予想を上回る賃上げでも、実質賃金マイナス続く…実質賃金はいつプラスに?【播摩卓士の経済コラム】

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2024-06-08 14:00
予想を上回る賃上げでも、実質賃金マイナス続く…実質賃金はいつプラスに?【播摩卓士の経済コラム】

大幅賃上げが実現した春闘を受けた、注目の初の賃金統計が発表されました。

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名目賃金が予想を上回る伸びを示したものの、実質賃金は依然としてマイナスで、実質プラスへの転換は、なお見通せない状況です。

4月の所定内給与(基本給)は29年ぶり大幅増

厚生労働省が発表した4月の毎月勤労統計によれば、4月の現金給与総額、すなわち名目賃金は、前年同月比で2.1%の増加となりました。

春闘の高い賃上げ妥結を受けて、大企業を中心に実際に4月から給与が引き下げられたことを受けたもので、中でも基本給にあたる所定内給与は、前年同月比2.3%増と、29年6か月ぶりの高い伸びとなりました。

しかし、消費者物価(除く帰属家賃)が2.9%上昇したことから、実質賃金は前年同月比で0.7%の減少でした。

減少幅は3月より1.4ポイントも縮小し、明るい兆しも感じられますが、実質賃金マイナスは、これで25か月連続です。

大手と中小で、賃上げ格差鮮明に

春闘が早々に妥結し、4月から賃上げが実施された企業は全体の一部に過ぎません。

中小企業の多くは大企業の妥結状況を見ながら自社の賃上げ率を決めていくので、5月から夏にかけて順次、給与の引き上げが実施されます。

今後、これらが実際の賃金統計に反映されるので、実際に支払われた給与額、すなわち名目賃金がさらに伸びることが期待されます。

連合が6日に発表した最新の集計では、春闘での賃上げ率は5.08%、うち中小企業は4.45%で、全体、中小ともベースアップ分は3%を超えており、期待を抱かせる数字ではあります。

他方、日本商工会議所が5日に発表した、全国の中小企業の賃上げ状況調査では、今年度の正社員の月給の賃上げ率(定期昇給を含む)は、前年度比3.62%(9662円)と、連合集計の中小企業の数字、4.45%とはやや開きがあり、大企業と中小企業、とりわけ労働組合のない小規模企業との格差が、依然として大きいことがうかがえます。

賃上げを見送った企業が相当数ある上に、賃上げするにしても、人材流出を防ぐための防衛的賃上げという性格が強かったためとみられます。

日本商工会議所の小林会頭は、先日、私のインタビューに対し、「業績が良くて賃上げしているわけではないという部分が相当ある」と語っていました。

いずれにしても、中小企業の賃上げがどこまで反映されるかが、賃金動向の大きな焦点です。

円安と電気代などの値上げが逆風に

もう一つの大きな焦点は、物価高の推移です。

前回の本コラム「電気代値上げが賃上げ効果を台無しに」でふれたように、5月に再エネ賦課金引き上げ、6月に政府補助金の半減、そして7月に補助金全廃と続くことによる、電気・ガス代の値上げが消費者物価に反映されます。

また今年に入ってからの1ドル150円台という「超円安」による輸入物価への影響も出始めます。今後しばらくは、消費者物価は2%を超える水準で高めに推移すると見られます。

そう考えると、名目賃金の伸びにもよりますが、実質賃金がこの夏にプラスに転じるのは、なかなか難しいように思えます。

ニッセイ基礎研究所の矢嶋康次さんは、実質賃金がプラスに転化するのは、今年10-12月期になるだろうと予想しています。

教科書的には、「物価が2%程度上昇し、それをやや上回る賃金上昇が毎年続く」という姿が理想的なのですが、現実にそうした姿に軟着陸するには、変数が多いということです。

「経済の好循環」には消費拡大が欠かせない

そもそも、今回の局面は、ウクライナ危機や世界的なインフレで物価が先に上がって、後を追う形で、賃上げが実現しました。

長いデフレによって、物価も賃金も凍り付いた日本経済を、まずは、名目ベースで、物価と賃金がともに上がる世界に変えようという試みでした。

未だまだら模様ではありますが、マクロ的にはようやく両方が上がり始めたのですから、「物価と賃金」の「一循環」には、ひとまず辿り着いたのかもしれません。

しかし、この「一循環」がさらに続いていくためには、消費や需要の拡大が欠かせません。

需要が拡大しなければ、とりわけ中小企業の価格転嫁は容易ではなく、来年以降の継続的な賃上げは難しくなるからです。

消費や需要が拡大し、賃上げが続く「経済の好循環」のためには、実質所得のプラス転化が決定的に重要であることは言うまでもありません。

消費支出は久々のプラスも、消費マインドは弱い

7日に発表された家計調査によれば、4月の消費支出(2人以上世帯)は、前年同月比で実質0.5%の増加で、14か月ぶりにプラスに転じました。

ただ、中身を見てみると、「授業料等」や「仕送り金」の大幅増加の影響が大きく、新学期を機にやむを得ず増加したものを除けば、プラス転化と胸を張れる内容ではありませんでした。

GDP統計でも日本の個人消費は、この4四半期連続すなわち1年間、ずっとマイナスです。

行き過ぎた円安と物価高を放置し、物価に賃金が追いつかない状況が長くなった結果、消費マインドは相当、落ち込んだと見て良いでしょう。

仮に実質賃金がプラスになったとしても、そのツケは尾を引くことになるかもしれません。

播摩 卓士(BS-TBS「Bizスクエア」メインキャスター)

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