![『人工赤血球』なぜ紫色?血液型問わず輸血でき5年保存も…開発者が解説【ひるおび】](/assets/out/images/jnn/1283287.jpg)
実用化されれば世界初 ‟人工赤血球”
7月1日、奈良県立医科大学は輸血用の血液を人工的に作ることに成功したと発表しました。
開発したのは、血液の中でも酸素の運搬をつかさどる「人工赤血球」です。
血液型を問わず誰にでも投与でき、通常の赤血球の保管期限が4週間であるのに比べて、人工赤血球は常温で2年間保管することができるといいます。
実用化されれば、医療界の救世主となりうる「人工赤血球」。
開発者の酒井教授が解説します。
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「人工赤血球」なぜ紫色?
発表された「人工赤血球」、色はピンクがかった紫色に見えます。
血液というと赤のイメージですが、なぜ紫色なのでしょう?
奈良県立医科大学医学部 酒井宏水教授:
この色はですね、デオキシヘモグロビンというんですけども、ボトルの中に完全に酸素がない状態になっています。
静脈と動脈の血液の色は違いますが、これはどちらかというと静脈の色に近いものです。
酸素が結び付けられますと、鮮やかな赤い色になります。
恵俊彰:
我々はもう血液と言ったら赤と思い込んでますけど違うんですね。
でも世界で初めてってすごい事ですね。
奈良県立医科大学医学部 酒井宏水教授:
人工血液という概念は昔からあります。多くの研究者が人工血液を目指していて、うまくいっていたのに駄目だったものとか、今も開発している人は私達以外にもたくさんいます。
恵俊彰:
そんな中で、先生たちがたどり着けた理由は何なんですか?
奈良県立医科大学医学部 酒井宏水教授:
やはり現場でニーズがあるということですね。
それがドライビングフォースになって、私達研究者が何とか作らなきゃということで。
本来赤血球の中にヘモグロビンが入っているのを一度取り出して、毒性のない状態、カプセル型にしたということですね。そこがちょっといろいろ難しいところがありました。
製造方法は・・・
▼保存期限が切れて廃棄せざるを得ない献血の赤血球からヘモグロビンを抽出
▼人工の脂質膜で包みカプセル化
▼人に投与可能な“人工赤血球”に
気になるのは安全面ですが、ヘモグロビンは人のもので、人工の脂質膜も体内にある成分で作られているので、最終的には体内で分解され排泄されるということです。
奈良県立医科大学医学部 酒井宏水教授:
ヘモグロビンを生成する過程で赤血球膜を完全除去しますから血液型がなくなりますし、過酷な精製でウイルスなども不活化除去ができます。
輸血の課題を「人工赤血球」が解決?
献血された血液の場合、輸血にはさまざまな課題があります。
◆血液検査が必要
事故現場などで急遽輸血が必要なときに、患者の血液型を調べて輸血するまで約20分ぐらいかかります。
⇒「人工赤血球」の場合、血液型を決める赤血球の膜を除去するので、A・B・O・ABのどの血液型にも使え、迅速な処置が可能となります。
◆保存の難しさ
献血された血液の場合、2℃~6℃の冷蔵保存をしても採血後28日間(4週間)しかもちません。救急車やドクターヘリで血液を運ぶ際の温度管理の難しさもあります。
⇒「人工赤血球」の場合、常温で2年間、冷蔵で5年間もつので備蓄が可能。
奈良県立医科大学医学部 酒井宏水教授:
献血の血液というのは言ってみれば生ものですので、スーパーに売っているお肉と同じように劣化します。酸素を除去すれば安定性があるので、保存ができる。
いつでもどこでも必要時に投与できるのは大きなメリットだと思います。
備蓄ができるのも、言ってみれば消火器やAEDみたいに、もしものために備蓄しておいて必要なときに投与するとか、そういう用途ができるんじゃないかと思います。
コメンテーター 山之内すず:
備蓄って大きいですよね。いつ何が起きるかわからない。移動させられるというのも本当に革命ですよね。
弁護士 八代英輝:
HIVの治療のときに非加熱血液製剤が注目されましたけども、そういったタイプのものとは違うんですか?
奈良県立医科大学医学部 酒井宏水教授:
事件があってから、日赤ではHIVのウイルスの有無をチェックしています。
そういう既知のウイルスに関してはチェックはできるんですけども、いろいろな未知のウイルスもありうるわけですね。
でもヘモグロビンの生成の工程で、未知のウイルスも全部不活化できるような加熱やフィルトレーション(ろ過)などの過酷なことをやっていますので、得られたヘモグロビンはウイルスが全くない状態になると考えています。
2030年の承認申請を目指す
今後「人工赤血球」は実用化を目指し、臨床試験に入ります。
2025年度から本格的に開始され、実際に人に投与して安全性・効果を確認。その後、2030年の承認申請を目指します。
恵俊彰:
実用化という意味ではまだ6年ぐらいかかるんですか。
奈良県立医科大学医学部 酒井宏水教授:
2021年に北大で100mLまでの人への投与試験は済ませております。
来年度から奈良医大で400mLまでを投与してそれが安全かどうかという試験があり、健康な16人に投与して確認をすることになっています。
その後うまくいけば、患者さんに投与して有効性・安全性を見るという試験が待っております。
そうしますと最短でもあと6年、7年ぐらいはかかるんじゃないかと考えています。
恵俊彰:
一刻も早くとは思いながらも、安全性の確認は不可欠ですからね。
(ひるおび 2024年7月8日放送より)
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<プロフィール>
酒井宏水氏
奈良県立医科大学医学部教授
人工赤血球の製造 実用化を目指す