津久井やまゆり園事件から8年。園を出た人のその後を聞く

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2024-08-14 22:33
津久井やまゆり園事件から8年。園を出た人のその後を聞く

知的障害者が施設ではなく、地域で暮らせる社会の実現へ

相模原市にある知的障害者施設「津久井やまゆり園」で、1人の男によって、入所していた19人が殺害された事件から8年が経ちました。

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7月27日、「津久井やまゆり園事件を考え続ける会」主催で、やまゆり園を出た人たちのその後を考えるシンポジウムが開かれました。

知的障害者が施設ではなく、地域で暮らせる社会の実現がテーマです。

最初に紹介するのは、事件後に地域での暮らしを始めた一人で、重い知的障害と自閉症がある尾野一矢さんです。

尾野さんは4年前から、重度訪問介護のサービスを受けながら、1人でアパートで暮らしています。

シンポジウムでは、父親の尾野剛志さんが登壇しました。

尾野さんは事件当時、園の家族会の会長で「親がみられないのだから、施設に入っていれば、幸せだ」と考えていたと話しました。

「犯人に刺された息子は一命をとりとめましたが、息子との向き合い方を考え直した」という尾野さん。

「以前と今の一矢は180度違う」と、一矢さんと介護者が、江ノ島に出かけた時の写真などを見せながら、「施設は、自分の意思では何もできなかったんです。それが、いま自分で、自分の思いのまま。『ご飯何食べたい』って聞くと、鰻とか、カキフライとかって。そうすると、介護者さんが『一緒にじゃあ食べに行こう』って連れて行く。そういうふうにちゃんと意思を確認して、利用者さんの思うがままに生きていける。それが普通の暮らし、地域移行、自立です。皆さんがこうやって応援してくれてれば、できるんですよ」と一気に語りました。

子供の変化、そして課題

もう一人、平野和己さんが客席にいました。父親の平野泰史さんが登壇し、「以前は、こんなふうに30分以上、じっと座っているなんて全くできなかった。驚いている」と、最初に話しました。

和己さんは、事件の2年後、地域のグループホームに移りましたが、大声をあげたり、何かに強くこだわる、自他を傷つけたり、といった「行動障害」が出ることから、別の入所施設に移っています。

ただ、そこでは平日、やまゆり園では一切させてもらえなかったという仕事で作業所に通いながら、休日には、「行動援護」というサービスを受け、自分が行きたいところへの外出をしていて、今は落ち着きを取り戻しています。

再びグループホームに移ることを目指している和己さんが、ヘルパーと一緒に、バスに乗り、体育館でプールに入ったり、食事をしたり、おやつを買ったりと、楽しんでいる様子を動画で紹介しながら、父親の泰史さんは「本人が進んで外へ行くことは非常に大事だと思ってます。それによって、いろんな社会と接する。社会性が身につく。本人も活性化されて、いろんなことができるようになる」と、泰史さんの変化を語りました。

「ただ、実際は行動援護を簡単に利用できるかというと、なかなかできない。まず対応できる事業所はあるのですが非常に少ない。重度の子を見てくれる、それだけのスキルを持っているヘルパーさんがなかなか見つからない。その辺が問題になってると思います」と付け加えました。

元々の場所で3年前に、定員60人で再開した「津久井やまゆり園」でも2023年度から、入所者の意思を尊重して、5年間で、毎年12人ずつ地域に移るという目標を掲げています。

ただ、実際にグループホームに移った人は、これまでの1年あまりで3人にとどまっています。

障害者権利条約の実現に向けて

2人の父親のあと登壇した、東京家政大学教授の田中恵美子さんはまず、日本が批准している「障害者権利条約」の19条にふれました。

「障害がない人と平等に、生活の場所を選ぶ機会があることで、地域社会で暮らす平等の権利を持つ。そうなるよう、地域社会から排除されないよう、効果的、適当な措置をとる」ということだと説明しました。

田中さんは、日本はまだ不十分であることを指摘されていることを説明したうえで、これまで会ってきた、知的障害のある人たちが、自立した生活を試み、実現している様々な事例を、具体的に紹介しました。

また、現実には、様々な課題、壁があり、あきらめかけてしまっている人や家族がいる一方で、当事者、支援者、それに押された行政が頑張り、協力して、制度の柔軟な運用や、先に進めた、各地の事例を紹介し、「地域で暮らすっていうことを諦めてしまったらもうそこで、先はないんです。地域で暮らせない今の状況をどう変えていくのかっていう発想がないと、やっぱり変わっていかないだろうと思います。どんな社会になったらいいかっていうことを構想していくこと。そして、前に進む人には、もっと前に前に行ってもらって、制度を変えてくっていうことをやっぱりみんなでやっていかないと、この先がないのかなっていう風には思っています」と話しました。

最後に、国や自治体は必要な人に届くよう事業者やヘルパーを増やす対策を講じ、対象者を拡大する制度変更も必要だと指摘したうえで「これからもぜひ、いろんな方がつながっていって、制度の変更を求めていくということが必要だと思います」とまとめました。

(TBSラジオ「人権TODAY」担当:崎山敏也)

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