アサド政権 絶望の刑務所… 化学兵器で奪われた子どもたちの命、“内戦終結”でシリアに平和は訪れるか?【報道特集】

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2024-12-28 06:30
アサド政権 絶望の刑務所… 化学兵器で奪われた子どもたちの命、“内戦終結”でシリアに平和は訪れるか?【報道特集】

中東のシリアでは半世紀に及んだ独裁政権が、今月一気に崩壊しました。その直後にJNNの取材班は現地入りし、アサド政権下で行われた残虐な市民弾圧の現場を取材しました。

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“独裁”政権崩壊 シリアは今

増尾聡記者
「シリアの国旗が見えてきました。まだアサド前大統領の写真が載っています。少し破られています」

“独裁”と恐れられたアサド政権が崩壊して3日目の今月11日。JNNのクルーが、日本メディアとして初めてシリアに入った。

増尾記者
「政権側の軍用車両が道路上に数多く放置されたままになっています」

増尾記者
「シリアでこれまで使われていた国旗が捨てられており、踏みつけられた跡もあります。シリア軍の兵士は、身に着けていたものを脱いで、自分が兵士と特定され、復讐されないように、このあたり一帯に放置されているのがわかります」

反体制派勢力のメンバーに、政府軍との戦いを聞くと…

反対派勢力「シリア解放機構」メンバー
「逃げ出した人もいましたが、追いかけることはしませんでした。最高の気分です。国中が喜びに沸いています」

反体制派勢力が大規模な攻勢を開始したのは11月27日。

拠点のあった北西部のイドリブを出発し、3日後には、第二の都市アレッポを掌握。そして一気に首都ダマスカスまで陥落させた。半世紀続いた政権は、わずか12日で崩壊したのだ。

増尾記者
「市内ではアサド前大統領のポスターが剝がされたり、地面に貼られた前大統領の写真を皆さん踏みつけて通行するなど、前政権への憎悪をいたるところに感じます」

親子二代にわたって政権を握ってきたアサド大統領。反体制派のデモを武力で弾圧し、強権的な統治を行ってきた。2011年からの内戦では、ロシア軍の支援を受けて市街地を度々、空爆。30万人以上の民間人が犠牲になった。アサド大統領はロシアに亡命した。

増尾記者
「アサド政権崩壊後、初めての金曜日。イスラム教徒にとって大切な金曜礼拝を終えた後、市内中心部には大勢の人が集まり、もはやお祭りです」

市民
「生まれて初めて自分の言いたいことを言えて、気に入らないことも批判できる」

中東地域を研究する高橋氏は、政権崩壊に至った経緯をこう分析する。

放送大学 高橋和夫名誉教授
「おそらく反体制派側は締め切りを意識していたと思う。トランプ大統領がシリアに派遣しているアメリカ軍を撤退すると前から言っている。就任したら、場面がガラッと変わる。その前に陣取りをしておきたいとアレッポを押してみたら、がたがたとダマスカスまで陥落したというのが実情ではないか」

恐怖の監獄 元収容者の証言

市民
「バッシャール(アサド)を監獄に送るべきだ」

政権崩壊後、人々が押し寄せた場所がある。政権に批判的だった人たちが「政治犯」として収監されていた刑務所だ。各地で多くの人が解放された。そのときのものとみられる映像には…

「女性たち出て!怖がらないで!我々は味方です」
「子供がいるぞ。ひどいな」

シリアで最も恐れられた巨大刑務所へと向かった。

増尾記者
「逃げる人を防ぐためだと思われるバリケードがずっと奥まで設置されています」

サイドナヤ刑務所。17年ぶりに自由の身となった男性がいた。エリアス・アブドラさん。

元収容者 アブドラさん
「ものすごく辛かったです。17年3か月と20日ぶりに解放されたときの気持ちを説明できる言葉はない」

ここには、政治犯として3年4か月間投獄されていた。

アブドラさん
「サイドナヤ刑務所の中を歩いているなんて信じられない。それも、自由に」

各フロアに雑居房がいくつも並んでいた。

アブドラさん
「いろんなことを思い出します。ここで死んだ友人たちのことも。みんな死んでしまった、ここで」

アブドラさん
「この部屋です。寝るときにはこれを使っていました」

Q.この部屋にはどのくらいの人が?

アブドラさん
「25~27人いるときがありました。食事で使っていた物です。食べ物を持ってきた兵士がドアをあけると『止まれクソ野郎!』と。そして止まると、連中が中に入ってきて、食べ物が入った容器を蹴とばすのです。食べ物は飛び散って『食え!この犬野郎め!』と言われます」

地下には独房がある。

増尾記者
「ライトを消してみると、もう完全に真っ暗です」

アブドラさん
「兵士がドアを開けたら、こんな体勢をとらなくてはいけません。目は開けてはならず、兵士は入ってくると、何度も殴ります。何度も何度も。それでも声を出してはいけないのです」

アブドラさん
「これが私たちの食べ物です。ここは光がないので、何を食べているのか見えません。食べ物の中に虫がいると、一緒に食べることになります。虫がいると嬉しくなりました。タンパク質ですから」

絞首刑に使われた器具も残っていた。繰り返される拷問や栄養失調で多くの人が息絶えていったという。

シリア全土の刑務所内で5万2千人以上が拷問などで亡くなったとみられている。

アブドラさん
「魂を奪ってくれと祈っていました。もう生きていたくなかった」

帰らぬ家族を捜し求めて…

刑務所に残された資料に、まだ帰らぬ家族の手がかりを探し求める人たちも…

増尾記者
「みなさん携帯のライトを照らしながら、1枚1枚見ているわけです。何か自分の家族の行方につながるものがないか」
「少し歩くだけで、自分たちの話を聞いてほしいんだと、いろんな人が写真などを見せてきて、いかに非人道的なことが行われていたのかを彼らも知っているからこそ、早く見つけ出したいという悲痛な声があふれかえっています」

発見された遺体が数多く運び込まれる病院。ここにも家族を探し求める人たちが集まっていた。

増尾記者
「ここが遺体が安置されている部屋です。こうした冷蔵庫ひとつひとつに遺体が入っているようでして、みなさん開けて確認しています。奥には、さらに多くの遺体が安置されており、5〜6畳ほどのところに、10人以上のご遺体が安置されています」
「奥にある男性の遺体の左肩のあたりは、丸く皮膚がえぐりとられています」

病院の外壁にも身元不明の遺体写真が並んでいた。

増尾記者
「いずれもきわめてやせ細っていたりとか、手が縛られているような遺体もあります」

家族を探している人
「弟、この子の夫、兄弟2人を探しに来た。でもどこにいるのかわからない。これが彼の写真です。お願い、見つけたら教えてください」

化学兵器 無差別殺害の現場で

アサド政権が国際的な批判を浴びたのは、反体制派が支配する地域で、化学兵器を使った無差別的な市民攻撃を行ってきたことだ。

その化学兵器が使われた現場の1つに向かった。

増尾記者
「完全に破壊しつくされています。この町では化学兵器も使われたということです」

ダマスカス近郊のザマルカ地区。内戦下で別の街に避難していたイサーム・アッラッハームさん(48)。11年ぶりに自宅に戻ってきたが、まさにこの家で、幼い子どもを含む自分の家族が化学兵器による攻撃で亡くなった。

アッラッハームさん
「この世の終わりのようでした。家には10人くらいの(救急隊員の)遺体もありました。救急隊員が家に救助に入る度に、次々と命を落としたのです。私は口から泡をふき瀕死の状態で発見されました」

あの日、化学兵器による攻撃があるとの情報があり、ガスを吸い込まないよう、家族はみな、ぬれたタオルを口に当てていた。午前2時半頃、様子を見に外に出たところ、砲弾が落下する音が聞こえた。

アッラッハームさん
「ここに大きな木がありました。私は目が見えなくなっていて、木に当たって地面に倒れました」

意識不明の状態が3日間続き、目がみえるまでに1週間かかった。生き残ったのはアッラッハームさんと娘1人だけだった。

自宅の床で、傷ひとつなく命を落とした家族の姿は、当時、ニュースでも報じられた。

Q.何歳ですか?

アッラッハームさん
「4歳でした。私は、ダマスカス郊外の病院で、床に並べられた1000人以上の子どもの遺体の中から自分の息子を見つけました」

自分で埋葬できたのは息子だけで、5歳と1歳の娘やほかの家族は、集団で埋葬されたという。

政権崩壊の瞬間を、家族と一緒に迎えたかった。

アッラッハームさん
「複雑な気持ちです。悲しさと嬉しさの両方があります。でも悲しい気持ちのほうが大きいです。シリア人同士の殺害に関わった全ての人が、裁かれることを願っています」

“アサド派への報復”怯える人々

アサド政権に対する憎しみが自分たちに向かうことを恐れる人々がいる。

増尾記者
「この辺りはアサド前大統領と同じ宗派の少数派・アラウィの方々が住む地区。他の中心部よりも、人の姿が少ないように見えます」

ここは、ダマスカス西部にある、住民の7割がアラウィ派の地域だ。

アラウィ派は、アサド前大統領が属するイスラム教シーア派の一派で、人口の1割ほどと少数派だが、軍や警察などの権力の中枢に多く登用されてきた。そのため、怒りの矛先が、アラウィ派へ向かっているのだ。

アラウィ派の街でも、アサド前大統領のポスターは破られ、シャッターに描かれた前の政権下での国旗は、ペンキで塗りつぶされていた。アラウィ派の人々からは不安の声が相次ぐ。

アラウィ派の住人
「私たちが今恐れているのは報復です」
「報復が行われると思いました。子どもを連れて故郷に避難していました。恩恵を受けていたのはアサド家やその親族などごく一部で、残りのアラウィ派はみな飢えていました」

ダマスカスの旧市街。政権崩壊から1週間あまりの市場は、朝から活気づいていた。

増尾聡記者
「反体制派がこれまで使ってきている旗がずらりと売られています」

市民
「国が良くなってほしい。観光客やすべての宗派の人を歓迎します」

将来のシリアへの期待の声が多く聞かれた。

街では治安維持にあたる迷彩服を着た戦闘員の姿が目立つ。彼らは政権を倒した「シリア解放機構」のメンバーだ。

増尾記者
「戦闘員はこの国では今、英雄視されているので、市民が駆け寄り写真撮影を頼んでいます。一方で彼らの元々の母体はイスラムの過激派であり、今後この国をどう統治していくのかが非常に注目されています」

今後のかじ取りを担うのが、「シリア解放機構」の指導者・ジャウラニ氏。かつては過激派組織「アルカイダ」系のメンバーだ。

「シリア解放機構」は国連などからテロ組織に指定されているが、政権崩壊時の声明では…

「あらゆる宗派のシリア人にとって、自由で独立したシリアが永遠であることを願う」

放送大学高橋和夫名誉教授
「今のところは、新しい指導者は、全宗派のためのシリア、すべてのシリア人のためのシリアだと。そのメッセージはいいが、主要メンバーを見ると、みんなスンニ派、アラブ人ですよね。クルド人はいないし、キリスト教徒はいない。もう少し人事の面でより包含的な、みんなを抱え込むというシステムを作らない限り、各宗派の納得は得られないと思う」

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