ミャンマーはいま、世界最大規模の麻薬密造地帯になっていて、常習者が急増しています。こうした薬物は、ミャンマーから隣国のタイを経由して日本など各国に密輸されているといいます。
"内戦状態"に陥ったミャンマーで広がり続ける麻薬ビジネスの実態です。
隣国・タイの歓楽街に溢れる違法薬物もミャンマーから
観光客で賑わうバンコクの街で、違法薬物が数多く出回っているとの情報がありました。
密売人を摘発するタイ警察の捜査官は、路上に立っている外国人らの身分証明書などを入念にチェックしています。そして薬物所持の疑いがある人を次々と警察車両に乗せていました。
タイ当局では「ヤーバー」と呼ばれる、カフェインを混ぜた手頃な値段の覚醒剤がまん延し、2023年には約4億錠が押収されました。ここ5年で4倍以上に急増しているそうです。
これらの薬物は一体どこから流れてきているのか。
タイ麻薬統制委員会 事務局長
「薬物はタイでは生産されていません。ミャンマーから来ています」
タイ、ミャンマー、ラオスが国境を接する山岳地帯。“世界有数の麻薬密造地帯”として知られ、黄金の三角地帯『ゴールデントライアングル』と呼ばれています。特にミャンマーの北東部シャン州は麻薬の一大密造拠点とされます。
バンコク支局 村橋佑一郎記者:
子どもたちが楽しそうに水遊びをしている川を超えた先に、ミャンマーがあります。住宅街が広がっていますが、タイ側の住民によれば、こうした一般の住宅でも、薬物を使ったり製造したりしているということです。
タイ側の住民
「(麻薬は)普通に販売されているよ。あちら側(ミャンマー)は、たくさんの麻薬があって怖いんだ」
「薬なしでは生きられない」軍クーデター後に乱用者が増加か
シャン州で撮影された映像には、若者の集団が物陰に隠れながら薬物を摂取する様子が見られました。こうした光景は日常化しているようです。シャン州に住んでいるという、ヘロイン常習者の20代男性に話を聞きました。
麻薬常習者の男性
「ドラッグがないと外出もできないし食事もろくに取れない。薬なしでは生きられない。ここには何千人もの麻薬常習者がいる。数えきれないよ」
ミャンマーの最大都市ヤンゴンにある薬物依存症の回復施設では、薬物を乱用した若者たちがリハビリなどに取り組んでいます。創設者によると、“ある時期”を境に入所する若者が急増したといいます。
薬物依存症の回復施設 創設者
「2021年から薬物を取り巻く状況は大きく変わりました。この施設に来る薬物依存症の患者はかなり増えていて、2024年2月だけでも40人を受け入れました」
2021年にミャンマー軍が起こしたクーデター。民主化によって成長軌道に乗るはずだった国内経済は大混乱に陥り、物価の高騰や通貨の下落などで崩壊状態になりました。
UNODC=国連薬物犯罪事務所はクーデター以降、シャン州などでは少しでも収入を得ようと麻薬の生産者が急増していると分析しています。
また、これに拍車をかけているのが、軍と少数民族による戦闘の激化です。JNNは麻薬密売組織とつながりがあるという男性に話を聞くことができました。
麻薬密売組織と繋がりのある男性
「一部の少数民族は麻薬を戦闘用の武器と交換することもあれば、密売で得た資金を武器の購入にあてることもあります。(麻薬)製造機械の多くは中国から来たもので、村長などが生産を管理し、その上には元締めがいます」
少数民族武装組織などは、麻薬の原料や製造機械を中国やインド、パキスタンといった周辺国から収集し、ヘロインや覚醒剤の他、様々な合成麻薬を生産しています。
密売人と銃撃戦も 薬物密輸取り締まり “最前線”
ミャンマーで急増する違法薬物は、タイなどを経由し、日本や韓国、オーストラリアなど、各地に密輸されているとみられています。こうした状況に危機感を強めるタイ政府は、2023年から国境地帯を中心に取り締まりを強化しています。
JNNは今回、日本メディアとして初めて、最前線で薬物の密輸取り締まりを行う軍の部隊に同行しました。武装した兵士たちが入っていくのは、草木が生い茂る藪の中です。ミャンマーからの密売人を発見して摘発するというケースもあるといいます。2023年12月には密売人と銃撃戦になりました。
タイ陸軍の兵士
「大きな密輸組織であれば、銃器だけではなく、軍事兵器を持っている可能性があります。
行動パターンの予測は難しく、どんな組織に遭遇するか予想できません」
タイ陸軍がパトロールを強化したり、地元警察などと協力して検問場を増やしたりしたことで、密売人の逮捕も着実に増えました。ただ、麻薬組織側も密輸ルートを頻繁に変えるなど、輸送の手口が巧妙化しているため、イタチごっこが続いているのが現状です。
タイ陸軍の司令官
「ミャンマーの麻薬ビジネスは、世界の大きな国際問題であり、各国が協力して解決する必要があります」
日本は“魅力的な市場” 周辺国にも影響の恐れ
上村彩子キャスター:
ミャンマーではクーデターから3年以上も軍事政権が続いていますが、薬物のまん延に対する取り締まりはどのようになっているのでしょうか。
村橋記者:
軍や警察による取り締まりはほとんどないと言ってもいいと思います。軍に抵抗する民主派との戦闘で軍は劣勢に立たされているため、もはやそれどころではないというのが実情です。
そもそもミャンマーの麻薬ビジネスには軍も深く関わっていたとみられ、私達が取材した密売組織とつながりのある男性も、軍の幹部が取引の現場に来ているのを見たと証言しました。
軍事クーデターは、こうした麻薬に関わる一部の少数民族武装組織との対立を招き、衝突につながった側面もあるので、問題は複雑化、深刻化していると言えます。
上村キャスター:
内戦状態のミャンマーでは自国による取り締まりが厳しいということなのですね。
喜入友浩キャスター:
日本にも密輸されているそうですが、ミャンマーで混乱が続けば日本への薬物流入は増えてくるのでしょうか?
村橋記者:
影響はさらに広がると思います。日本は覚醒剤の乱用が多い国で、ミャンマーでは1グラムあたり末端価格が2000円以下の覚醒剤が、日本だと6万円くらいになります。密輸組織にとって日本は利益の大きい魅力的な市場と言われていますので、日本でも水際対策がより重要になってくると思います。