ガザでけがをした子どもたちを飛行機で救い出す作戦に密着しました。まさに“空飛ぶ救急車”。
行っているのは、UAE=アラブ首長国連邦です。今回、日本メディアで初めて内部の取材が許されました。
【写真を見る】“空飛ぶ救急車”を日本メディアで初めてJNNが取材 ガザの負傷した子どもの救出作戦に密着 飛行中に治療も【news23】
“着の身着のまま”…左目負傷の少女や車いすの少年
パレスチナ自治区ガザから南に約40km。エジプトのアル・アリシュの空港には、救急車が数多く止まっていました。
増尾聡 記者
「エル・アリシュに到着してから約2時間半経ちましたが、ガザから逃れてきた子どもたちが姿を見せ始めた。これから特別機に搭乗していきます」
左目を負傷した少女や、車いすに乗せられた少年。生々しいけがの痕が残る子どもたちが次々と特別機に搭乗します。
付き添いの家族もいますが、ほとんど荷物は持っておらず、着の身着のまま、ガザから逃れてきたことが伺えます。
増尾聡 記者
「車いすの女性もエレベーターで機内に入っていきます。右足をけがしているのか、包帯が巻かれていて、顔にも傷のあとがのこっています」
この様子は、UAE=アラブ首長国連邦が実施するミッションで、イスラエル軍による攻撃が続くガザで負傷した子どもや、がんなどの深刻な病気を患った患者をUAEに搬送しているのです。
イスラエル軍とハマスによる戦闘開始から5か月。停戦に向けた条件をめぐって双方の隔たりが大きく、合意の兆しは見えないままです。
ガザ保健当局によると3月15日時点で、戦闘以降で犠牲になったパレスチナ人は3万1490人。 さらに、けが人は7万3439人にも上っています。
ガザでは、電気や燃料不足により、多くの病院が十分に機能しておらず、負傷者に適切な治療を施せない状態が続いています。
こうしたガザ市民を支援するミッションに、今回、日本のメディアとして初めて密着取材が認められました。
「胸に異常が」医師が走り… “空飛ぶ救急車”のなかは
機内では、座席の一部を倒し、ストレッチャーを設置するなど、まさに“空飛ぶ救急車”です。
取材中にも…
増尾聡 記者
「吉田(カメラマン)ごめん、エマージェンシー(緊急事態)だって」
乗務員
「胸に異常が」
増尾聡 記者
「医師が走って子どものところに駆け寄っています」
負傷者らが搭乗するや否や、至る所で治療が行われます。呼吸困難に陥り酸素吸入が必要な少年や、ストレッチャーの上で点滴を受ける少女の姿も。
一方、ようやく安堵したのか、眠りにつく少年もいました。
母親
「(避難していた)大学を包囲したイスラエル軍の戦車が突然、砲撃を始め、戦闘機からの爆撃もありました。息子は両足を負傷し、私も足をけがしました」
ガザ市内の大学のキャンパスに家族で避難していたところ、イスラエル軍の空爆と砲撃が始まり、少年は両足に大けがをしました。そして…
母親
「2人の娘も同じ場所にいました。彼女たちも戦車の砲弾の破片にあたり、死にました。攻撃の後、まだ生きていたのです。周りの人々が人工呼吸をしようとしていたが、助からなかった。イスラエル軍は負傷者の外出も禁止しました。救急車もなく、負傷者を病院で応急処置することもできなかったのです」
6歳と8歳の娘を失ったといいます。そう言うと母親は、目頭を押さえました。
それを見ていた隣の女性が声をかけます。
隣にいた女性
「あなたは1人じゃないわ。私も子どもを失って、 家も壊されて。泣くのをやめましょう。彼女たちが天国に行けるように神に祈りましょう」
13歳少年 足の指を失うも「ガザで、またサッカーすることを諦めません」
戦禍を生き延びた搭乗者のなかには、身体の一部を失った子どももいました。
ジャラール ヤザン君(13)です。南部のラファに住んでいました。
ヤザン君が被害にあったのは2023年12月のこと。
ジャラール ヤザン君(13)
「隣の家が砲撃されて、そこから飛び散った破片が当たりました。けがをした人も、死んだ人もいました。僕も足にけがをしました」
ヤザン君はその後、ガザ内の病院を転々としましたが、十分な治療を受けられず、左足の指を全て失いました。
自力で歩くことは、もう叶いません。
ジャラール ヤザン君(13)
「悲しかった。悲しかった。何と言えばいいのか。本当に悲しくなった。足を失ってしまったんだ。でも他の人や他の子どもと比べたら、 僕はまだ良い方です。他の子どもたちは命を失ってしまったから」
UAEでは義足を装着し、リハビリに臨む予定です。
ジャラール ヤザン君(13)
「僕はガザで、またサッカーすることを諦めません。戦争が終わりますように。いつか歩けるように。そして家族に無事会えることを願っています」
なぜUAEが支援?ガザから約2000km
山本恵里伽キャスター:
ガザの非常に凄惨な状況ということが伝わってきました。ガザから約2000kmと遠く離れたUAEがなぜ支援を行っているのでしょうか。
中東支局長 増尾聡 記者:
ガザの支援には、アラブ諸国が力を入れていますが、特にUAEは多様な支援を行っています。
その一つの理由は、UAEがアラブ諸国として数少ないイスラエルと国交を持っている国だということがあります。4年前(2020年)にUAEは、電撃的にイスラエルと国交を結びました。その際に、パレスチナをはじめ、他のアラブ諸国からは「裏切りだ」との反発の声が多かったんです。
そうしたこともあり、今回「自分たち(UAE)は同じアラブの国として、ガザに寄り添っているんだ」という姿勢を示したかったものと思われます。
このミッションは12回行われていて、毎回イスラエル当局に事前に予定を通告した上で実施しているということなんです。
ただそれであっても、攻撃によってガザを抜けることのできない人が毎回多数いて、実際に私たちが取材した日も、搭乗を予定していた子どもの中には、この場所にたどり着くことができなかった子が多くいました。
UAEの担当者は「人為的に妨害されている」と嘆くなど、戦闘とは無縁な市民を救う取り組みであっても、極めて厳しい状況が続いています。
山本キャスター:
そういう過酷な状況の中で、これまでにどれくらいの人たちが救出されたのでしょうか。
中東支局長 増尾聡 記者:
これまで助け出された子どもや重病の患者は、約500人に上っています。
ただガザには、今も200万人が住んでいて、適切な治療を受けることができる市民はほんの一握り。極めて特別な例です。
戦闘開始から5か月が経ちましたが、停戦の兆しは全く見えず、戦闘が長引くたびに攻撃によって命を落としたり、助かる命であっても適切な治療を受けられずに死んでいったりする人がいる。
さらに、食糧支援が十分にできず、今この瞬間も餓死していく人たちがいる。そうしたことを私たちは改めて考えたいと思います。