大物議員と新人の大激戦 神奈川20区
自公の過半数割れで幕を下ろした第50回衆議院選挙。全国289選挙区の多くで接戦となったが、とりわけデッドヒートとなったのが神奈川20区だ。
【写真を見る】自民・甘利氏、背水の陣で臨むも再び新人に敗北 初当選から41年、初めて議席失う【衆院選2024】
注目の的となったのが、自民党元幹事長の甘利明氏(75)。甘利氏といえば、前回2021年の衆院選で、立憲の新人に約5500票差で“まさかの敗北”(比例で復活当選)となったことが記憶に新しい。史上初となった現役幹事長の敗北から3年…。75歳となった甘利氏は、今回「73歳定年制」という党の規定により、比例には立候補できず。小選挙区での敗北=議席を失うという、まさに背水の陣で挑んだ。勝負の舞台に選んだのは、中選挙区時代に地盤としていた相模原市を含む20区。前回敗北した旧13区から新設された選挙区へ移っての戦いとなった。
「当選13回の新人っていう思いが一番ぴったし」
選挙期間中、「当選13回の新人」と繰り返した甘利氏は、言葉の通り、新人顔負けの「どぶ板選挙」を展開。地域の集会や祭りに積極的に参加して、支持を訴えた。しかし、情勢は想像以上に厳しいものとなった。地道な活動とは裏腹に、序盤から対抗馬と差は1ポイント前後(JNN調査)で拮抗。甘利氏自身は関わっていないが、自民党の裏金問題が逆風となったほか、2016年に大臣の引責辞任にまで発展した自身の政治とカネの問題にも再び注目が集まった。さらに、前回から引き継いだ地盤は座間市のみで、陣営は「票読みが難しい」と頭を悩ませていた。
対抗馬は立憲の新人女性候補
「大物議員が立候補している選挙区ですが、勝てるチャンスがあります。みなさんの力をどうか貸してください」
座間市のショッピングモール前でそう訴えたのは立憲の新人・大塚小百合氏(44)だ。初の国政選挙で、自民党のベテラン議員に立ち向かった。大塚氏は老人ホームの施設長を務めたほか、2児の母でもある。「福祉のプロとして、子育て世代の一人として、有権者にわかりやすい言葉で政策を訴えたい」と語り、課題である「知名度不足」をカバーするために、自転車で選挙区を駆け巡った。戦いを進める中で大塚氏が強調したのは、甘利氏との違いだった。「自民党の政治とカネの問題は見過ごすことはできないが、演説では裏金批判より、他の候補と違いが際立つ福祉、子育て、女性活躍に時間を割くようにしていた」という。選挙戦終盤には立憲支持層だけでなく、裏金批判に食傷気味の有権者や子育て世代などの無党派層を取り込んでいった。
「新人に2度も負けるわけにはいかない」
新人とのデッドヒートがつづくなか、甘利氏の陣営関係者からは焦りの声が漏れてきた。危機感を覚えた党本部は、麻生太郎最高顧問や小泉進次郎選対委員長、コバホークこと小林鷹之元経済安全保障担当大臣など、知名度の高い応援弁士を次々と送り込んだ。しかし、演説会に訪れた子連れの有権者からは「甘利さんの話は賃上げや半導体など、経済の大きな話に終始していて、自分たちの生活がどうよくなるかがイメージしづらかった」といった声が聞こえてきた。
選挙戦の終盤、報道各社の調査で、大塚氏のリードが伝えられた。ある自民党関係者は「負けたら終わりの厳しい状況なのに、どこか必死感が伝わってこない。応援弁士の方が熱量がある」とこぼした。
「心配して駆けつけてくれた後輩議員の期待に応えられず不甲斐ない」
その後、自民党が非公認候補側に2000万円を支給していたなどの報道で、自民党への逆風がさらに強まったこともあり、最終的には約11ポイントの差で敗北を喫することとなった。
落選確実の報に、甘利氏は次のように述べ、支援者に頭を深く下げた。
「全ての関係者の皆さんの大変なご尽力をいただいたにも関わらず、議席を得ることができませんでした。おそらく、私の選挙史上でも、最も関係者全員が懸命にやっていただいた選挙だと思います。これ以上できないというところまでやっていただいたと感謝しています。にもかかわらず、届かなかったということは、全て私の責任であり、不徳の致すところです。本当に申し訳ありません」
そして今後については「関係者と相談して判断しようと思う」と語った甘利氏。
険しい表情のまま、事務所を後にした。