![障害者が運営する自立生活センターを描く「まちで生きる、まちが変わる」](/assets/out/images/jnn/1033450.jpg)
今回は写真家・ジャーナリストの柴田大輔さんが書いた本「まちで生きる、まちが変わる つくば自立生活センターほにゃらの挑戦」と、そこに登場する「ほにゃら」という自立生活センターを紹介します。
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当事者が当事者を支える「自立生活センター」
自立生活センターは、障害のある当事者が中心になって運営される障害者のための支援組織です。「まちで生きる、まちが変わる」はその「ほにゃら」の歴史を取材し、スタッフや利用者の声を伝えるノンフィクションです。著者の柴田大輔さんは健常者ですが、「ほにゃら」の活動に興味をもち、介助スタッフとして働きながら2年間かけて本にまとめました。柴田さんに本を書くきっかけを聞きました。
写真家・ジャーナリストの柴田大輔さん
「それまで自立生活センターの存在をまったく知らなくて、当事者の人が当事者を支えていくのがすごく僕には新鮮で、驚きもありました。当事者だから分かる当事者の気持ちがあり、困りごとをより深く理解されているので、かゆいところにめちゃくちゃ手が届く対応ができるし、利用者がやりたいことを実現させるためのサポート体制を新たに作ったり、社会そのものも変えなきゃいけない時には変えてしまうための活動を、当事者が中心になりながら、当事者以外もチームとして加わって、学生や社会人など多様な地域の人を巻き込みながら動いているのも魅力的だなと僕は思いました。それが本を書くというその先の取材につながったという感じですね」
自立生活センターは医療や福祉の専門家が支援するのではなく、障害者が、障害者のための支援をする組織です。全国に100か所以上あり、障害者がヘルパーの介助をうけながら、実家や施設を出て独立して暮らせるよう計画を作成したり、介助者の派遣など実用的な支援をしているのが特徴です。
「自分たちのことは自分たちで決めていこう」
「ほにゃら」は2001年に設立され、これまで5名ほどの重い障害のある人を自立生活に導いて、支えたそうです。事務局長の斉藤新吾さんは1975年生まれで、小学校入学の前に脊髄性進行性筋萎縮症という筋力が徐々に弱っていく難病が発症し、現在は24時間介助を受けながら自立生活し、同時にセンターの運営もしています。「ほにゃら」現在の利用者は約30名、介助を毎日必要とする人は7人ほどで、障害のあるスタッフ3名のほか、アルバイトを含む介助スタッフ50人ぐらいが利用者を支えています。斉藤さんに障害者が自立生活することの意義を聞きました。
「つくば自立生活センターほにゃら」事務局長の斉藤新吾さん
「障害のある人のことを、従来は家族とか医者とか福祉の専門家とか、障害のない人が決めてきた歴史があって、そうじゃなくて『自分たちのことは自分たちで決めていこう』を理念として、自立生活センターを立ち上げました。必要だけどないサービスであれば自分たちで作り出して、それを提供していこうということを目標にしています。重度の障害のある人には、自分の考えを表明するのを怖がる人がいるんですね。とくに他者に介護を依存している場合、家族や施設の職員も良くしてくれるので、その人たちの思いを当事者がすごく汲んじゃうので、自分の考えは後回しになっちゃって、自分の意見を言うことがなかなかできない。そうじゃなく、まずは自分がどうしたいか、から始めようと。家族と一緒じゃないと出かけられない、じゃなく、サービスやヘルパーという社会資源をを使いながら障害者も自分でしたいことを、障害のない人と同じようにしていく、それを実現させることで、自分だって自立生活していいんだと思える導きを、これまでも行ってきました」
「ほにゃら」の特色は、行政にアプローチして福祉の取り組みを変える点にあります。たとえば2014年には「ほにゃら」と地域の当事者団体らが連携して「障害のある人もない人も共に歩み幸せに暮らすための茨城県づくり条例」(通称『茨城県障害者権利条例』2015年4月施行)を採択させています。また2018年には、つくば市が関東で初の「合理的配慮支援事業者補助金制度」を制定するために尽力しました。市長や市議の選挙の時には立候補者に福祉政策に関する公開質問を続け、地域の行政にも積極的に関わっています。さらに、障害のある子どもが、小さいうちから家族の介護を離れて福祉サービスを使って同じ世代の健常者と一緒に生活するよう支援する「ほにゃらキッズ」という取組みもしています。まさに、柴田さんの本の題名にある「まちが変わる」を実現しています。
「まちで生きる、まちが変わる」を読むと、障害者が健常者と同じように暮らすため、自立生活センターがどのような役割を果たし地域を変えていったかが具体的に分かります。最後に、著者の柴田さんに、この本をどう読んでほしいかを聞きました。
写真家・ジャーナリストの柴田大輔さん
「本の中に登場する方で、幼少期に障害があることでいろんなつらい思いをしたり、葛藤を抱えながら過ごしてきた方がいらして、その方たちが今、街を変える主人公になっていたり、自分の思いを実現していたりして、その方たちが仰ってたのは、『今、障害があることで、苦しい思いをしていたり、この先自分はどうなっちゃうんだろうと思っている子供たちにも自分のように障害があってもしたいことを実現できる道があると知ってもらいたい』ということでした。そうしたメッセージを、僕がこういった形にすることで伝えられたらいいなとは思っています。『ほにゃら』の活動に参加して一番感じたのは、『僕もこの社会のひとりなんだ』と実感できたんですね。『ほにゃら』の人たちが地域を変えているのを見ることができたので、僕も自分の考えを持って行動すれば社会は動くんだなと教わりました。僕自身が街で暮らす当事者の方と出会って考え方がすごく変わったし、個人の変化が社会の変化につながると思うので、僕と同じように、もっと沢山のひとに関心を持っていただけたらいいなと思ってます」
「まちで生きる、まちが変わる」の終盤では、電動車椅子で海外旅行をする斉藤さんの姿がとてもいきいきと描かれています。それらのエピソードは障害があっても声をあげれば、やりたいことを実現する道があることが学べます。健常者と障害者が混じり合いながら暮らせる街づくりについても、様々な角度から学ぶことができるので、多くの人に読んでほしいと思います。
(TBSラジオ「人権TODAY」担当・藤木TDC)