各地で最高気温35度を超える猛暑日が続き、“災害級”の暑さとなっている。「生きていくこと自体が大変」…長時間、屋外で日差しにさらされるホームレスからは嘆きの声があがった。(デジタル編集部「DIG編集部Originals」 増山智子・上曽和馬)
【猛暑とホームレス】「炊き出しにもいけない」「いる場所がない・・・」過酷な現実
「暑すぎて炊き出しに行けない」橋の下に暮らす72歳のホームレス
最高気温34.6度の8月のある日、ホームレスや生活困窮者を支援するNPO法人「山友会」の活動に同行した。直射日光の下では、立っているだけで危険を感じるような暑さだ。
ボランティア含めた10人で、1時間ほど隅田川沿いの河川敷や公園を周り、ホームレスたちの元を尋ねて歩く。河川敷の限られた日陰にホームレスたちが身を寄せていた。
浅草にほど近い橋の下、ホームレスの男性数名に話を聞くと、猛暑がもたらす過酷な環境が浮き彫りになった。
隅田川沿いの橋の下に住むAさん(72)
「生きていくこと自体がもう大変ですね。食べ物にも困っています。上野まで行けば(食料配布などがあって)良いんですけど、昼間は図書館で涼んでいたりして、その間に(食料配布が)終わってしまったり。上野までは自転車で30分くらい」
隅田川周辺に暮らすBさん(45)
「暑くて、炊き出しに『行きたくない』と思うことはある。自分の調子が悪くて倒れちゃったら、炊き出し自体がなくなっちゃう可能性もあるじゃないですか。だから、調子悪いときは行かないときもあります」
山友会が行う「アウトリーチ」では、テント生活のホームレスを訪問し、食事の提供や生活相談、健康状態の確認などをしている。
副代表の油井さんによると、これまではテントに人がいなくても、いつもそこに人がいると分かっている場合は、食品などの物資をテント内に置いていくこともあったというが、暑さが厳しくなってからは食中毒なども懸念されるため、それもできなくなった。
ホームレスたちは、猛烈な暑さが原因で食料を確保することも難しくなっているようだ。
「いる場所がない…」熱中症と隣り合わせの暮らし
油井さんはアウトリーチ活動の際に、日中の暑さをしのげる「クーリングシェルター」の紹介もしている。実際に図書館などを利用するホームレスもいるが、自身の身なりや周囲の目線を気にして遠慮する人も少なくない。
隅田川周辺に暮らすBさん(45)
「近くにはないけど少し離れたところに図書館がある。(図書館なら)冷房があるから。長時間はなかなか居られないけど、図書館に多少入れば涼しさはあるから、そういうところが多いと思います」
身の安全を守るために涼しい場所を求めるが、長居はできないという。
隅田川周辺に暮らすBさん(45)
「それはいろいろ理由があるんで…。悪いことをしていなくても、周りの人からの目線っていうのもありますから」
山友会の活動にボランティアとして参加している女性も、「公園などに暮らしているホームレスの人は、周りの人の迷惑にならないように配慮している人が多い」と語る。
当事者の遠慮もあり、一般の人も利用する「クーリングシェルター」が活用されにくいという課題もみえてきた。
ホームレスたちの働く場も奪う「酷暑」
東京消防庁によると、今年7月の熱中症疑い搬送者数は4244人(速報値)にのぼるという。
また、東京都監察医務院によると、今年7月に東京23区で熱中症の疑いで死亡したのは、40代から90歳以上のあわせて123人で、7月に100人を超えるのは、127人を記録した2018年以来。大半は屋内で亡くなっていて、エアコンを設置していたものの使用していなかったケースが79人、設置していなかったケースが28人だった。
屋内にいても熱中症で死亡する危険性がある中、屋外での暮らしは熱中症の危険と隣り合わせだと彼らは感じている。
隅田川周辺に暮らすBさん(45)
「直接は見たことないけど、倒れたというのはよく聞くし、よく救急車を見る」
隅田川周辺の公園に暮らすCさん(70)
「飯も2日くらい食ってねえだろうから(熱中症になりやすい)」
ボランティアの女性
「きょうの活動で、少し前に熱中症で搬送されたというホームレスにも会いました。入院をすすめられたらしいんですが、お金がかかるからと点滴だけ受けたと…。きょうも『体調がよくない』と話していたので、山友会の無料診療所をすすめたんですが…」
油井さんによると、熱中症が持病に影響して体調を崩すホームレスもいるという。
「山友会」副代表 油井和徳さん
「熱中症対策のグッズを配布したいと考えていますが、予算の問題もあってなかなか配布できていないのが現状です。物資が集まったら配りたいですね」
とはいえ、熱中症対策グッズの存在を、そもそも知らないホームレスも多い。冷蔵庫で冷やしたり充電したりしないと使えない対策グッズも多く、家がないホームレスには使いづらく八方ふさがりだ。
「山友会」副代表 油井和徳さん
「ホームレスの人たちも厳しい暑さを感じていますが、『どうにもできない』と考えている人が多い印象で、『死んだらその時はその時』と言われたこともあります」
隅田川沿いの橋の下に住むAさん(72)
「もう諦めちゃってるから。もう本当にどうしようもなくなったら…。毎日のように自殺のことを考えているんですけどね。そこ(目の前)に川があるから飛び込もうかなって。でも、その勇気がなかなかない」
Aさんは笑いながら話していたが、本音に近い言葉だろうと感じた。暑さはホームレスの生きる気力を確実に削いでいる。
そしてこの猛暑は体調面だけではなく、金銭面にも影響を与えていた。ホームレスの男性との会話の中で、「熱中症警戒アラートが出て、『輪番』が止まった」という話を聞いた。
「輪番」とは東京都の特別就労対策事業の一部の通称で、ホームレスたちの貴重な収入源となっているが、暑さにより休止が続いているという。暑さはホームレスの働く場も奪っている。
「山友会」副代表 油井和徳さん
「私たちの支援に来るホームレスの数は増えています。暑さで遠くの炊き出しなどに行けなくなったことや、暑さで『輪番』と呼ばれる日雇いの仕事が止まっていることが影響しているのではないかと思います」
ホームレスが見過ごされないために
ホームレスの把握・支援方法に関する研究を行う田中きよむ教授は、ホームレスを“他人事”だと思わないでほしいと訴える。
高知県立大学 社会福祉学部 田中きよむ 教授
「(この暑さの中)熱中症などで倒れて病院に担ぎ込まれたときに、病院がどこまで対応してくれるのか、緊急な状況のときに、周りの人に救急車を呼ぶなど必要な対応をしてもらえるかということを心配しています。
多くの人はホームレスを自分事として見ていません。人間としてきちんと仕事をして、収入を得て、家庭を持つということから落後した人で、自分とは違うという見方です。ホームレスが路上に座っていたり横になっていたりすると、みんな汚いものを避けるかのように通り過ぎて、誰も声なんかかけませんよね。
しかし、ホームレスの4割はそれまで会社員でした。きのうまでネクタイをしていた人が、きょうはホームレスになる可能性があるんです。だって、家賃が払えない状況は誰しも直面する可能性がありますから」
一方でホームレスの中には、その生活を自己選択している人もいて、支援を届けるには信頼関係を築く必要があるという。
高知県立大学 社会福祉学部 田中きよむ 教授
「我々は『家もないので困っているだろう』と思いますが、大変な状況だからといって、すぐにSOSを求められるわけではありません。『誰でもいいから助けて』『この場から救って』とは必ずしも思っていない場合もあります。
コミュニケーションがちょっと難しかったり、得意じゃなかったりする人もいますし、(熱中症など)いざというときにSOSを発しても良い相手だと思ってもらう関係作り、信頼関係を作ることが長期戦になるということも懸念されます」
酷暑はホームレスにとって「サイレントキラー」
連日の暑さに苦しむホームレスにとって、日常生活の些細な行動も大変な作業になる。
隅田川周辺に暮らすBさん(45)
「個人的には水をくむのが大変。あと、トイレに行くのも大変。普通の人は多分わからないと思うけど、その2つが大変」
Bさんの「トイレに行くのが大変」という言葉の意味を理解できずにいると、Cさんが説明してくれた。
隅田川周辺の公園に暮らすCさん(70)
「(トイレは)あるんだけど、行くのに時間がかかるから、近くないから、暑くて大変」
孤独な暮らしをするホームレスが直面する暑さに、油井さんは危機感を募らせている。
「山友会」副代表 油井和徳さん
「この強烈な日差しと暑さにさらされ徐々に体力と気力が奪われ、夜も暑さで眠ることができません。
また、熱中症の初期症状は自覚しづらいことが多いようなので、気が付かないうちに危険な状態に陥ってしまいます。
そして、ホームレス状態にある方たちは社会的に孤立していることから、危険な状態となっても周囲の人に気が付いてもらいにくいことで、助かる可能性を少なくしてしまうおそれがあると考えられます。
これらのことから、ホームレス状態にある方たちにとってこの『酷暑』は、知らず知らずのうちに、命を失ってしまうおそれのある『サイレントキラー』のようなものであると思います」