![「他のには負けない」福島の31歳漁師が挑戦する“幻のエビ” 処理水放出で風評被害…それでも「息子の世代に漁業をつないでいく」【つなぐ、つながる】](/assets/out/images/jnn/1045012.jpg)
福島県相馬市の原釜港。大ぶりのアンコウに肉厚なヒラメ。“常磐もの”と呼ばれ、その味は折り紙付きだ。
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近くの市場には大勢の観光客が詰めかけ、新鮮な魚を買い求めていた。
井上キャスター
「足を踏み入れて、活気があるなと思いました」
原釜港 最年少船長 菊地栄達さん(31)
「他県からの人が多いって印象なので」
原釜港の漁師・菊地栄達さん、31歳。賑わいに目を細める一方で、複雑な思いを抱えていた。
原釜港 最年少船長 菊地栄達さん(31)
「一時的なものっていう言い方も良くないけど、これがなん十年続くかって言われたら、そうでもないし」
実は、福島を応援しようという機運が高まり、今は魚が売れている。でもこの先は…。菊地さんは不安だった。
「検査して、売れないし…。ショックでした」
13年前、原釜港を激しい揺れと津波が襲った。高校を卒業し、漁師になろうとしていた菊地さん。だが、原発事故の影響で、しばらくは、魚の安全確認を行う試験操業しかできなかった。
井上キャスター
「あのころ大変だったんじゃないですか?獲っても、検査して…」
原釜港 最年少船長 菊地栄達さん(31)
「検査して、売れないし…。ショックでした。自分が獲ってきたものがみんなに受け入れられないというのはショックで」
そんな菊地さんを支えたのが、震災の翌年に生まれた新たないのち、長男・航世くん。
3年前、ようやく全種類の魚を出荷できるようになると、菊地さんは「家族のために」と懸命に魚を獲り、港で最も若い船長になった。
漁師仲間
「若いのに頑張っている」
先輩漁師
「優秀だからこっちの方が情報提供してもらっている」
いま、4人の子の父親になった菊地さん。長男・航世くんは、この春、中学生になる。航世くんが父に語った将来の夢。それは…
原釜港 最年少船長 菊地栄達さん(31)
「何になるの?」
長男・航世くん
「漁師」
井上キャスター
「即座に『漁師になりたい』ってぱっと出てくるのは、父親としてどう?」
原釜港 最年少船長 菊地栄達さん(31)
「嬉しいですね。自分がやっていることやってもらえるのは嬉しい」
だが一方で、航世くんの将来が不安になる出来事が…。去年から、原発処理水が海に放出されるようになったのだ。
東電の風評被害対策は?敷地内でヒラメ飼育のワケ
処理水放出の現場は、いまどうなっているのか。福島第一原発に井上キャスターが入った。
井上キャスター
「これ全部、処理水が入っていると考えていいですか?」
東電担当者
「そうですね、はい」
処理水とは、発生する汚染水から、大部分の放射性物質を取り除いたものだ。
だが「トリチウム」という放射性物質は除去できず、処理水は巨大なタンクに貯まり続けてきた。それを基準値より大幅に低い濃度に薄めて放出する。
井上キャスター
「これ以上増やすとなると…」
東電担当者
「これ以上、敷地の中に建設するということになると、廃炉作業が進まなくなってしまう」
海洋放出は避けられないという東京電力。では、風評被害対策はどうするのか。実は…
井上キャスター
「おおお!!」
東電は、原発敷地内で「ヒラメ」や「アワビ」を飼育。処理水が含まれた海水で育ったものと、含まれていない海水で育ったものとを、比べている。
東電担当者
「普通の海水で飼育しているヒラメと、大きさ、身長体重、成長の度合いは全く変わりありませんし、死亡率も変わりありません」
トリチウムは、ヒラメなどの体内に一旦は取り込まれるが、処理水が含まれない海水に移すと排出されるとみられることがわかったという。
東電担当者
「こういう形で飼育している状況を発信することで風評被害の抑制に貢献できるかなと思っています」
こうして安全性を発信する東電。しかし菊地さんは…
原釜港 最年少船長 菊地栄達さん(31)
「処理水で、(今後)20~30年みたいな声を聞く中で、親としては子どもが乗るころにはフラットな環境でやらせたかったですよ」
一尾数千円 “幻のエビ”で描く未来
ただ、ひとりの漁師が処理水の放出を止めることなど出来ない。
息子や“未来の漁師”のために、何かできることは…。菊地さんは、幻のエビと呼ばれる、このエビに目を付けた。
原釜港 最年少船長 菊地栄達さん(31)
「ブドウエビっていうエビがいるんですけど、ブドウエビっていう紫色のエビなんですけど、すごい美味しくて、ブランド化するってことが未来につながるんじゃないかなって考えた結果なんですよね」
一度の漁で数キロしかとれず、一尾、数千円するというブドウエビ。
原釜港 最年少船長 菊地栄達さん(31)
「どうですか?おいしいですよね」
井上キャスター
「濃厚、甘み、肉厚さ。おいしい…。他には負けないですよね」
原釜港 最年少船長 菊地栄達さん(31)
「はい」
漁師仲間
「浜イチになる男ですよ」
原釜港 最年少船長 菊地栄達さん(31)
「自分も親だったり先輩だったり、仲間の人から色々つなげられてってところあったから、次の世代にバトンタッチしたいってところはある。自分たちの代で終わらせたくない」
福島の未来の漁師のために…!菊地さんの挑戦は始まったばかりだ。