ビクトリア時代の英国で、猫を描いて人気を博した画家ルイス・ウェイン。彼は猫をこよなく愛し、みずからの作品でその魅力を表現して、人々の猫に対するイメージを一新させました。
猫のイメージを変えた絵
19世紀末から20世紀にかけての英国で、愛らしい猫の姿をユーモラスに描いて大人気だった「猫の画家」がいます。
その名はルイス・ウェイン。1860年に生まれた彼は、当時野蛮な害獣とみなされていた猫のイメージを一変させました。
ルイスは、猫が無愛想で独立心が強い一方で、傷つきやすくて間抜けで愛情深いところをこよなく愛し、魅力を感じていました。
彼の作風は漫画風のかわいらしいものからサイケデリックなものまでさまざまですが、バドミントンをしたり、酒場でギャンブルをしたりする擬人化された猫たちの姿はとくに評判でした。
最愛の妻のために
しかし彼の人生は困難なものでした。家族の反対を押し切って、姉の家庭教師だったエミリー・リチャードソンと結婚したものの、妻はわずか3年後に乳がんで亡くなってしまいます。
その短い結婚生活で夫婦は野良の子猫を家族に迎え、「ピーター」と名づけてかわいがりました。猫をペットにするのは当時では珍しいことです。病気の妻を元気づけるため、ルイスは愛猫の姿を繰り返し描いて彼女に見せました。
実はこれが、彼の画家としてのキャリアの基礎となっていったのです。
抽象的な作品も
ルイスが精神疾患にかかっていたという説もあります。ベスレム精神博物館のコリン・ゲイル館長は次のように話しています。
「後年、モーズリー病院の精神科医がカムデンにあった骨とう品店で、ルイスの作品を見つけて購入しています。それらの作品は漫画的な猫の描写から始まり、猫の顔が抽象的な万華鏡のように表現されるものへと大きく変化しているため、この医師はルイスが途中で精神病を患うようになったと結論づけています。でも実際には、各作品の制作時期が不明なので真実はわかりません」
さらに専門家らは「抽象的な作品だからといって、精神の崩壊や技能の衰退を示唆するわけではない」とも主張しています。
いずれにしても、猫を愛しその魅力を描いたルイスの最大の功績は、のちの世で「猫たちがペットとして人々に愛されるようになったこと」だといえるでしょう。
なお、ルイスとエミリーの物語は、映画『ルイス・ウェイン 生涯愛した妻とネコ』として2022年に日本で公開されています。
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