2025年最初のスポーツ日本一が決まるニューイヤー駅伝 in ぐんま(第69回全日本実業団対抗駅伝競走大会。1月1日に群馬県庁発着の7区間100kmで実施)を、強力ルーキーたちが賑わせる。特にトヨタ自動車には鈴木芽吹(23)と吉居大和(22)が加入。2連覇を目指すチームの大きな戦力になるのは間違いない。
パリ五輪3000m障害8位入賞の三浦龍司(22、SUBARU)<※以前こちらで紹介https://newsdig.tbs.co.jp/articles/-/1633211>も加えた3人は、区間賞を期待できるルーキーたちだ。高校時代に全国高校駅伝1区で区間新をマークした佐藤一世(23、SGホールディングス)も、関西実業団駅伝では1区で区間賞。ニューイヤー駅伝1区でも、新人たちの激突が見られるかもしれない。
◇ニューイヤー駅伝の区間と距離、中継所
1区 12.3km 群馬県庁~高崎市役所
2区 21.9km高崎市役所~伊勢崎市役所
3区 15.3km 伊勢崎市役所~三菱電機群馬工場
4区 7.6km三菱電機群馬工場~太田市役所
5区 15.9km 太田市役所~桐生市役所
6区 11.4km 桐生市役所~伊勢崎市西久保町
7区 15.6km 伊勢崎市西久保町~群馬県庁
吉居のメンタル面の課題が明確になった中部予選
吉居大和が“実業団の洗礼”を浴びてしまった。11月10日の中部実業団対抗駅伝5区(15.5km)で46分03秒の区間8位。トップでタスキを受けたが、区間賞の羽生拓矢(27、トヨタ紡織)に逆転され、2分近く引き離された。強力ルーキーといえど調子を合わせられなければ通用しない。
失敗の原因は「自身のメンタルにあった」と吉居は言う。「(中部では)勝たないといけないチームのエース区間(4区)を任された緊張が、まずありました。そこにライバルチームの羽生さんに、すぐ後ろに迫られて、ネガティブに考えてしまった。自分の走りは良くも悪くも気持ちに左右されます。今回はマイナスに出てしまいました」。
中大時代の箱根駅伝では、2年時に1区を独走して区間新をマーク。3年時にはエース区間の2区で区間賞を獲得した。1区の独走は「イケるという強い気持ちが走りにつながった」という。3年時の2区は「最後の坂(俗に言う“戸塚の壁”)がキツいとわかっていても、自分を信じて前向きに走った」ことで、田澤廉(駒大出身、現トヨタ自動車)、近藤幸太郎(青学大出身、現SGホールディングス)との三つ巴の争いを制した。
中大も箱根駅伝優勝回数最多チームで、優勝への使命感はあったが、今回の中部実業団対抗駅伝は「これまでになかった経験」だった。
しかし2週間後の八王子ロングディスタンス10000mでは、自己新の27分42秒88(今季日本12位記録)をマークした。「練習通りの走りができ、体としては問題ないことが確認できた」という。9月の全日本実業団陸上10000mでも日本人トップと、タイトルがかかった個人レースでも結果は出している。
ニューイヤー駅伝に向けての課題はメンタル面だけ。キャプテンの服部勇馬(31、東京五輪マラソン代表)からも、スタートラインに立つときのメンタルについてアドバイスを受けたという。
中大は1年前の箱根駅伝で、優勝候補の1つに挙げられたが13位と大敗した。大会直前に感染症がチーム内に広がり、吉居も2区で区間15位と結果を残せなかった。後輩たちが箱根駅伝を前に、“去年のチームが強かったことを証明しよう”と頑張っている。
「(箱根駅伝は)2区の僕が上手く走れなかった。ニューイヤー駅伝では100%の力を出し切って、区間賞を取りたいです。それを後輩たちに見てもらえたら、彼らの力になると思います」。
ニューイヤー駅伝は全国の強豪チーム相手に挑戦する姿勢を持てる。中大時代と同様に、思い切って走ることができるはずだ。
鈴木は強力ルーキーたちの中で一歩抜け出た存在
鈴木芽吹は今季の5000mと10000mで、強力ルーキーたちの中でも頭1つ抜け出た実績を残してきた。10000mは八王子ロングディスタンスで27分20秒33と、今季日本2位、歴代5位の好記録で走り、5000mでも13分13秒80の今季日本3位、歴代9位をマークした。
「10000mはもう少し出したかったのですが、5000mはあそこまで行くとは思いませんでした」。
日本選手権でも10000m4位と5000m3位。ルーキーというカテゴリーで見るよりも、日本のトップ選手の1人として見るべきレベルに成長した。
その背景として「学生時代より駅伝の数が減り、年間を通してトラックの試合1本1本に集中できるようになった」ことを挙げる。「試合に出たらしっかり休んでまた、次の目標に向けて練習期間をしっかりとる。そのサイクルが上手く回り始めました。練習メニューは学生時代と大きく変わっていませんが、質的に少し上がっています。故障をしなくなっていることも大きい」。
日本のトップ選手として走る自覚が、鈴木の言葉には多く現れている。
「スピードは実業団選手の中でも上の方だと思います。スタミナもやってきているので、駅伝では両方を生かして安定した走りをしたいです。10000mは日本記録(27分09秒80)を出す手応えがあります」。
練習中に、このメニューをこのタイムで走ったから、という根拠があるわけではない。だが前述の試合と練習のサイクルが上手く回り、シーズン前半に取り組んだ5000mで好記録を続けたことで、10000mの日本記録をイメージできるようになった。
1区での強力ルーキー対決が実現するか
吉居のニューイヤー駅伝出場は1区か3区が有力だ。チーム状況で変わる可能性があるが、吉居自身は箱根駅伝でも快走した1区への意欲を見せている。同学年の三浦龍司も1区か3区の可能性が高く、吉居は1区での対決を望んでいる。
「ニューイヤー駅伝は1区をヨーイドンで走れたらいいですね。トラックではまだ(五輪8位の三浦に対して)ライバルと言えるような結果を残していませんが、駅伝だったらトラックの5000mより勝つチャンスがあります。駅伝では負けたくないですね」。
ルーキーの1区候補には佐藤一世の名前も挙がっている。4年前には全国高校駅伝1区で区間新(当時)をマーク。1年前の箱根駅伝は4区区間賞で、青学大の優勝に貢献した選手である。
佐藤自身は「向かい風の方が追い風より得意」と言う。ニューイヤー駅伝も「(向かい風となる)後半区間の方が適性がある」と話していたが、関西実業団駅伝1区ではスタート直後から積極的に前に出て、終盤は独走して区間2位に21秒差をつけた。
吉居、三浦、佐藤の強力ルーキートリオが1区で対決したら、盛り上がるのは間違いない。だが区間賞候補には、東日本予選1区を独走した吉田祐也(27、GMOインターネットグループ)、高卒2年目で将来が期待されている長嶋幸宝(20、旭化成)らも挙げられている。ルーキー対先輩選手、という構図でレースを見るのも面白いかもしれない。
鈴木は最長区間の2区か3区が有力だが、ルーキー同士の争いよりも、他チームのエースと勝負することが自分の役割だと考えている。「ライバルはHondaの伊藤(達彦、26)さん、旭化成の葛西(潤、24)さん、GMOの吉田さんたち。代表レベルの選手たちに勝ちに行きます」。
その先には来年以降の世界陸上やオリンピック出場を見据えている。「世界陸上出場が現実的になっていることが、昨年までとは違います」と言い、世界と戦うためにラストスパートを研く方法も具体的に考えている。
“芽吹”という名前は両親が、「人生の中でどういう世界に飛び込んでも芽吹いていくように」という期待を込めて付けてくれた。長距離種目で世界と戦っていく鈴木が、ニューイヤー駅伝で芽吹いていく。
(TEXT by 寺田辰朗 /フリーライター)
※写真は鈴木芽吹選手(左上)、吉居大和選手(右上)、三浦龍司選手(左下)、佐藤一世選手(右下