内定得ても入社できない…日本生まれ男性が語る“仮放免”の現実 阻まれる在留資格のない子どもたちの未来

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2024-10-19 07:00
内定得ても入社できない…日本生まれ男性が語る“仮放免”の現実 阻まれる在留資格のない子どもたちの未来

「ずっと『なんで』と思ってきた。この国で生まれ育ったのに…」。日本で生まれながらも、在留資格がないため、内定を得た会社に入社できない男性がいた。
在留資格は、男性にとって、未来を切り拓く希望そのものだった。

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県外に出られない・・・自由がない「仮放免」

「『池袋に遊びに行こう』 友人の誘いを理由も言えず断るしかなかった」

こう話すのは、神奈川県内に住む男性(22)。父親は、中東出身で母親は南米出身だ。両親は1990年代に労働者として来日したものの、その後、オーバーステイ[不法(非正規)滞在]に。そんな両親のもとで生まれた男性は、在留資格が与えられないまま、22年間を過ごしてきた。

自宅で取材に応じた男性は、私たちに1枚の写真をみせてくれた。小学校の入学式の日に撮られたもので、教室で自分の机に座り、はにかむ男性の姿が。これからできる新しい友達との生活に、希望があふれていた。

しかし、この1か月後、男性の家族にある“事件”が起きた。父親が働いていた車の整備工場が、入管の摘発を受けたのだ。父親は約3か月間、入管施設に収容された。男性と母親は収容されなかったが、「仮放免」となった。

「仮放免」とは、在留資格がない非正規滞在の外国人に、一時的に入管施設の外で暮らすことを認める措置のことだ。ただし、入管からの許可が無ければ、居住する県の外へ出ることができず、就労することができないなど、多くの制約が掛けられる。

この制約は、神奈川県内に住む男性から友達と過ごす時間を奪った。友達から「池袋に遊びに行こう」と誘われた時も、理由を言えないまま、誘いを断った。県外へ遊びに行く誘いを受けるたびに断ることが続いた。「もう誘われなくなるかもしれない」それが一番怖かった。

高校に進学後、入部したバスケ部では1年生でレギュラーに選ばれ、試合でも活躍した。しかし、けがをしても、病院に行くことができなかった。健康保険に入れていないため、治療費は全額負担となるからだ。

薬指を突き指し、真っ青に腫れあがった指をみた監督から、病院に行くよう勧められても、痛みに耐えて必死に指を曲げて見せた。テーピングを巻いて腫れている指を隠し、痛みは鎮痛剤を飲んでやり過ごした。

「生まれ育った日本で働きたい」 支援者への恩返し

自分が周りとは違うことを突きつけられる日々。「自分に在留資格がないのは、両親のせいだ」との思いを募らせた。

だが、高校生の時、「何もしてあげられなくて、親として申し訳ない」と自分に頭を下げる両親の姿をみて、「親も追い詰められている」ことを知った。それ以来、「親を責めず、自分の未来を進んでいこう」と決めた。

「大学に入ったら、今の状況が変わるかもしれない」。予備校にはいかず、自力で受験勉強をした。奨学金は、在留資格がないため受けられず、両親は、日本にいる同郷の知り合いや、母国の親戚に頭を下げて回り、必死に学費を工面した。日本人支援者からの寄付もあった。

大学に進学すると、「生まれ育った場所で貢献したい」と思うようになった。両親の収入がない中で、これまで支援者たちから生活費や学費を援助してもらったことへの感謝と恩返しの気持ちからだ。

大学3年生の時に、就職活動を始めた。第一志望だった不動産会社の面接を受けた際、家を借りようとしても「外国人だから」という理由で、何度も断られた自身の経験を語った。「日本で暮らす外国人が安心して家を借りられるようにしたい」。
そんな思いが通じたのか、大学4年生の2023年8月、この会社から、内定を得ることができた。

内定得るも働けず、特例措置からもこぼれ落ち

しかし、男性は内定を得ても入社できなかった。在留資格がない「仮放免」のままだったからだ。

「内定をもらえれば、自分が日本に必要な存在だと証明できる。入管はきっと在留資格を認めてくれる」。そんな思いで入管に在留資格を求めたが、認められなかった。理由を聞いても、「分からない」「教えられない」という回答だった。

内定をもらった会社に事情を説明すると、幸い、在留資格を得られるまで待ってもらえることになった。ただ男性の寂しさは募る。

入社同期のメッセージグループには売り上げ目標達成の報告や社員旅行中の写真などの様子があがっていた。

「すごく悔しいなって思う。悔しいですけど、一番は寂しい」。男性は入社できる日を夢見て、資格の勉強に励むしかなかった。

実は、去年(2023年)8月、日本政府は、「日本生まれ」の仮放免の子どもたちに、特例で「在留特別許可」をすると明らかにしたのだ。日本の小中高校を卒業した成人でも、「基本的に在特を認める」と。

それから、およそ1年後の今年9月、政府が外国籍の子ども212人に「在留特別許可」をしたと発表した。しかし、男性にはこの時も与えられなかった。すでに入社できないまま半年以上。「在留特別許可を得た子どもたちは、日本社会で活躍してほしい」という当時の法務大臣の言葉が、むなしく響いていた。

「日本にいる証」手に 取りこぼし自分を最後に

今月9日、男性の姿は東京出入国在留管理局横浜支局(横浜市)にあった。
少し照れながらも、真新しい在留カードを見せてくれた。男性に「在留資格」が与えられたのだ。

「やっと日本にいる証をもらったなと思う」安堵した表情だった。

ただ、なぜこのタイミングで資格を与えられたのかは分からない。
男性を支援する団体が、これまで何度も入管への嘆願活動を行い、団体が主催する記者会見に男性も参加して、窮状を訴えてきた。こうした取り組みが功を奏したのだろうか。

在留資格を得た今もまだ不安はあるという。ともに暮らす両親には、在留資格が与えられなかったからだ。強制送還など家族がバラバラになるかもしれないという恐怖を抱きながら、今は入社に向け準備を進めている。

在留資格を失った外国人や難民を支援する駒井知会弁護士は、今回の特例措置で、212人の子どもに在留特別許可が出たものの、幼いときに来日して日本で教育を受けたケースや、日本で生まれたが対象にならなかったケースなど「取りこぼされた存在」が、今も複数あると指摘する。

自分と同じように仮放免で暮らす子どもたちが「自ら掴みとった未来に進めるように」、男性は、長く取りこぼされるケースが自分で最後になるよう望んでいる。

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