「おにぎりを買うのをためらう」「バス代が30円上がりしんどい」都内の大学にある学生食堂では、物価高などで経済負担が重くのしかかる学生たちの切実な声が聞こえました。教育費の公的支出割合がワースト3位の日本。各党はどんな教育支援策で応えるのでしょうか。
【写真を見る】「おにぎりを買うのをためらう」格安応援300円ランチに長蛇の列 「給付型奨学金が打ち切りに…」学食で聞く大学生が政治に望むのは ?各党の教育支援策を比較【news23】
格安の“応援ランチ”に行列 経済負担増す学生の声
午前11時前、専修大学の食堂にできた長蛇の列。その目当ては、ハンバーグにメンチカツ、デザートまで、650円相当のメニューを300円で食べられる人気の「応援ランチ」です。
大学生(1年)
「300円ですごくお得でありがたいなと思います。お財布に優しい」
大学生(3年)
「めちゃくちゃ得した感があります」
早い日には15分ほどで売り切れるという応援ランチ。破格の値段で販売される訳は…
専修大学 学生厚生部 新生真人さん
「経済支援の一環として、ひとり暮らしや最近は物価の上昇もあり、経済的な負担が大きいという声をよく聞くので」
ランチを楽しむ学生たちからも切実な声が聞かれます。
大学生(1年)
「バス代が上がって210円が240円になって、地味に毎日だとしんどいな」
大学生(3年)
「コンビニで買うおにぎりとかもだんだん値上がりしてて、少し買うのをためらう」
大学生(1年)
「食費かかるからご飯を抜いちゃいます。今日はこれ1食」
衆院選の投票日が迫る中、政治に何を求めるのでしょうか?
大学生(1年)
「奨学金を貸与で借りてます。月5万円。給付型(奨学金)を増やしてほしい。給付型をもらおうと思ってたんですけど、選考に落ちて」
大学生(1年)
「103万の壁をどうにかしてほしい。全然働けない」
教育無償化は? 奨学金打ち切りで困惑
こうした声が上がる中、各党がこぞって打ち出しているのが、教育の無償化。
衆院選の公約には、大学の授業料値下げや無償化、奨学金の拡充などが掲げられています。
ただ、公約の実現を待つ余裕はなく、東京大学では授業料の値上げが決まったばかり。学生を取り巻く環境は厳しさを増す一方です。
東京大学の学生(3年)
「実家が裕福ではないので、仕送りをする余裕がない。『奨学金とバイト代で生活してね』とずっと言われていて」
これまで家賃や生活費は奨学金とアルバイト代でまかなってきましたが…
東京大学の学生(3年)
「『9月にあなたの親の年収が奨学金の対象から外れたので、給付の奨学金は来月からない』と通知がきた」
10月から月4万円の給付型の奨学金が打ち切りに。授業料免除の対象からも外れ、授業料も全額自分で支払うことになりました。
東京大学の学生(3年)
「弟が私立の大学に通っていて、弟の授業料に親がかかりきりなので、僕はアルバイトを週6日に増やして、何とか学費を払おうとしている」
生活が困窮する中、進学への意欲は薄れていきました。
東京大学の学生(3年)
「大学1年生の時はすごく大学院に行きたいなと思っていたが、奨学金とアルバイトでという生活を3年間をしていると、お金がぎりぎりの状態で生活するのがすごく嫌だなと思ってしまって、大学院進学は割と3年の頭の段階で諦めて…」
その上で、衆院選の候補者に望むことは。
東京大学の学生(3年)
「高等教育の無償化というのはお願いしたい。それが無理なら103万の壁を撤廃して、奨学金を借りられない人でも学費が稼げるような環境を整えてほしい」
教育費の公的支出割合 日本はワースト3位
小川彩佳キャスター:
切実な思いを語っていましたが、日本の未来を支えていく若い方たちにこうした思いをさせてしまっていることが、日本の未来そのものの損失に繋がっていくということをもっと認識しなきゃいけないですね。
藤森祥平キャスター:
教育の無償化、世界を見てみましょう。主に先進国で構成されているOECDの加盟国のうち36か国について、公的支出の中で教育費がどれぐらい占めているかの割合をまとめました。
【公的支出の教育費割合】(OECD 2022年)
1位 コスタリカ 21%
2位 イスラエル 17%
3位 スイス 17%
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6位 韓国 14%
7位 アメリカ 14%
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34位 日本 8%
35位 イタリア 7%
36位 ギリシャ 7%
トラウデン直美さん:
結構ショックですね。若い人にはお金を使いませんというふうにも受け取れてしまうので。私が学生だった頃、小・中・高・大のいろんな友達の話を聞いていると、「バイトで103万どうしよう」って言っている子が当時からすごく多くて。そこが結構壁として感じるんだなって。
あとは奨学金を借りていること。なぜ勉強に集中できる時期のはずなのに、お金のことばっかり気にしないといけないんだろうと、当時からすごく息苦しいなと感じてました。
小川キャスター:
世代の実感として感じていらっしゃるわけですね。どうしてこういったことになってしまっているのでしょう。
(株)日本総研主席研究員 藻谷浩介さん:
教育については昭和が続いてるような気がします。何となく僕らの世代は若い頃に国鉄分割民営化やソ連の崩壊とかいろいろあって、何でも民間の市場経済に任せるとうまくいくんだみたいなことが非常に強かった。
教育についても自分で学費が稼げる、奨学金がもらえるような人が受けたら効率が上がるんじゃないか、学生に競争させればいいんじゃないかみたいな。そういう考え方が明らかに広まっていて、今でも教育無償化は甘いみたいなことを考えている人が多いのではないか。役人でもいるんじゃないかと思います。
だけど、韓国やアメリカですら14%払っている。どんどん少子化しているので、教育のマーケットは縮んでいる。学生の数が減っていくわけですよ。同じ大学を維持しようとすると授業料を上げざるを得ない。市場経済に任せておくと当然、少子化するほど1人当たりの負担が増えちゃうんですよね。
だからこそ、ここは税金を使うべき。逆に市場経済に任せるべき企業や株式にそんなに補助金を入れないで、絶対市場でうまくいかない教育に入れるべきですよね。
高校授業料 自治体間格差も
藤森キャスター:
国だけではなく自治体が公的な支援をしている場合もありますが、自治体によって差が出てしまうというケースがあります。
東京都は2024年度から高校授業料の助成について所得制限を撤廃しました。
例えば東京都内の私立高校に通う場合、授業料の平均約48万円を上限に助成されることになりました。東京都内に住んでいる生徒は授業料が平均以下だと実質負担ゼロになる。
ただ同じ学校でも、他県から通う生徒については助成が対象外になるので授業料を払わなくてはならないという差が出る。
トラウデン直美さん:
ちょうど学び盛りでいろんなことを吸収し、未来に希望を持って欲しい人たちにとってはノイズでしかないですよね。国や周りの大人が決めたことに振り回される。親御さんに申し訳ないと思っている人や、未来に不安を覚えている人もいるかもしれない。なぜ希望しかないはずの人たちがこういうシワ寄せを被らなければいけないのだろうと、すごくモヤモヤしますね。
小川キャスター:
それも自治体の政策の差によって格差が生まれてしまっているわけですよね。
藻谷浩介さん:
地方分権の中で、国がやらないことを自治体が自由に上乗せできるようになって、この20年ぐらいでずいぶんいろんな工夫がなされた。その結果こういう差ができているんですが、考えてみると国の決めている最低限が低すぎる。実際この問題で困っているということは、直接僕も聞きます。奨学金を就職してからも返しきれず、物が買えないから景気が悪くなるっていうこともある。
自治体の競争の結果これぐらいは必要だとわかったので、国の最低限をあげなきゃいけませんよね。でも選挙の後に、「これは国民の声だ」と即刻霞が関の人たちも他のところのお金を削って教育に回さなきゃいけないと思うんですよ。そうしないと本当に国がなくなっちゃいますよね。
投票まで4日 各党の教育支援策を比較
小川キャスター:
若者への教育支援について衆院選で各党はどのような政策を掲げているのか、公約を見ていきます。
藤森キャスター:
一部抜粋という形でご紹介します。
<自民党>
高校無償化の拡大・高等教育の大胆な無償化
<立憲民主党>
高校の授業料完全無償化・国公立大学の授業料無償化
<日本維新の会>
幼児~大学院まで全課程での無償化
<公明党>
高校授業料の実質無償化・2030年代の大学等の無償化
<共産党>
高等教育の無償化・直ちに大学等の授業料を半額に
<国民民主党>
幼児~高校教育までの授業料完全無償化
<れいわ新選組>
大学院までの教育無償化
<社民党>
高等教育まで教育費を無償化
<参政党>
教育クーポンの導入
などの支援策を打ち出していこうとしています。
こうした教育の無償化は負担を軽減するという政策に並んでいるものの、財源の確保については議論が深まっていないのが実情。実現していくための道筋がはっきりしていないという点は大きな課題として残されています。
若者への教育費の公的支出どう考える? みんなの声は
NEWS DIGアプリでは『教育費』について「みんなの声」を募集しました。
Q.若者への教育費の公的支出 どう考える?
「大幅に増やすべき」…56.9%
「多少は増やすべき」…28.6%
「現状のままでいい」…7.0%
「減らすべき」…4.6%
「その他・わからない」…2.9%
※10月23日午後11時18時点
※統計学的手法に基づく世論調査ではありません
※動画内で紹介したアンケートは24日午前8時で終了しました。
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<プロフィール>
藻谷浩介さん
(株)日本総研主席研究員 著書「デフレの正体」
NYコロンビア大学ビジネススクール卒業
トラウデン直美さん
慶応大学法学部卒
環境問題やSDGsについて積極的に発信