シリア・アサド政権崩壊 “独裁政権”終焉で世界に影響は?大統領は“後ろ盾”のロシアに亡命 今後のパワーバランスは?世界に与える影響は?須賀川記者解説【news23】

TBS NEWS DIG Powered by JNN
2024-12-10 15:14

アサド政権が崩壊した中東シリア。大統領は“後ろ盾”"となっていたロシアに亡命しましたが、政権崩壊は世界にどんな影響を及ぼすのでしょうか?

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「私たちはこれから国をつくるんだ」攻勢から12日でアサド政権崩壊

現地時間9日、午前8時のトルコ・シリア国境。人々はこの時を長く待ち望んでいました。

増尾聡 記者
「いま国境が開き、朝から列で待っていた人たちが検問所の方へ向かっていきます。長い間、難民として生活してきた人たちがあのように大きな荷物を持って国境を越えてシリアへと帰っていきます」

男性
「14年間待っていた。故郷に帰りたい。家を作りたい。シリアが繁栄し、良い未来が訪れるようにと願っている」

男性
「(政権が崩壊した)その瞬間の自分の気持ちは表現できない。信じられなかったんだ。シリアは自由だ。私たちはこれから国をつくるんだ」

“政権崩壊”翌日、首都ダマスカスは反体制派勢力に掌握された町ですが、人々の表情には笑顔が浮かんでいました。

男性
「この気持ちは言葉では言い表せない。これは夢のようで、まだ目覚めていない夢だ」

内戦が続いていたシリアで、事態が大きく動いたのは11月27日。反体制派勢力は拠点とする北西部の町イドリブから大規模な攻勢を開始。11月30日までに第2の都市アレッポを制圧すると、その後も首都ダマスカスに向けて要衝都市を次々に掌握していきました。

シリアの反体制派勢力
「ダマスカスは解放され、暴君バッシャール・アル・アサドは打倒された

反体制派勢力が首都ダマスカスを陥落させたことで、13年続いた内戦に終止符が打たれたのです。攻勢を始めてからわずか12日目の出来事でした。

アサド大統領ロシアに亡命 ロシア報道官“居場所は言えない”

市民
「シリア万歳!アサドを打倒した!もう敵はいない!」

夜の町では政権崩壊を祝う銃声が鳴り響き、アサド大統領の父親の銅像が破壊されました。さらに反体制派勢力は、一部の刑務所で囚人を解放したとも主張。陥落した大統領官邸では市民とみられる人々が入り込みました。

アサド大統領の行方について国営タス通信は、「アサド大統領と家族がモスクワに到着し、亡命が許可された」と報じました。

9日、ロシアのペスコフ大統領報道官は「プーチン大統領がアサド氏の亡命を許可した」と明らかにしました。アサド氏の居場所は言えないとし、プーチン大統領との会談の予定は現時点でないとしています。

またロシア外務省は声明で、アサド氏が“平和的な手段で権力移譲を実行するよう指示した”と明らかにしています。

シリア解放機構 ジャウラニ 指導者
「この勝利はイスラム共同体の新たな歴史の1ページとなる。この勝利はこの地域の新たな歴史だ」

ダマスカスのモスクに集まった民衆にこう訴えた「シリア解放機構」の指導者で、反体制派勢力を主導したジャウラニ氏。

市民からは・・・

市民
「この50年間、私たちは(自由に)話すことが出来ず、みんな極秘刑務所のような状況で暮らしていたんだ」

アサド親子で半世紀 “独裁”が終焉

アサド政権が終焉を告げるまでシリアで何が起こっていたのでしょうか。

2000年、父親の後を継いで就任した次男のアサド大統領。親子2代にわたって半世紀以上、独裁政治を続けてきました。

2011年、中東で起きた民主化運動「アラブの春」。シリアでも反政府デモが相次ぎましたが、アサド政権は武力で弾圧し、反体制派勢力との内戦に突入しました。

ロシア軍の支援を受けたシリア軍は、市街地への空爆を繰り返し、子どもを含む一般の市民が犠牲に。さらに反体制側に対して大量破壊兵器の一つ「化学兵器」を使用した疑いも。

国外へ避難する人が相次ぐ中、2015年にシリアから脱出した船が転覆し、3歳の男の子の遺体がトルコの海岸に打ち上げられる悲劇が。

2017年にJNNの単独インタビューに応じたアサド大統領。

アサド大統領
「我々は死傷者をなくすため、できる限りのことをした。市民のために叫んでいる人たちは、シリアやロシアが一般市民を殺しているという証拠を一つでも出したか?」

シリア内戦をめぐっては、これまで30万人以上の民間人が死亡し、国外に非難した難民は約680万人にのぼっています。

アサド政権の崩壊を受け、アメリカのバイデン大統領は…

バイデン大統領
「アサド政権は何十万人もの罪のないシリア人を拷問し、殺害した。今回の政権崩壊は正義がもたらした結果だ」

今後、シリアはどうなるのか。

日本国際問題研究所 松本太 プラットフォーム本部長
「新政府がどういった構成で結成されるのか、まだ未知数。当面、人道状況の改善という意味では時間がかかるんじゃないのかなという印象」

「安定が訪れる」トルコ国境には帰還急ぐシリア難民

小川彩佳キャスター:
内戦の最中には多くの難民が隣国トルコに逃れました。トルコ南部の国境から増尾記者に伝えてもらいます。多くの方がいますけれども、そちらに集まった難民の方からはどんな声が聞かれましたか。

増尾聡 記者:
シリア最大の北部の都市アレッポから50キロほどのトルコ側の検問所にいます。我々はここで10時間ほど取材を続けていますが、今も多くの人の姿が見られます。

今朝は、まだ暗い時間からかなり多くの方が集っていて、だいぶその数減りましたが、それでも今もなお大きな荷物を持ち、この場所に到着する人たちが集まってきています。

こうしてここに集まっているのは、2011年のシリア内戦が始まって以降、トルコに逃れてきた難民の人たちです。この検問所を通ってシリア国内へと帰還しようとしています。今日はこれまでに600人が国境を越えたということです。

アサド政権の崩壊を受けて母国への帰還を決めた人たちからは、一様に「これでシリアに安定が訪れるんだ」という希望の声というのが多く聞かれました。

小川キャスター:
長く続いてきた内戦なので、その希望がかなえられてほしいと願うばかりですが、その思いの通りにいきそうでしょうか?

増尾 記者:
今後の状況というのは、決して楽観視することができないということが言えると思います。今回の反体制派勢力の電撃的な攻勢では、異なるいくつものグループが「打倒アサド政権」で一致することができましたが、それぞれをよく見てみますと、本質的には全く別の主義・主張に立っている勢力も多くあります

今後新たな政権作りが進んでいきますが、この際に、例えば主導権争いとなれば、再び戦闘に陥るリスクをはらんだままです。どこまで歩み寄って安定的な政権を築くことができるのか。シリアの国民にとっての正念場というのは、むしろここからなんだというふうに思います。

アサド政権崩壊のワケ 今後のパワーバランスは

23ジャーナリスト 須賀川拓 記者:
増尾記者の報告にもありましたが、たくさんの難民が集まっていました。アサド政権の弾圧などによって、シリアから逃れた難民の数は680万人とも言われています。想像を絶する数ですが、こうした人たちが戻る国が今後どうなるのか。少し時計の針を戻してみたいと思います。

まずアサド政権が崩壊する前の勢力図は大体このような感じでした。中でも地図の左側の「反体制側」が今回、大きな役割を担いました。

いろいろな主義・主張がある中で今回は「反体制側」がいろいろな方向を向きながらも一枚岩になった。これがまず一つの大きな要因です。

さらに「アサド政権側」にも欧米の経済制裁が非常によく効いていた。要するに、軍隊とか兵士に払う給与すら滞っていたのではないかと言われています。そうなると当然、戦いのモチベーションというのは反体制派と比べて全然違います。「アサド政権を支えよう」と思う兵士はほとんどいなかったのではないかといわれています。

国外勢力も今回大きなポイントでした。ロシア、イラン、そしてレバノン(ヒズボラ)がアサド政権を支援していましたが、今回その影響力は一気に低下してしまった。皆さんご存知の通り、ロシアはウクライナ侵攻を抱えていますし、イランやヒズボラもイスラエルとの対立で国外に目を向ける余裕がなくなってしまった。

戦争は1か所で起きているものは、あらゆるところで相互関係で作用し合っていて、本当に地続きだなっていうのをこれだけ改めて感じます。

AIエンジニア 安野貴博さん:
たった12日間の攻勢でここまで大きく状況が変わるのか、というところにまず驚きました。やはり、一番気になるのは今後安定した政権をシリアの中で作ることができるのか、あるいは、その国家の舵取りがどのように行われていくのかというところですが、そういったところはどうなのでしょうか。

須賀川 記者:
まず、全く別の主義・主張に立っている勢力が、共通の敵であるアサド大統領がいなくなったことにより、バラバラになるのではないかというのが一つの懸念です。

もう一つの懸念は、今回反体制を率いたトップのシリア解放機構のジャウラニ指導者は「平和的な権力移譲」「アルカイダとの関係はない」と明言しています。ただ、こういった指導者が平和的な道筋を示したとしても、末端の戦闘員がそれについていくかどうかはわかりません。

アサド大統領に友達や家族を虐殺された人たちは大勢います。そして、アサド信派の市民ももちろんいます。例えば私刑、自分で復讐をしに行ってしまうなど、そういったことで治安が一気にガタついてしまうケースももちろんあり得るので、その治安をどこまで維持できるか。今後大きな課題になるのではないでしょうか。

アサド政権崩壊で“後ろ盾”ロシアは大ダメージか

小川キャスター:
星さんは7年前にアサド大統領にインタビューを行っていますが、そのときのことを振り返ってどんなことが思い起こされますか。

TBSスペシャルコメンテーター 星浩さん:
アサド大統領は二面性があると感じましたね。イギリスで眼科医をやっていたこともあり、開明的な部分ももちろんあります。一方で反体制派への対応、化学兵器の扱いなどを聞くと、本当に杓子定規でロシアの見解と全く同じなんです。やはり「ロシアの傀儡」という感じを強く受けました。

今回ロシアからすると、政治的にアサド大統領を支えていた。それが倒れたということで、政治的な威信の低下があります。軍事的には、ロシアはシリアに空軍基地と海軍基地の軍事基地を持っています。この二つの基地が使えなくなりそうで、ロシアの方の軍事戦略上も非常に大きなダメージです。そういう点では、プーチン大統領の威信低下に加速がかかるんじゃないかとみられてると思います。

小川キャスター:
そういった意味でも、中東情勢の先行き不透明感が増していきますが、シリアに対して日本がどんな役割を果たせるのでしょうか。

TBSスペシャルコメンテーター 星さん:
シリアの中だけでは復興・復旧がなかなか難しいので、国際社会の支援は必要です。今週中にもG7が首脳同士で電話会談をする予定ですが、やはり兵を出す国や、日本のように経済支援ができるような国など、役割分担をしながら国際社会全体でシリアを支援していくということが非常に必要になってくると思いますね。

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<プロフィール>
安野貴博さん
東大卒のAIエンジニア
SF作家
都知事選でAI選挙を展開し5位

星浩さん
TBSスペシャルコメンテーター
1955年生まれ 福島県出身
政治記者歴30年

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