選挙期間中のSNSが、明暗を分けたともされる兵庫県知事選。出直し選挙で、再選を果たした斎藤元彦前知事。当初、厳しい戦いが予想されていましたが、一体、何が起きていたのでしょうか。(11月18日に放送された内容です)
【写真を見る】県民に聞く…斎藤氏に投票した理由は?再選を果たした斎藤前兵庫県知事の明暗を分けたSNS支持 取材した鈴木エイト氏が感じた“違和感”とは【news23】
失職から約50日…再び知事に
17日間の選挙戦。こんな変化があったといいます。
前兵庫県知事 斎藤元彦氏
「3キロ痩せました。政治家のみなさんが食事に行くシーンをSNSにあげているけど、私からするとそんな余裕ない。この十何日間は、すべておにぎりで済ませていた」
県職員らへのパワハラなどの疑惑を告発された、斎藤元彦前兵庫県知事。失職からおよそ50日で兵庫県庁に舞い戻ることになりました。
2024年11月17日放送の開票特番では、午後8時の投票締め切りと同時に斎藤元彦氏の当選確実が発表されました。
斎藤氏の事務所スタッフ
「神戸新聞、斎藤元彦さん当確出ました!」
7人が乱立した兵庫県知事選。前尼崎市長の稲村氏らをおさえ、約110万票を獲得した斎藤前知事が再選を果たしました。
斎藤元彦 氏
「本当にこの選挙戦は1人からのスタートでした。多くの皆様のご支援、ここまで本当に広がるとは、本当に正直思ってなかったのも事実です。本当にありがとうございます」
パワハラ疑惑に“告発者探し”も 有権者の“変化”
ことの発端は2024年3月。県職員へのパワハラ疑惑などを告発する文書を、県民局長だった男性が匿名で作成し、配布しました。
斎藤元彦氏
「ありもしないことを縷々並べたような内容。うそ八百を含めて文書を作って流す行為は公務員として失格」
そのとき斎藤氏は強い言葉で非難しました。元県民局長は停職3か月の懲戒処分を受けましたが、7月に死亡しました。
しかし、その後に県議会が設置した百条委員会の調査などで告発内容の中に事実があったことや、「告発者探し」を知事自ら指示していたことが明らかになりました。さらに、告発文書の中で2023年11月の阪神・オリックスの優勝パレードで、寄付金集めなどの業務で疲弊して療養中とされた元課長の男性(53)が、2024年4月に死亡していたことも明らかになりました。
斎藤元彦氏(百条委員会・9月)
「誰がこの文章を作成したのか、なぜ作成したのかという意図などを、事案としてしっかり把握するということが大事だと指示しました」
斉藤氏は、「文書は誹謗中傷性が高く、公益通報にはあたらない」「告発者探しにも違法性はない」と主張していましたが、兵庫県議会は9月、斎藤氏に対する不信任決議案を全会一致で可決しました。その後失職し、出直し知事選挙に挑むことに。最終日には、県職員に見送られることなく、県庁をあとにしました。
街頭に立つも、当初は見向きもされなかった斎藤氏ですが、選挙終盤には大勢の人が集まるようになりました。
今回の知事選の投票率は55.65%、前回よりおよそ14ポイントの上昇となりました。斎藤氏の再選に有権者たちは…
兵庫県民(50代)
「この人えらいパワハラする人やな、こんな人アカンで、というのが最初の印象です。ただ、時間が経つにつれて『そうか?』と心が動きました」
兵庫県民(60代)
「僕もはじめは、『なんてひどい人だ』と思ってました。でもその後、情報が出てきて実はこれが真実だったのかなと思いました」
兵庫県民(40代)
「斎藤さんがはめられたっぽかったので。決定打は立花さんが出てきたっていうところ」
「SNS」で大逆転 有権者は何を信じた?
今回の選挙では政治団体党首の立花孝志氏も立候補していましたが、自身の当選は目指さないとし、選挙戦で斎藤氏をサポートしていました。
政治団体・党首 立花孝志 氏
「当選を目的としない選挙に、今回は臨ませていただいています。斎藤は悪い奴だと思い込まされているんです」
するとSNS上では、「元知事がんばれ」と斎藤氏を応援する動きが活発に。今回の選挙戦では、SNSの情報も大きな判断材料となりました。
兵庫県民(30代)
「TikTokやショート動画、あとYouTubeも、立花さんのやつとかも面白かったです。勝手に見せられる回数が増えるにつれ、気持ちが強くなっていくのは、人間の性じゃないかな」
兵庫県民(50代)
「正しいものだという前提の中でテレビで見てたと思うんですよ。それがYouTubeとかの媒体によって『そういうことあり得るの?』から始まって、それが本当に真実に近いと、嘘だったというような判断を皆さんがしたから、あのような大演説になったり、群衆になったと思います」
ただ、ネット上にはデマも。今回敗れた稲村氏を巡っては…
SNSの投稿コメント
「稲村和美さんは『外国人に参政権を与えようとしています』」
この投稿が表示された回数は147万件以上に上りました。一方、稲村氏は「外国人参政権を推進する立場ではない」と否定しています。
SNSが大きなうねりとなる中、知事選終盤にはこんな動きも…
丹波篠山市 酒井隆明氏
「新たな県政を始めていただくために、私達は稲村和美さんを支持する」
県内29市長でつくる市長会の有志22人が、稲村氏の支持を表明しました。ただ、その1コマもSNSで拡散しました。
市長会の有志メンバー川西市長 越田謙治郎氏は、稲村氏の選挙戦をこう振り返ります。
川西市長 越田謙治郎氏
「間違えた情報というのは一言で拡散できますが、それに対する説明は非常に長くなってしまう。言い訳からやらないといけなかったということが、苦しい選挙だったと思います」
斎藤氏は18日、SNSについてこう話しました。
斎藤元彦氏
「(SNSは選挙戦で)一つの大きなポイントだったと思います」
ーー真実はSNSの方にある?
斎藤元彦氏
「私はどちらに真実があるかどうかは言ってない。おそらくこれは視聴者や、県民の皆さんがいろんなメディアさんを見て、これからどう判断をしていくかということだと思います」
一方、パワハラ疑惑などを調査する百条委員会は18日も開催されました。11月25日に斎藤氏の出席を要請し、尋問を行うことを決めました。現役の県職員からは、こんな声も…
兵庫県 現役職員
「(再選は)非常に個人的には残念だと思います。知り合いの職員でも『もう辞めたい』という声も聞こえてきます」
鈴木エイト氏“現場で感じた違和感”とは
藤森祥平キャスター:
斎藤前知事の選挙戦を振り返ります。失職直後は誰も足を止めず、斉藤さんもお辞儀を繰り返すだけでした。選挙中盤では徐々に人が集まりだしました。そして選挙終盤になると、歩道を埋め尽くすような人だかりになりました。
この知事選を取材したMBSの海老桂介記者は「立花氏が立候補表明した10月24日以降、SNS上でムードが加速した」と話しています。
小川彩佳キャスター:
エイトさんは、実際にこの兵庫知事選の最終盤を現地で取材されたそうですが、どのような状況でしたか?
ジャーナリスト 鈴木エイトさん:
現地の様子を確認しに行きましたが、演説を聴いている人からは「自分で調べたら分かった」「斎藤さんを誤解していた」という方がかなりいらっしゃいました。
今回の選挙は、これまでの選挙とは違う何とも言えない違和感を抱きました。本人がいないときから現地はかなり盛り上がっていました。スタッフの人や立花氏が盛り上げていたりして、みんなで盛り上げて、悲劇のヒーローを応援してるような感じがありました。
しかし、斎藤さんは淡々と話すだけで、「これは一体何なんだろう」って違和感がずっと付きまとっていました。
斎藤氏の陣営がどこまでを想定していたかはわかりませんが、やはり立花氏が入ったことで、想定を超えたことが起きてしまったんじゃないかと思います。しかしこれは、本来の選挙の形ではないと思います。これには、非常に危うさを感じていて、決して成功体験と呼ぶべきではないと思います。
小川彩佳キャスター:
「危うさ」というのはどういうことなのでしょうか?
鈴木エイトさん:
投開票日の後もそうでしたが、非常にメディアに対して憎悪を向けるような声が上がっていました。「斎藤氏を追い込んだメディア・県議会に対して、何をしてもいい」という感じの憎悪を呼んでしまってるところがあったと思います。
“斎藤現象”なぜ?世代別投票先は
藤森祥平キャスター:
出口調査を見てみますと、このように、30代までの若い世代の多くが斎藤氏に投票しています。40代や50代も半数以上が斎藤氏に投票している。
出口調査で「選挙で何を重視したか」を聞くと、政策が39%。そもそもこの選挙が行われるきっかけとなったパワハラを告発した文書問題への対応については9.6%に留まりました。
そして3年余りの斎藤県政については、7割以上の人が評価しているという結果になっていました。星さんはどう見ますか?
TBSスペシャルコメンテーター 星浩さん:
選挙ですから、単純な理由だけではなく様々な要因が積み重なって当選に至った。例えば、斎藤県政の県立大学の授業料を無償化するという政策に対して支持をした人も確かにいるでしょう。
その土台の上に、斎藤さんの仲間であるボランティアの人や一部の議員が乗っかったりして、さらに、立花氏の応援や、SNSでパワハラを否定した発言がどんどん広がったという複合的な要因によって今回の結果になったのでしょう。
しかし、選挙というのは、それぞれが当選を目指すことを前提に組み立てられているのに、相手を応援するために立花氏が出ること自体が、今の選挙のあり方をかなり変え、疑問を投げかけることになると思います。
藤森祥平キャスター:
この形が今後許されるものなのでしょうか?
星浩さん:
これは後々、話し合って何らかの規制や見直しは当然必要になってくると思います。
“SNSの力”と既存メディアの役割
藤森祥平キャスター:
そして2024年は選挙イヤーでもありまして都知事選や衆議院選挙など、色々な形で選挙のあり方について指摘もされる中で、アメリカ大統領選でもありましたがこの選挙での情報については「ファクトチェック」が大きなポイントになっていました。
今回の兵庫県知事選でも、稲村さんについて「外国人参政権を与えようとしています」とSNSに流れましたが、本人はこれについて「推進する立場でない」と否定していて、事実とは違う情報が流れているんですね。
小川彩佳キャスター:
今回の選挙に限らず、本当に2024年の選挙は、1つ1つがSNSの影響力を強く感じる局面が多くありました。
星浩さん:
テレビは放送法という法律で、公平に扱わなければいけないと決まっているので、どうしても選挙が始まると慎重になります。ある意味で、紋切型の報道にならざるを得ません。そこの間隙を突く形でSNSが出てきて、かなり一方的な中傷やデマも流れてくる。この状況は改善する必要があります。
しかし、SNSを規制するのはどうしても難しいので、既存のメディアが選挙中でもファクトチェックのようなことをやってもいいと思う。既存のメディアにもその人材はいますからね。ファクトチェックを厳しくやってくっていうことはひとつアイディアかなと思います。
小川彩佳キャスター:
ただ、その既存のメディアのファクトチェックを信じない人もいるのでは?
星浩さん:
アメリカでも、そういう現象がありました。ニューヨーク・タイムズが、熱心にそのファクトチェックをやるとだんだんとそれが定着して、ニューヨーク・タイムズはきちんと事実関係をチェックしてるんだというのが定着してきたという事実があります。
一気には難しいと思いますが、既存メディアを持ってるスタッフを活用してファクトチェックをしていくというのが一つ打開の糸口になると思います。
小川彩佳キャスター:
粘り強くやっていくということですね。エイトさん、この点どうご覧になりますか?
鈴木エイトさん:
今回のテレビとSNSの対立であるとか、「SNSがオールドメディアのテレビに勝った」というような指摘をしてる人も多いですが、私はそういうことではないと思います。
斎藤氏自身も、不信任決議後に多くの複数のテレビ局に出演して持論を展開するなど、既存メディアを最大限利用していました。元々知名度はそういう点では斎藤さんが高かったのですが、そのマイナスのイメージが高かったところをSNSによってプラスに変えた。SNSを手段として使いました。あくまで、SNSは手段でしかないんです。
小川彩佳キャスター:
手段というところで言いますと、SNSによって選挙への関心が高まったというところもあると思います。私達は今後SNSに、どう向き合ってどう情報に接していけばいいんでしょうか?
鈴木エイトさん:
やはり今回顕著になったのが、SNS上にデマや虚偽があったことが問題だと思います。どこまでSNSの効果があったのか、これは短絡的にSNSの勝利だと決め付けてしまわない方がいいと思います。やはり、しっかりとした分析が必要だと思います。
斎藤氏は、今回の選挙は「メディアリテラシーが問われた選挙だ」ともおっしゃっていました。けれども、逆にこれは「有権者のリテラシーが問われた選挙」だと思うんですよね。見る側が、情報を見極められるリテラシーとファクトチェックをするメディアの役割、ここが大事になってきます。
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<プロフィール>
鈴木エイトさん
ジャーナリスト 兵庫県知事選を現地で取材
旧統一教会問題を20年以上追及
TBSスペシャルコメンテーター 星浩さん
1955年生まれ 福島県出身 政治記者歴30年