今、日本陸上界で最も勢いがある高校生が女子800mの久保凛(16、東大阪大敬愛高校)だ。地元・和歌山を離れ、大阪で高校生活を送る久保は、4月に熊本で行われた金栗記念で、8個の日本記録を持つ中長距離のエース、田中希実(24、New Balance)に勝利(記録は2分5秒35)。その後は、5月3日の静岡国際でU18日本新記録、12日の木南記念でも日本のトップ選手や東京五輪5位入賞の中国人選手を抑えて優勝を果たすなど、GPシリーズ3連勝中だ。6月16日のインターハイ近畿地区大会では、自身の日本記録を0秒07更新し、2分3秒50をマークしている。
久保の学校生活を取材した。
【写真を見る】陸上界のスーパー女子高校生・久保凛「将来は800mで日本記録」、練習はストイックも素顔は「めっちゃノリいい」
朝は得意 4時40分に起床
朝練のある日は4時40分に起床する。「朝は起きれる方で、高校で寝坊したことはないです。お母さんが起きて、弁当も作ってくれて、今日の朝はパンを食べてきました」。お米よりもパン派だという。
学校に到着すると、7時からの朝練を開始する前に行う日課がある。同校を指導する野口雅嗣先生に、前日の就寝前、起床後、学校に到着後の体重を報告。自身のコンディションをしっかりと把握する事を目的としている。
朝練習を終えると今度は走行距離や心拍数を伝える。「距離が5.7キロ、タイムが20分0秒2、平均心拍171、最大心拍188でした。足のコンディションも大丈夫です」。コンディションの報告や振り返りはオフの日にも行われる。
「毎日練習の振り返りをメールでやりとりをしていて。練習でできたことであったりとかできなかったから改善するっていう部分の振り返りをして。休養の日もどういう過ごし方をすることができたかとか、そういう時間をうまく使うことができたかとか、そういう感じの振り返りはしています」
寝る前のストレッチを毎日欠かさないこともあり、開脚はほぼ180度開く。正確に素早く動かすことが求められるラダートレーニングも部内で1番速いのが久保だ。
野口先生は久保の強さについて次のように語る。
「彼女は入学して1年経つんですけど、ネガティブなことって書かないんです。ポジティブに『今日はこうだったから、いいところを次はこうしたい』って。弱音も吐かない。自分の中でタイム設定が出来なかったら、それを次に改善するという事を思っているから次にはそれをクリアしようと継続した練習をやっている。ウォーミングアップで走るペースが他の人と違う。普通の選手が2000mを全力で1本しか走れないペースでアップをしている。そんな人は誰もいない。他のインターハイに出ている選手が全力で走るペースをアップでやっている」
ストイックな久保も普段は等身大の高校生で、先輩、後輩問わず、慕われている。
3年生「普段は明るいんですけど、試合や練習とかでは顔付きが変わって、いつもとは違う感じがする」
2年生「陸上の時は一生懸命だけど、普段の時は面白くて、人を笑わすのが好きです」
1年生「全部尊敬してます。めっちゃノリもいいです」
休日は「とにかく体を休める」
小学生の時はネイマールやメッシに憧れるサッカー少女だった。当時はサッカーをメインにしながら駅伝大会に出場し、そこで区間賞を取ったことが、中学校で陸上を本格的に始めるきっかけとなった。
「(当時)田中希実選手が走ってる動画を見て、ラスト1周のスパートっていうのが、あっすごいなと思った」。その憧れの選手と今年4月に対戦し、久保は見事に競り勝っている。
「ラストの200mで1度抜かれてしまったんですけど、抜かれた瞬間、すごく速いなっていう風には感じました。あの時は初めてのグランプリのレースで、その初のレースで田中希実選手と走ることができたっていうのが、すごく大きく良い経験になったっていう部分があって。自分の思うようなレースで優勝をすることができたのもとても良かったです」
オフの日は休養を優先。「睡眠時間を多く取るっていうことを意識していて、とにかく体を休めるっていう部分を意識している」といい、家族と過ごし、自宅で体を休めることが多いという。「映画とかは好きですけど、あまり観に行かないです。でも最近観た映画は『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』。感動しましたし、めっちゃいい映画でした」。
「オリンピックや世界陸上で活躍してメダル、入賞を」
約1か月の間でU18の日本記録を2度更新した久保。今後は1500mにも挑戦し、将来は800mで日本記録(2分00秒45=2005年6月杉森美保)や日の丸を背負い活躍することを目標に掲げる。
記者「記録を伸ばすために強化しているところは?」
「まず800mを走る上で、スピードだけじゃ駄目なんで。長い距離も積んで持久力をつけるっていう部分と、その中でスピードもつけてラストの粘りっていう部分を付けていっている。自分はどちらかというとスピードかなっていうのは感じていて、ちょっとずつ持久力も付いてきてはいるかなって思っています。これからは800mは自分の中でメインなんですけど、1500mもしっかり取り組んで持久力を鍛えて、将来は800mで日本記録っていう部分を出して。オリンピックや世界陸上で活躍して、メダルという部分や入賞を目指して、将来は頑張っていける選手になりたいなって思っています」
■久保凛
2008年1月20日生まれ、和歌山・串本町出身。潮岬中~東大阪敬愛高。小学6年生までは、サッカークラブに所属し、中学から本格的に陸上競技を開始。3年時には、全日本中学陸上競技選手権大会の女子800mで優勝。昨年8月のインターハイでも1年生ながら女子800mでNo.1に。日本グランプリ3連勝中。今月末の日本選手権に出場予定。