最低賃金の引き上げに向け、厚生労働省の審議会で議論が始まりました。現在の全国平均の時給額は1004円。今年の春闘では大企業を中心に賃上げ回答が相次ぎましたが、物価高騰の中、最低賃金も大幅な引き上げとなるのでしょうか。
【写真を見る】「最低賃金」引き上げどうなる? 厚労省審議会で議論スタート 東京1113円、岩手893円…“地域差”が課題【news23】
「最低賃金」引き上げどうなる?厚労省審議会で議論スタート
最低賃金の引き上げを求め、声を上げる人たちが口々に訴えるのは、将来への不安です。
タクシー運転手(50代)
「子どもたちもいるので、生活は厳しいといえば厳しいですよね。学費の問題とか」
公務員(30代)
「30代で恥ずかしい話、まだ実家のすねをかじっている状態なので、自立するためには時給を上げて金を稼いで貯金していかないといけないので」
厚生労働省では、2024年度の最低賃金について議論する審議会が25日から始まりました。
春闘で大企業を中心に高い水準での賃上げの動きが広がる中、最低賃金も大幅な引き上げとなるのかが焦点です。
武見敬三 厚労大臣
「物価を上回る賃金の上昇を実現していかなければなりません」
最低賃金は現在、全国平均で時給1004円。2023年、初めて1000円を超えましたが、労働組合側が訴えているのは、都会と地方の格差です。
全労連 黒澤幸一 事務局長
「日本の最低賃金は(全国平均)1004円ではなく、岩手の893円であるというところをしっかり見ていかなければいけないと」
都道府県ごとの最低賃金を見てみると、東京は1113円。全国最下位の岩手は893円と、220円の差があります。
その岩手県では…
コンビニでアルバイト 専門学生(10代)
「(Q.時給は?)893円(最低賃金)。もう少し上げてほしいな」
大学生(10代)
「地方と大都市圏がもうちょっと縮まってくれば、地方にも残りたいと思う人が増えたりするのかな」
一方、中小企業からは切実な声が。
15人の従業員を雇う県内の温浴施設では、最低賃金の引き上げに合わせて毎年賃金を上げているといいます。
古戦場 浅野裕美 代表取締役社長
「このまま(最低賃金が)上がっていったら、やっぱり人は削ると思う。ギリギリのところでやっていくしか会社を守っていけないのではと思う」
コロナ禍でダメージを受けた飲食業に代わり、サウナへの集客に力を入れるなど、経営を立て直してきましたが、売り上げを伸ばすのは簡単ではありません。
古戦場 浅野裕美 代表取締役社長
「物価も高くなって仕入れも高くなっている。大きな値上げはお客様が離れてしまうことになるので、そこまではできない」
日本の最低賃金1004円は韓国より低く…「海外からの人手不足も深刻化」
藤森祥平キャスター:
25日、最低賃金の引き上げに向けて議論が始まりました。焦点は、大幅な引き上げがあるかどうかについてです。
労働者、雇う側、学識者の3者が話し合い、都道府県別に目安の金額を決定します。
労働者側からすると、一刻も早く少しでも上げて欲しい。
雇う側からすると、極端に上げるとコストの増加に繋がるので、かなり厳しい。
今後、この金額をめぐって、激しい議論が繰り広げられるのではないかとみられています。
全国平均の最低賃金の推移を見ると、2023年が1004円。10年前と比べると、2014年は780円でしたので金額は右肩上がりですが、世界的に見てみると、日本はかなり低い金額となっています。
オーストラリア 2465円
ドイツ 2120円
イギリス 2108円
アメリカ 1156円
韓国 1130円
日本 1004円
これは平均の時給です。
韓国と比べても130円ほど低い金額になっています。
小川彩佳キャスター:
こうした中、岸田政権は2030年代半ばまでに全国平均(時給)1500円を目指すという目標を掲げています。
東京大学准教授 斎藤幸平さん:
遅いですね、もっと前倒しをしてやってほしいと思います。
労働者側はとにかくしっかり1500円を求めていくべきだと私は思います。労働者たちは、今、生活が苦しいわけですよね。
春闘で大手企業は5%ぐらい上がったと言われていましたが、ほとんどの中小企業や非正規の労働者たちの賃金は上がっていません。都市部ではもう少し高くても、最低賃金が1004円ではフルタイムで働いても生活が成り立ちません。
円安の影響もありますが、韓国よりも低くなってしまうと、国際的に見てこの金額では今後、人手不足が日本でも深刻化する中で、外国からも人が来てもらえないということになってしまいます。
小川キャスター:
非正規の春闘もありましたが、一部に留まっていますからね。
東京1113円、岩手893円…“地域差”が課題に
藤森キャスター:
これは全国平均の話ですが、大きな課題として、地域差があります。
47都道府県別の最低賃金(時給)を見てみますと、全国平均が1004円で、東京、神奈川、大阪などの都市部では平均を上回っていますが、わずか七都府県。それ以外は平均以下になってしまっている。つまり、都市部が平均を押し上げている形です。
一番低い岩手は893円で、東京の1113円と比べると、220円ほど差があります。
こうしたことを受け、全労連などの労働者団体は、「地域別の格差が都市部への人口流出を招いている」「全国一律で1500円以上の賃上げを」と訴えています。
一方、雇う側の日本商工会議所などは、「実態を十分に踏まえない引き上げが行われれば、地域経済を支える中小企業などの経営に深刻な影響を及ぼしてしまう」と訴えています。
小川キャスター:
「このまま最低賃金が上がっていったら人を削っていくしかない」という中小企業の方の声もありましたが、最低賃金に格差があるという実態をどう受け止めますか?
斎藤さん:
やっぱり全国一律に上げた方がいいと思います。
例えば、地方で1500円あれば、やっと普通の生活ができるかなという気がするので、地方創生で人口流出を抑えるという意味でも(上げた方が)いいのではないかと思います。
もちろんそうすると、地方企業、特に中小企業は体力的に苦しいという話もわかるんですが、日本は最低賃金がとにかく低すぎます。
人が安く働いてくれるのであれば、人間に働いてもらった方がいいので、新しい設備投資や機械などを導入しなくてもいいですよね。でも、それが日本の生産性をずっと低いままにしている一番の大きな原因だと私は思います。
そういう意味では、ここで賃金を上げることが日本経済を活性化させる役割もあると思いますし、まず低所得者対策をやらなきゃいけない。
中小企業は苦しいという話もわかるんですが、中小企業が苦しいのは、今の物価高や本来しなければいけない賃上げの価格転嫁ができていない面があるわけで、それは大企業に対してもしっかり求めていく。
そうやってある種の循環を作って、富をもう1回ちゃんと平等にするような形で移転していくことが、消費を喚起して、人々が普通の生活ができるような社会を作っていくという第一歩だと思います。
都道府県別の『最低賃金』について「みんなの声」は
NEWS DIGアプリでは、都道府県別の『最低賃金』について「みんなの声」を募集しました。
Q.都道府県別の「最低賃金」どう思う?
「大都市が高いのは合理的」…40.3%
「全国一律にすべき」…54.3%
「その他・わからない」…5.5%
※6月25日午後11時25分時点
※統計学的手法に基づく世論調査ではありません
※動画内で紹介したアンケートは26日午前8時で終了しました。
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<プロフィール>
斎藤幸平さん
東京大学准教授 専門は経済思想 社会思想
著書『人新世の「資本論」』が50万部突破