『パリピ孔明』(フジテレビ)などで個性的な役柄を演じたかと思えば、『ダブルチート 偽りの警官 Season1』(WOWOW)では警察官と詐欺師という2つの顔を持つ役柄を演じる一方で、父親という一面を持つ向井理さん。
【写真を見る】「尊重し合える関係でいることが大切」“父・向井理さん”が明かす<家族の形>『ライオンの隠れ家』
現在放送中の『ライオンの隠れ家』(TBSテレビ)で演じるのは主人公の姉の夫。その生い立ちゆえなのか、“家族”に固執し、妻やその子どもにDV(親密な相手に対する暴力行為)をしてしまうという人物だ。“家族”を持つ向井さんが、どう役を解釈し、演じているのか。向井さんが考える“家族”とは…。
“凄み”の正体は無表情
――向井さんが本作で演じる役に“凄み”を感じます。
祥吾の何を考えているのか分からない無表情から、怖さを感じていただけているのかもしれません。祥吾という役が抱える闇が深ければ深いほど、他の登場人物への応援が増えるでしょうし、そこは反比例していくと思います。祥吾としてどのような心情を表現するべきか、照明や撮影するカットからヒントを得ました。無表情のほうが見ている方の想像力を掻き立て、怖さも増すだろうと思いましたし、きっと面白いだろうなと。撮影を進める中で表情や分かりやすさを削ぎ落としていきました。
動き的にはプロット(ストーリーの要約)がしっかりしていたので、それを丹念に読み込みました。その上で、祥吾のバックボーンを意識しながらカメラの前で「生活している」という感覚で演じています。ただ、過去をセリフや分かりやすい表情などで説明する必要はないのかなと。見ている方に「何かあったんだろうな」と感じてもらえるような含みのある演技を心がけました。
――この作品で挑戦的だと思う部分はどこでしょうか。
オリジナルストーリーであること、そして1話完結ではないところです。時代の流れ的に展開が分かりやすい作品が好まれて、そういった作品が多く存在する中で、あえてミステリー要素があるところ。視聴者の皆さんがその謎部分をすごく想像してくれているなと、感じています。
足並みを揃えてニュートラルに
――向井さんから見た橘祥吾はどんな人物でしょうか。
良い人間ではないとは思います。生い立ちがあまり幸せでなかったこともありますが、だからといって歪むことを正当化することは違うかなと。彼の行動は犯罪ですからね。ただ、物語の起点でもあり、作品の中で一番の悪でもある祥吾という人物を過剰に演じてしまうと、存在そのものがエンターテインメントになりすぎてしまう。それを避けるために、なるべくニュートラルに演じたほうが怖く見えるのではないかと考えました。派手さは必要ないと思い、台本を読んだ段階からその意識を持っていました。実際にオンエアを見ていると、柳楽(優弥)くんをはじめとするキャストの皆さんが自然体で演じているので、悪役の祥吾が目立ちすぎるのは良くないと判断し、皆さんと足並みを揃えて、この作品のテイストに合わせることを心がけました。
――佐藤大空くんとのシーンではどのようなコミュニケーションを取られていますか。
普通の5歳の男の子という印象です。僕自身にも子どもがいるので、彼にも自然と同じ接し方ができました。コミュニケーションを取ることはそれほど難しくありませんでしたが、あまり仲良くなりすぎてしまうと、祥吾と愁人の関係を演じる際に切り替えが難しくなるかもしれないなと思ったんです。ですが、大空くんは重要なシーンできちんと切り替えることができるんです。また、監督からの細かい指示をしっかりと受け止めていてすごいと思いました。
それにお芝居がとても自然なんです。オンエアを見ていても、柳楽くんや坂東(龍汰)くんとのやり取りが非常にナチュラルで、それは柳楽くんの懐の深さや受けの演技の良さによるものだと感じます。3人のバランスが素晴らしいですね。
家族は正解がない難しいもの
――本作を通じて“家族”とは改めてどんな存在だと感じましたか。
祥吾にとって初めて“家族”と呼べる存在が愛生です。しかし、性別や年齢、考え方、生活環境が異なる人と結婚して家族になるわけですから、その関係を築いていくには模索が必要です。きっと子どもが生まれれば関係性も変化するかもしれませんが、家族は形のないもの。人間だから生活していく中で嫌なことが起こったりすると思うんです。その中で、どうパートナーとすり合わせていくかが重要だと思います。家族というのは“正解”がない難しいものですが、その関係がうまくいくようにお互いが頑張らなくてはいけない。いい意味で他人だからこそ、きちんと気を遣わないといけないですし、尊重し合える関係でいることが大切だと感じます。
――祥吾は愛生と尊重し合う関係性を築けなかったということですね。
祥吾が親を知らないという点が大きいと思います。それに加えて彼の周囲の環境、特に橘家での経験や会社での立場、義理の兄との関係もうまくいかなかったことが要因なのかなと。彼の場合はそうした要素が積み重なって今の姿につながっているんだと思います。
“かけ違い”には話すことが重要
――“愛のかけ違い”がキーワードになっている本作ですが、向井さんが思うコミュニケーションの大切さや、思いが食い違わないようにする方法は何でしょうか。
話すことです。自分が今思っていることだけではなく、例えば「今日、何があった?」といった些細なことでも、話さなければ分からないと思うんです。それは家族だから分かってくれる、ということではない。それは祥吾が橘家に入った時のコミュニケーション不足もそうですが、どんな環境でも「話して理解してもらう」ことが重要だと思います。家族関係は結局のところ人間関係。愛がかけ違わないように、話をしていかなければならないと感じます。
――向井さんもコミュニケーションを大切にされていますか。
家族とは日常的に様々なことを話しますし、「今日はどんなことがあった?」など、まめに聞くようにしています。そういうことを生活の中で当たり前の会話にしていくことで、自然な関係性を保てるよう心がけています。今まで何も聞かなかった人が急に聞いてきたら、詮索しているようでちょっと怖いと思うので(笑)。
夫婦と言えど、良くも悪くも他人同士。本作では主人公の姉夫婦の間で愛のかけ違いが起き、関係がねじれてしまった。「家族というのは“正解”がない難しいもの」と語ってくれた向井さんが大切にしているという日常会話。人間関係を良好に保つために最も必要なコミュニケーションツールだ。家族に限らず、簡単なようで怠りがちだが、身近な人に挨拶やお礼を言ってみるだけでも何かが変わるかもしれない。