キリンホールディングス 南方社長生出演 「ファンケル」買収で描く成長戦略とは【Bizスクエア】

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2024-12-11 07:00
キリンホールディングス 南方社長生出演 「ファンケル」買収で描く成長戦略とは【Bizスクエア】

2024年大ヒットしたキリンビールの「晴れ風」。そのキリンホールディングスが新たな経営の柱として力を入れているのが「ヘルスサイエンス事業」。健康食品などを手がけるファンケルを買収したその狙いなどを、キリンホールディングスの南方社長に聞いた。

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新ビール「晴れ風」が大ヒット 女性や若者が支持する理由は?

2024年4月ビール業界に新たな風を吹かせたのが、キリンビールの「晴れ風」。購入客は「割と軽めで本当に晴れ風という感じの飲みやすさがある」「デザイン的にもちょっとおしゃれな感じで目立っていい」という。売り場のある「オーケー みなとみらい店」センター長の川崎一馬さんは「若い世代の方、女性の方に支持されるということは、売り上げを伸ばすきっかけになっているので、非常に今回小売店にとっては大きなチャンスだった」と話す。

特に女性や若い世代に支持されている「晴れ風」。開発を行ったのは入社7年目の東橋さん。

キリンビール 中味開発グループ 入社7年目 東橋鴻介さん:
数多あるスタンダードビールの中で、時代に合った新しいスタンダードビールを作りたいと、本当にこの一心でジョイン(開発に参加)させてもらった。

キリンのスタンダードビールとして、17年ぶりの新ブランドとなる「晴れ風」。その開発には、試作を数十回以上繰り返したという。

キリンビール 中味開発グループ 入社7年目 東橋鴻介さん:
「美味しいは美味しいが、今までのビール」という反応が開発(段階)の前半は多くて、そこを打破するというか、驚きの反応を取るところにすごく苦労した。

味の工夫には、若手社員ならではの発想があった。

キリンビール 中味開発グループ 入社7年目 東橋鴻介さん:
周りも「乾杯がビール」が当たり前ではなく、好きなものから飲む。自分自身もビールを飲んで、ハイボールなど違うものを飲むことを当然する。あえて苦さを目立たせない形で、飲みやすさを意識した。

キリンホールディングス 9年ぶりの社長交代 大型買収で新たな経営の柱を

こうして生まれた「晴れ風」は、発売からわずか1か月で200万ケースを突破。年間販売目標を当初の1.3倍となる550万ケースに上方修正する大ヒットとなった。

「晴れ風」発売開始直前の2024年3月下旬に、キリンホールディングスの代表取締役社長に就任したのが南方健志氏。1984年に入社し、「キリン一番搾り」の商品開発にも携わってきた。

社長就任以降、率先して全国の工場に出向き、現場の社員とのつながりを大事にしている。

キリンホールディングス 代表取締役社長COO 南方健志氏:
皆さんの努力のおかげで事業も順調に来ていると思う。

そして、キリンホールディングスが新たな経営の柱として力を入れているのが、「ヘルスサイエンス事業」。2012年から発売を開始したプラズマ乳酸菌入りの商品は、60種類にものぼる。南方社長の新体制のもと、キリンホールディングスは、ヘルスサイエンス事業のさらなる拡大に向け、大型買収に踏み切った。

「ファンケル」完全子会社化 ヘルスサイエンス事業の拡大

キリンホールディングスは、2019年、化粧品やサプリメントなどの健康食品を手掛けているファンケルと資本提携を結んだ。そして、2024年6月。ファンケルについて「完全子会社化するための手続きの開始を決定した」と発表し、ファンケルの買収に動き出した。その狙いについて南方社長は…

キリンホールディングス 代表取締役社長COO 南方健志氏:
今回、TOB(株式公開買い付け)を進めているファンケル社は、当社の長期経営構想である「KV2027」の実現、ひいてはヘルスサイエンス事業の成長に向け、重要なパートナーとして位置付けている。

2024年9月にTOB=株式公開買い付けが成立し、年内にもファンケルを完全子会社化するとしている。

横浜市にあるファンケル総合研究所。化粧品や健康食品の研究を一貫して行うファンケルの中枢に、南方社長が視察に訪れていた。

我々メーカーなので、最終的に一つ一つの物づくりのプロセスにやりがいを持って、情熱を持って向かっているのは、非常に大事なこと。(情熱を持った)人たちが集まれば、非常に良い商品が出てくるのではないか。

ファンケル買収の先に見据える、ヘルスサイエンス事業の拡大など、南方社長にキリンの今後の戦略を伺う。

新ビール「晴れ風」ヒットの要因 「日本の風物詩」支援の取り組みも

――ヒットした「晴れ風」。ここまで売れると思っていたか?

キリンホールディングス 代表取締役社長COO 南方健志氏:
正直、最初見たときに少し驚いた。「本当にこれ、いけるかな?」と思ったが、正直、何かやってくれそうな予感はした。

2024年4月2日に発売された「晴れ風」は、わずか10日で100万ケースに到達。3か月後には年間目標としていた430万ケースの8割となる350万ケースを突破し、年間の販売目標を当初の1.3倍となる550万ケースに上方修正した。

――目標は達成できそうか?

キリンホールディングス 代表取締役社長COO 南方健志氏:
そうですね。おかげさまで発売以来、強い支持をもらっていて本当にありがたい。

――「晴れ風」は、第2の柱になったと言えるか。

キリンホールディングス 代表取締役社長COO 南方健志氏:
もうなっている。さらに来年以降も成長を続けていきたいと思っている。

――缶の色が緑、名前もビールの特徴も表していない、会社名も入ってない。飲んでみたら、これまでのビールと違って、飲みやすいが、ふわっとした感じがあった。

キリンホールディングス 代表取締役社長COO 南方健志氏:
この商品は「斬新性」が良かったと思っている。味覚、パッケージ、そしてネーミング。従来のビールとは一線を画した「新しい世界観」を醸し出すことができたことが、大きな成功の要因ではないか。

――味で言うと「ドライ」が出て以来の爽快感やすっきり感とかから距離を置いているし、「生」ではない。過去30年ぐらいのビールの常識とはやや違うビール作りを担っている。

キリンホールディングス 代表取締役社長COO 南方健志氏:
そういう意味では、従来の常識を打ち破った。特に今回の「麦芽100%」は、普通に作ると、結構コクがあって、がっちりした味になる。そこを非常に上手く飲みやすい味に、完成度高く仕上げている。元醸造の人間としても、よくできていると思っている。

この「晴れ風」。「晴れ風ACTION」という面白い取り組みをしている。ビールを買うと、「350ml」1本で、0.5円(50銭分)が自動的に寄付される仕組みだ。それに加えて、QRコードを読むと自分の好きな地方自治体の花火大会や、桜の保全などにも0.5円寄付されるという。

――本来だったらキリンの取り分だったものが寄付される。利益率が落ちるが、それでもよいのか。

キリンホールディングス 代表取締役社長COO 南方健志氏:
それよりお客様に喜んでいただく。特に社会問題に貢献しているということで、満足してもらうことを大事にしたいと思っている。

――桜の木の保全や花火大会に使われるのは、ビールとの親和性があるからか。

キリンホールディングス 代表取締役社長COO 南方健志氏:
日本の自然・伝統・風物詩とともにビール文化は育ってきた。我々としては何らかの恩返しをしながら、ビールファンを増やして、自身の成長にも繋げたいという思いがある。

――「商品への共感」。これも支持の一つに繋がっているのか?

キリンホールディングス 代表取締役社長COO 南方健志氏:
単に「物の良さ」というだけではなく、コトに対しても貢献していることの方が、良い商品に価値をつけていく上で「非常に大事な取り組み」というのが、我々にとっても大きな発見だった。

――商品にストーリー性を持たせるということがすごく大事で、そのことがないとなかなか消費者にアピールしない時代になっている。

東京大学名誉教授 伊藤元重氏:
そういう「ストーリーマーケティング」は昔からある。ただ、「晴れ風」で、特に大事なのはその社会的価値。単なるブランドバリューではなく、社会的価値を入れたところが、非常に面白い。インパクト投資(財務的なリターンと同時に、社会や環境へのポジティブな影響を意図した投資行動)でも、よくそういうところが非常に大事になってきている。そういう意味で、商品の価値を広げてくれる大きな役割を果たしたのではないか。

ビール系飲料の今後は… 酒税改正でどう変わる?

ビールの柱として2本目ができた背景に酒税法の改正がある。ビール系飲料の酒税改正は3段階で実施。2023年10月にはビールの税率は下がった一方で、新ジャンル「第3のビール」は発泡酒と同じ税率となった。さらに、2026年10月には全て統一される。

――これからは「ビール」の時代なのか。

キリンホールディングス 代表取締役社長COO 南方健志氏:
基幹ビールである「一番搾り」に次いで今回の「晴れ風」。ラガー、プレミアム、クラフト系の商品もある。こういう商品のブランドをこれからしっかり育てていく一方で発泡酒・新ジャンルとして、支持してもらっているブランドもある。そういったエコノミー・カテゴリーにも引き続き、投資はしていきたいと思っている。

――ビールの第2ブランド・2本目の柱はどうしても欲しかった?

キリンホールディングス 代表取締役社長COO 南方健志氏:
そうです。ようやくそこに晴れ風が登場した。

――欲しいと思っても、いいタイミングでいいものができるとは限らない。今回うまくいったのはなぜか。

キリンホールディングス 代表取締役社長COO 南方健志氏:
入念な開発に、時間をかけて準備してきた。これからの時代に合った、共感をもらうような、商品というものは、重要なテーマだった。特に社会課題に向き合うキリングループの経営方針に沿って、新しい打ち出し方ができたのは、ずっと長年の目標でもあった。ようやくこの商品が一つの事例になってきた。

「ファンケル」完全子会社化へ ヘルスサイエンス事業の戦略は?

2024年、キリンホールディングスのもう一つの大きな注目点は、ファンケルを完全買収したこと。TOBを2回延長して、2300億円を費やして完全子会社にした。

――ファンケルが、どうしても欲しかったのか。

キリンホールディングス 代表取締役社長COO 南方健志氏:
5年前から、資本関係はあった。いろんな形で商品開発や、インフラの共同化は進めてきた。ファンケル社の持つブランド、顧客基盤、そして技術力は、大変素晴らしいものだと思っていたので、キリングループの中に入ってもらい、一緒に将来のヘルスサイエンス事業の成長ドライバーになって欲しかった。

――ヘルスサイエンスというのは、健康食品事業。サプリメント・錠剤・ドリンクなどがあるが、ファンケルは化粧品もある。そこにも相乗効果はあるのか。

キリンホールディングス 代表取締役社長COO 南方健志氏:
中からの健康も大事だが、外からの健康も大事なアプローチだと思っている。ファンケルの持っているスキンケア事業は、キリングループがこれから目指す健康事業にとって、非常に重要な役割を果たしてくれると期待している。

――2023年にブラックモアズというオーストラリアの大きな健康食品会社も買収した。これは海外への販売でのシナジーを創出したいということか。

キリンホールディングス 代表取締役社長COO 南方健志氏:
ブラックモアズは、90年以上の歴史のある健康食品会社。オーストラリアに本社あるが、実際には、東南アジア・中国でも非常に幅広く事業を展開していて、強いブランド力・顧客基盤を持っている。これからこのアジアパシフィック地域で、ファンケルも一緒になり、3社が持っている強みを掛け合わせながら、いろんな提案・チャレンジをして、健康課題に向き合っていく企業として、最大級のヘルスカンパニーを目指したい。

キリンが医療域での研究開発を始めたのは1982年。2010年に世界で初めて免疫の司令塔を活性化できる「プラズマ乳酸菌」を発見した。そして2020年に日本初の「免疫での機能性表示食品」が受理されている。

――元々、ビール会社であるキリンには、こういう技術の素地がたくさんあるのか。

キリンホールディングス 代表取締役社長COO 南方健志氏:
100年以上の歴史のあるビール事業から、培われた「発酵バイオテクノロジー」が、非常に強みだ。バイオテクノロジーは「生き物の力をいかに引き出すか」ということだが、それがあるから40年前に医薬事業にも参入し、大きく成長している。これからヘルスサイエンスは、大きな事業として成長できる。この技術が、事業の支えとして、これからも大事な役割を果たすのではないかと思っている。

――キリングループの現在の売り上げ概要を見ると、ビールは半分ぐらいになっており、医薬事業が大きい。今、ヘルスサイエンス事業が1034億。これをどのぐらい大きくしたいのか。

キリンホールディングス 代表取締役社長COO 南方健志氏:
できれば2030年頃には、3000億円規模ぐらいには持っていきたい。それぐらいのスケール感を持たないと、「次の柱」と言えない。今回、加わったファンケルとブラックモアズを成長させるということがまず大事。その中で、いかにシナジーを生むかが、これからの大きなテーマだ。

――少子高齢化で、アルコール市場自体は頭打ちなので、「他の柱を」というのはわかるが、飲料事業の部分を深掘りし、飲料会社をたくさん買収する。あるいは、食品の別の分野に出るということもできたと思うが、ヘルスサイエンス事業に振っていく狙いは?

キリンホールディングス 代表取締役社長COO 南方健志氏:
酒類事業・飲料事業、そして医薬事業はグループにとって、これからも非常に重要な事業であることは変わりない。だが、これからの不確実性の高い時代を見据えると、次の強い柱を打ち立てておきたい。社会課題の中で、特に「健康」は、ますます重要になってくるので、このヘルスサイエンス事業を確立させて、しっかりとした屋台骨を持ったキリングループに成長させたい。

(BS-TBS『Bizスクエア』 12月7日放送より)

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