不動産会社の文京住販が、東京・恵比寿の「住まいソリューション」を拠点に城南エリアへ商圏を拡大する。城南エリアといえば、港区・渋谷区・世田谷区・目黒区・品川区など都内の不動産市場における”王道”にして“花形”の地域だ。競合他社が多い中で、顧客が住まいソリューションを選ぶメリットはどこにあるのだろうか? 代表取締役の一村岳史氏に聞いた。
「地域情報の深掘り」で顧客のニーズを満たす
これまで文京区ならびに隣接する6区に限定して、主に不動産の売買仲介と自社分譲を手がけてきた文京住販。エリアに特化した情報網と高いサービス水準が「不動産のプロフェッショナル」として顧客に支持されている。すなわち鋭く深く洞察された「地域情報」と、表に出ていないフレッシュな「未公開物件」が、城南エリアにおいても“武器”というわけだ。
特に重要視しているのが、地域に対する社員の成熟度。一村氏は「この街に住んだら、どんな暮らしが待ち受けているか──。エリアの特性をよく知った上で商談に臨むと、顧客のニーズと照らし合わせながら、タイミングよく適切なマッチングができる」と語る。そのため、住まいソリューションの若手社員に「街の博士になれ」と言い聞かせる日々。どういうことか。地域に根付いて18年、一村氏は文京区での成功事例を話してくれた。
文京区は総じて「教育熱心なファミリー層に人気」といわれている。中でも有名私立中学への進学実績がよい「3S1K(=誠之小、昭和小、千駄木小、窪町小の頭文字)」と呼ばれる名門公立小学校に通わせたい家庭が多く、どの学区にあるかで物件の人気に差が生まれる。「他エリアだったら“駅から◯分”などが条件に挙がるところ、文京区は住所主義。“◯◯小に通わせたいから本郷◯丁目がいい”と決め打ちしてくる方もいらっしゃいます」
相場観を養った社員が、顧客の“よい買い物”に貢献
このように、学区と物件の位置関係を理解した上で相場を捉えると、「本郷◯丁目の物件」はAさんにとって価値があっても、Bさんはまったく魅力を覚えないこともあるとか。「バランスを見極めながら立地や物件を選ぶことを提案した結果、受け入れてくださる方が多かったですね」と一村氏は振り返る。
加えて、文京区は需要に対して供給が少なく、いい条件の物件はすぐに売れてしまう。「お客様のニーズに合う物件が出たタイミングですぐに知らせ、即決していただいたこともあります」と一村氏。相場観を養い、顧客の”よい買い物“に貢献する。そのために、文京住販では社員にこのレベルで地域情報の深掘りをさせる。広く普く深くエリアの事情に通じた「街の博士」になる必要があるのだ。
商圏拡大に際して、顧客に支持されたこのサービスコンセプトを城南エリアに持ち込めばいいのでは。そう一村氏に尋ねると「お客様の属性や物件における需要と供給のバランスが文京区と異なるので、ブラッシュアップやマイナーチェンジが必要ですね」と戦略家の顔をのぞかせた。ひと口に城南エリアといっても、地域によって特徴が異なる。例えば、豊洲のタワーマンション群と一軒家が連なる世田谷の住宅街では市況が違うので、社員はより幅広いインプットが求められる。
「地域への深い洞察」を社員間で共有し、サービスの質を平準化
一村氏は、なぜそこまで高いサービス水準を維持しようとするのか。それは、会社員時代に自分が提供すべきと感じた顧客サービスを、会社や業界から差し出される理不尽な論理によって実現できず、歯がゆい思いをしたからだった。分譲住宅の購入者から「網戸がない」とクレームを受けても「建築の許認可に関係なかった」と説明し、浴室から洗面所に水漏れが生じても「設計通り」と突き返さなければならなかった。
「顧客満足度を目減りさせる不動産業の在り方に一石を投じたい」。そう痛感した一村氏は、自分が正しいと思えるサービスを提供できる環境を求める。その誠実な取り組みのひとつが「地域への深い洞察」であり、結果的に顧客満足度を高めることにつながった。
恵比寿の住まいソリューションでは、業務を通じて得た街の情報や「地域への深い洞察」を社員間のSNSで共有。さらに公式サイトでは、城南エリアの街をひとつ取り上げ、「生活者の視点」と「不動産屋目線」から紹介するブログ連載が始まっている。その狙いは、一村氏いわく「情報を共有し、特定の誰かに依存させない。社員Aと社員Bでサービスの質に差が生まれないようにしたいので」。徹底した顧客サービスの提供に死角なし、といえるだろう。