貸して母屋を取られる」となるのです。
「庇を貸して母屋を取られる」の類義語
最後に「庇を貸して母屋を取られる」の類義語を見ていきましょう。
「庇を貸して母屋を取られる」の類義語には「恩を仇で返す」や「後足で砂をかける」「飼い犬に手を嚙まれる」などがあります。
恩を仇で返す
「恩を仇で返す」とは世話をしてもらったり親切にしてもらった者が、恩返しをしないどころか敵対して害を加えることです。
「恩」とは他人から与えられた恵みや情け、慈しみのことです。
「仇」とは恨みのある相手、つまりは敵のことを言います。
多くの場合、これらのことわざは人道に反することの非難として使用されます。
近年では単に裏切り者などを指すことも多いです。
後足で砂をかける
「後足で砂をかける」とは世話になった人の恩義を裏切るばかりか、去り際にさらに迷惑をかけることです。
酷い振る舞いをして去っていくことを意味します。
例えば、助けてもらったのに何かを盗んで消えるなど、裏切り行為を指して言うことの多い言葉です。
飼い犬に手を噛まれる
「飼い犬に手を噛まれる」とは部下や後輩など自分が可愛がっていた者から、思いがけない攻撃を受けることの例えです。
ほとんどの場合は裏切りに遭うことを言います。
これらは古くは「手飼の犬に手くわるる」「飼かう犬に手をくわるる」とも言った言葉となります。
どちらも食べ物や飲み物を与えて養っていたのに、逆に被害を受けることを言う言葉です。
まとめ
「庇を貸して母屋を取られる」は一部を貸したところ全部取られてしまうような状況を言うことわざです。
これらは商屋が旅人に軒先を貸してあげたところ、店ごと奪われてしまったところから来た言葉とされます。
近年では単に裏切り行為を表すこともあります。
事実、親切にしたにもかかわらずそれが裏目に出てしまうこともあるので、お人好しもほどほどにしておきたいところです。